「きのう、流さんにイジワルしちゃった」
「イジワル? どんな」
「色々と」
「…詳細は教えてくれんのか」
「あなたに教えたってしょーがないでしょ」
「ハァ……。相変わらずだな、おまえも」
「えへへ」
「……ま、流さんをからかう元気が湧いてきたってことは、回復に近づいてる証拠だろ」
「――うん。あなたの言う通りだと思う」
純和風の朝飯をおれと愛は食べている。
愛が、箸を置いて、
「7月も終わりね」
と言う。
「8月は、もっと気分を上昇させていかなきゃ」
「焦るなよ。ゆっくり少しずつ、着実に、だぞ」
「わかってる」
――右腕で頬杖をつく愛が、おれの顔を見つめてくる。
いきなりなんだよ。
「ど、どうした」
「まだ言ってなかったんだけど……」
「??」
「わたしの両親が――日本に来るって」
「……マジか」
「マジよ」
「緊急帰国、ってやつか……」
「わたしの調子が心配だから、って」
そりゃあ……そうなるよな。
「この邸(いえ)に泊まり込みの予定なんだって。たぶん……家族会議になると思う。明日美子さんも交えて」
愛の今後のための……家族会議か。
おれは、愛と眼を合わせ、
「その家族会議、おれにも参加させてくれんか」
と言う。
そしたら、
「――言うと思った。アツマくんなら」
と愛。
立ち上がって、食器を流しに運びながら、
「おとうさんもお母さんも、『ダメ』とは言わないと思うわ。むしろ、アツマくんに是非とも同席してほしいのかも」
と言う愛。
× × ×
おれの部屋でおれは考えた。
家族会議に参加するのなら、どう振る舞うべきか。どう立ち回るべきか。愛の親御さんになにを伝えればいいのか。
現状打破。
愛が、ふたたび前に向かって歩き出すためには――。
× × ×
おれの部屋に愛がノックもせずに入ってきた。
「一度くらいノックしたって良かろう」
「ごめん。切羽詰まってて」
「え??」
すぐに床に腰を下ろしたかと思うと、体育座りみたいな姿勢になって、からだを丸める。
おいおい。
どーした?
「……ちょっと、考え込んじゃって。じぶんの部屋に籠(こ)もるのが、耐えきれなくなって」
「ヘルプが、欲しいと?」
「……そんなとこ」
……。
「とりあえず、こっちに来ないか、愛」
「ベッドに座れってこと??」
「おれは、おまえの間近で、おまえの話が聴きたい」
愛は、いたって素直に、
「――わかったわ」
と言い、腰を上げて、おれのもとに向かってくる。
× × ×
『じぶんは甘えてるだけなんだ』という考えが消えないらしい。
「……そういう意識が何度も何度も浮かび上がってくるの。じぶんでじぶんを責めるのをやめられないの」
自責の念、ってやつか。
「――まず、ハッキリと言うが。おまえはぜんぜん、甘えてるだけとは違うから」
「……」
「おまえはおまえを大事にするべきだし、おれだっておまえを大事にしてやる。おまえはおまえを責めなくていい。じぶん自身に優しく向き合えばいい。
……じぶん自身への向き合いかたが、わからねえときもあるだろう。そんなときは、おれが、ちからいっぱい、いたわってやる」
「いたわってやる……って、どうやって」
「おまえのいいところを、100個ぐらい言ってやる」
「ひゃ、100個!?」
「あるだろ……100個は」
黙りこくってしまう愛。
そんな愛の背中に、そーっと手を置いて。
「もし――もし、おまえに対して、『甘い!』とか言ってくるヤツが居たなら。
そんなヤツは、おれが、ブッ飛ばしてやるよ」
「アツマくん……。」
「おれは本気で言ってる。腕力、自信あるしな」
「……。」
「あとさ。
つらいときは、『つらい』って――いつでも言ってほしい」
「……それは、わかってる」
「絶対だぞっ」
「うん。絶対、そうする……。
ありがと……アツマくん」