『おはよう、アツマくん』
『おーおはよう、愛。
どうだ?
元気か?
マンション生活は、順調か?』
『……』
『お、おいっ』
『だ、だいじょうぶっ、順調よ、順調だから』
『…怪しくねえか??』
『怪しまないでもいいから。平気、平気』
『ホントかいな』
『ホント、ホント』
『…まあ、よかろう。
朝はちゃんと、起きるんだぞ??』
『あなたこそ』
『ドキッ』
× × ×
『――ドキッ、じゃないわよ。
就職活動、終わってないんでしょ??
生活リズムをきちんとすることが、いい成果に…』
『いや、おっしゃる通り』
『なら、きちんとして』
『厳しくもありがたきお言葉、ありがとう』
『デリケートなことかも、しれないけど……。
内定、出たの? アツマくん』
『……痛いとこを突くなあ』
『痛いとこを突かれた、ってことは――』
『ああ。いまだ、無い内定クンだ』
『……』
『ぜ、絶句しないでくれや』
『……アツマくん、』
『はい……』
『就活の話は、切り上げましょう?』
『む……』
『なんだか、こっちまで、息が詰まってきそうになっちゃうもの』
『……』
『ね。そうしましょうよ』
『……。
激励の言葉のひとつやふたつぐらい、くれたっていいのに』
『な……なによ、それ。』
『だから。
まだ、『がんばれ』の言葉ひとつ、言ってくれてねーじゃねーか、おまえ』
『こ……こっちだって……気をつかってあげてるのっ。理解してよっ』
『気をつかった結果が、就活話のブッタ切りか』
『どうしてそんなこと言うの……?』
『…………』
『…………』
× × ×
『――あのね。
ゴールデンウィークのことで…伝達事項』
『は?』
『伝達事項だってば! …聴いてよね』
『…早く言え』
『……。
お邸(やしき)に、『帰省』するの、元々は、4月29日って言ってたけど』
『けど?』
『……』
『アホが。妙なところで黙りやがって』
『……』
『どうせ、アレだろ? 『帰省』を、先延ばしにしたいんだろ』
『…どうしてわかるの』
『雰囲気で。』
『雰囲気、って――』
『おまえなー。
もうちょい早く伝えろよー、そういうことはよぉ。
マンション暮らしで粘ってみたいっつー気持ちは、わからんでもない。
中野は中野で、楽しかろう。
おまえなりに、ひとり暮らしの目標設定なんかも、してるんだろーし。
こだわりたくもなるよな? ひとりで居続けることに。
――でもよ。
なにより利比古が――おまえの弟が、おまえの帰りを心待ちにしてるだろうがよ。
あすかだって心待ちにしてる。おまえのホントの妹みたいなものだしな。
母さんだって、流さんだって。
……いきなりスケジュール変えます、なんて、肩透かしも肩透かしだろ。
ガッカリしちまう人間が、たくさんいるんだ。
おれだって、そうなんだぜ?
わかってるか、愛? そこんところを、よ』
『……』
『……なぁ』
『…………切らせて』
『――は!?』
『電話…………切るっ、いったん』
『お、お、おいおい、そんなにおれの説教が……』
『アツマくんのせいじゃない。あなたのせいで切るんじゃないの』
『おまえ――』
『ごめんなさいっ。
頭、冷やすから。わたし』