わたし、小路瑤子(こみち ようこ)!
桐原高校3年生!
身長157センチ!
体重? スリーサイズ? 教えるわけないでしょ!?
部活は放送部。
部長の猪熊亜弥(いのくま あや)に次ぐポジションにいるはずなんだけど、副部長ではない。
放送部は代々、副部長を置いていないんだってさ。
ヘンなの。
不満。
副部長になって、名実ともに、亜弥との放送部2枚看板になりたいのにぃ。
野球でいえば、読売巨人軍のON砲……なんて、たとえが古すぎるか。
古すぎるんだけど、古すぎなのはいいとして。
これは直談判(じかだんぱん)だな。
だれに? 顧問に。
顧問の先生に「お願いだから、副部長を置いてくれませんか!?」っておねだりするの。
わたしも役職が欲しいよ。
副部長っていう役職に就(つ)けたら、自己肯定感うなぎのぼりじゃん!?
…これ以上自己肯定感上げてどーすんだ、っていうツッコミは要らないよ。
× × ×
顧問の先生に掛け合ってみるのも良かったんだけど、きょうは「野球部行き」を優先させた。
「野球部行ってくるけどいい?」って部長の亜弥に言ったら、もう諦めてしまっているのか、即座に「勝手に行ってください」という返事をくれた。
晴れて部長公認となり、わたしは勢いよく放送室を出て、勢いよく校舎を出て、勢いよく野球部グラウンドまで進んでいった。
× × ×
ミーティングの終わりかけ。
もうすぐ、本日の練習が終わるのだ。
監督を囲む部員たちの端っこに、ウッツミーがいる。
ウッツミー。
内海くんだから、ウッツミー。
埼玉西武ライオンズの某ピッチャーと同じ苗字だ。
…ウッツミーはピッチャーじゃなくて、内野手だけどね。
無事、きょうの練習も解散となった。
ウッツミーがトボトボと、グラウンドから出てくる。
そのスキを見逃さず、
「お~い、万年補欠!!」
と、わたしは絶叫する。
もちろんもちろん、ウッツミーに対して「万年補欠」と言ったのである。
わたしが絶叫したから、他の部員はいったん振り向いたけど、慣れたもので、すぐに向き直って帰っていく。
取り残されるのはウッツミーだ。
苦々しい顔で、その場に立ち尽くしている。
「万年補欠」たるウッツミーにわたしはアイコンタクト。
――やがて、わたしのほうに彼は歩み寄っていき、
「いいかげんにせーや」
と苦々しく言ってくる。
「いいかげんにしないよ」
あしらうわたし。
「小路。おまえはほんとうにバカだな」
えー。
「場外ホームラン級のバカだ」
なにそれ。
「なにそれ。場外ホームラン級って?? 出典は」
呆れた流し目のウッツミー。
わたしの問いをスルーですか。
呆れ通しのウッツミーは、
「なんで、さっきみたいに場外ホームラン級のバカをかます奴が、学業成績では常にトップクラスなのか……」
と疑問を呈する。
「トップクラスっていっても、外江(とのえ)くんほどじゃないじゃん」
わたしがこう言うと、
「まあ…外江は別格として。それでも、おまえも文系だったら、学年でベスト10以内に余裕で入ってくるだろ」
「…ホメてくれてるの?」
「べつに」
「ワァー、ひどい」
「気色悪いリアクションすんなっ」
「ひどすぎ! どこが気色悪いってゆーの」
「――おまえさ」
「なに? 今度はなに??」
「大阪大学、A判定らしいな」
「ゲゲッ!! なんであんたが知ってんの」
「まーたそうやって気色悪いリアクションを繰り返す……」
「ウッツミー、人に聞こえるように『大阪大学』って言わないでよお」
「なぜに?」
「恥ずかしいから。志望校は、こころのなかにしまっておきたいのよ……」
「意味わからん」
「わかんなくてもよろしくってよ」
「……お嬢さまことば?」
成り行きで、わたしの志望校のことに話が及んだけど。
進路といえば。
「ウッツミー。
夏の甲子園の予選――もうすぐだよね」
「ああ」
「この夏が終わったら――あんた、どうするの?」
「はぁ??」
「し・ん・ろ。野球部引退後の進路だよ」
「進路」という二文字が出たとたん。
ウッツミーが……黙りこくった。
「ちょ、ちょっとお、なんでそんなに急に雰囲気変わっちゃうの」
「……」
「まずかった? わたしの『どうするの』発言は」
「……」
「な、なんか言いなよ」
「……」
「お、おいおい、ウッツミー」
完全に黙っちゃった……。
どうしよう。
団扇(うちわ)で……あおいでみようかな。