【愛の◯◯】伝説の樹の下の伝説

 

わたし、小路瑤子(こみち ようこ)!

きょうもよろしく!!

 

× × ×

 

さてさてさて、例によって羽田利比古くんを放送部のお部屋に招いたわけである。

 

常連という域を通り越して定着した羽田くんに、わたしは話しかける。

 

「羽田くん。暑いね」

「…だね。暑いよね」

「ところで」

「え?」

「――10月の学祭(がくさい)、楽しみだよね~~」

「が、学祭!? 学校祭のこと!? た…楽しみ、っていっても、ずいぶん先のことなんでは…」

「いいじゃん、ずいぶん先のことだって」

「ど、どうして、このタイミングで学祭のことを??」

「わたしら3年にとっては最後の学祭なんだし、いまの時点から『気分』を高めておくのも、いいんじゃないかなって」

「気分?」

「そ。気分」

「気分って、どんな…」

「学校祭気分だよ」

 

タハー。

呆れちゃってるなー、羽田くん。

例によって。

 

見かねた様子で、猪熊亜弥が、

「どこまで先走るんですか、ヨーコは」

とたしなめてくる。

「まるで……間近に迫ったコンテストのことは、どうでもいいみたいに」

あー、やっぱりコンテストのこと、指摘されちゃったか。

「学校祭は10月ですけど、コンテストは今月なんですよ!? こ・ん・げ・つ!!」

迫りくる勢いの亜弥。

対するわたしは言う。

「いまさら、コンテストのことでジタバタしたって、しょーがないでしょ」

「あいも変わらず、ありえない発言ばっかりなんだから……ヨーコは」

「怒ってる?? 亜弥」

「かなり怒ってます」

「ひえー」

タメ口モードになる寸前まで来てます」

「げっ、そんなに」

 

ここで羽田くんが、

「猪熊さんは……怒り心頭になると、タメ口モードになるのか。把握できて、よかった」

と言う。

 

「は、把握、とは? …羽田くん」

戸惑いの亜弥。

彼は言う。

「猪熊さんっていう人間の仕組みが――把握できたってこと」

…亜弥は瞬時にテンパり始めて、

しっ、仕組みってなんですか、仕組みって!!

と叫ぶ。

 

× × ×

 

「……ごめん。不用意なこと、言ったかも」

亜弥に謝る羽田くん。

肝心の亜弥は、スネてしまって、なんにも言わない。

 

微笑ましいやり取りを堪能できたわたしは、

「羽田くん羽田くん」

と、彼の注意をこっちに向かせて、

「ふたたび、学祭の話なんだけど…」

と振っていく。

それから、

「…知らない? 羽田くんは。ウチの学祭にまつわる『伝説』」

「伝説?」

「知らないって顔だねえ」

「……」

「この学校、七不思議だとか、いろいろな『伝承』があるんだけど――学祭にまつわる『伝説』も、その一環」

「……ふうん」

「ちょっとちょっとおー。もうちょい興味を示してよー。無関心じゃダメっ。おやつ抜きにしちゃうんだからねー」

呆れた顔の羽田くん。

ほんとにもう~。

「ほら。

 学校のなかに、『伝説の樹』っていう異名の樹があるじゃん??」

「……聞いたことはある」

「聞いただけかー、羽田くんは」

「うん、聞いただけ」

「あのさ。

 ウチの学祭って、2日間にわたって開催されるじゃん?

 …2日目のね。

 2日目の、午後3時以降に……『伝説の樹』の下で告白した生徒は、相手と結ばれるっていう、そんな伝説があるの!

 これが……桐原高校学祭の、『告白伝説』

 

ノリノリで、伝説の樹の下の伝説について語ったわたし。

だったのだが。

 

ノリノリで語ったわたしとは対極的に……羽田くんと亜弥の反応が、渋い。

 

あれれっ。

 

 

「ヨーコ」

「……亜弥?」

「その伝説は、どこが面白いんですか? ハッキリ言って、ありきたりに過ぎると思うんですけど」

「ええぇ……」

 

「小路さん」

「なっ、なにかな、羽田くんっ」

「ぼくも、猪熊さんとほとんど同じ意見だな。ウチの学校の伝説にしては、オリジナリティに欠けてるよ。…どっかで聞いたような話じゃないか」

 

わたしは……羽田くんを、キッと睨みつけ、

ヒドイよ羽田くん

と罵倒して、それからそれから、

これだから、モテ男はっ!

と……脈絡のない罵倒を……繰り返していく。