【愛の◯◯】あえて顔写真を所望

 

推薦入試は間近。でも、校内スポーツ新聞は作り続けている。

新聞を出し続けるためには、わたしが抜けてしまうわけにはいかないので。

加賀くんなんかに部を任せられないでしょ。

責任感もあり、わたしは部の活動教室に行き続けている。

 

そうはいっても、放課後に面接練習があったりする日は、どうしてもわたしが不在になる時間ができてしまう。

「……そういうときは、1年生トリオに、がんばってほしいな」

きょう、部活始めに、そう告げた。

 

「戸部先輩のぶんも、がんばります」と会津くん。

「任せてください」とソラちゃん。

「お菓子用意して、あすか先輩の帰りを待ってます!」とヒナちゃん。

 

3人とも、頼もしい……。

 

「ありがとう。加賀くんの見張りも、お願いね」

活動教室の教卓から、将棋盤の前に陣取っている加賀くんに視線を送りつつ、そう言った。

型通り、加賀くんは不機嫌そうになって、

「見張りってなんだよ、見張りって」

わたしはニヤけながら、

「悪い子だから、キミは」

「は!? 意味わかんねえ。なーにが『悪い子』だよっ」

「問題児でしょ」

彼はピキピキといらだちながら、

「おれだって……ちゃんとしたいと思ってるよ」

「なにを? なにをちゃんとしたいのかな??」

「それは……決まってる」

「なにが、決まってるの??」

なにも答えない彼。

いつも以上に、素直さがない。

――なんだかわたしは、微笑ましい気分になって、

「加賀くん。ちゃんとする、はじめの一歩として、わたしといっしょにサッカー部の取材に行かない? かわいくてステキなマネージャーのお姉さんの話が聞けるよ」

彼は顔をしかめながら、

「……拒否だ」

「どーして。かわいくてステキなマネージャーのお姉さんに会えるんだよ? 3年の、大垣まりあさん」

「……会えるから、なんだってんだよ」

「興味、わかないの?」

「マネージャー目当てで、取材に出向くなんて……どうかしてるだろ」

 

――そっかぁ。

大垣さんには、釣られないかー。

上級生女子のなかでも、徳山さんしか、眼中にないみたいだね。

徳山さんに、一途なんだ。

意外と? 加賀くんって、純真。

 

「――じゃあ、無理にわたしの取材につきあわなくてもいい。ごめんね、ヘンなこと言って」

「――なんで謝る」

「キミの気持ちを……考えないで、言っちゃってたから」

「気持ち……?」

 

もし、徳山さんが、サッカー部のマネージャーだったら……加賀くんは、取材に飛びついていただろう。

そういうこと。

 

× × ×

 

というわけで、わたし単独で、サッカー部の練習場に行った。

 

大垣さん、ほんと、かわいい子。

面と向かうと、透き通るような肌の白さが、まぶしく光ってるような印象を受ける。

うらやましいと思いつつ、取材のメモをとる。

うらやましいけど、嫉妬はしない。

そこまでは行かないのが、わたしの良心。

ただ……。

 

× × ×

 

校舎の外を歩いていると、窓ガラスの向こうに、見覚えのある女子生徒が。

その女子生徒の動きを眼で追っていくと、校舎から出てきた。

 

――やっぱり。思ったとおりだ。

 

「徳山さ~~ん!」

 

わたしから呼びかける。

気づいて、立ち止まる徳山さん。

 

「あすかさんじゃないの」

「よく会う気がするね、放課後に」

「そうね。どうしてかしらね。なんだか、偶然的というより、運命的よね」

「あはは……そうかも」

「取材からの、帰り?」

「そうだよ。サッカー部」

 

わたしが「サッカー部」と言ったとたん、沈黙を始める徳山さん。

にわかに、不穏。

 

「……大垣さんに、話を聞いたのね」

沈黙を破る彼女の声に……ビクリとなる。

「う、うん。大垣さんが、窓口だから、取材の」

「……顔写真は、つくの?」

「えっ」

「取材記事に、大垣さんの顔写真を、添えるかどうかってこと」

「それは……んーっと」

「普通は添えるのよね」

「そ、そうでもないよ、添えないときもあるよ」

「――今回は? 今回の記事は?」

「……どうしよっかな」

 

ここまで、顔写真の有無に、こだわるってことは。

……わたしはいま、徳山さんの強烈な『情念』を感じている。

その『情念』を、言い換えるとしたら……。

 

「徳山さん……大垣さんの顔写真が載る記事は、読みたくない?」

とわたしは思い切って言ってみる。

「……」

答えてくれない徳山さん……。

「な、なんとなく、わたしには、わかっちゃって。つまり、つまりね、徳山さん、大垣さんのかわいさに、ジェラシー、みたいなの、感じちゃってるのかなー、って」

「……」

「今回は、やめといたほうがいいかな、顔写真載せは」

「……いいえ。わたしは、逆がいいわ」

「え、え、逆って……つまりは」

「顔写真、載っけてほしい。大垣さんの顔写真つきの記事が読みたい」

「なんで……? 苦手なんでしょ……? 大垣さんのこと」

「ええ。苦手だし、嫉妬してる」

「だったら、どうして」

「見せつけられたいのよ……大垣さんの、かわいらしい顔を」

「み、見せつけられたい!?」

「そのほうが……燃えるでしょ」

 

燃える、って、いったい……。

どういう対抗意識なの、徳山さん!?

 

彼女は――不敵に笑うばかり。