はい。
アツマです。
きょうもよろしく。
はい…。
× × ×
1月2日なわけだ。
今年も、始まったばっかり。
おうちでのんびりゴロゴロしようではないか…と思っていた、矢先。
ガンガンガン、と、おれの部屋のドアを叩く音。
ずいぶん乱暴なノックだが、愛がノックしているとしか思えなかった。
「うるせーぞ」と言いつつ、ドアを開けてやる。
入ってくるなり、
「アツマくんアツマくん、」
なんだよそのワクワクに満ちた眼は。
「あなた、明日美子さんに大量のお年玉をもらったんだって?」
ぐっ。
「たくさん買い物ができるじゃないの」
ぐぐっ。
「おうちに引きこもってる場合じゃないじゃないの」
美人が、上目づかいで、
「わたしと、新春初デート…しましょうよ」
と言ってくる。
「デートで、なにすんの」
「バカ」
「る、るせぇ」
「本とCDを買うのよ」
「…本とCDなら、いつでも買えるだろ」
「ほんとうにそう思ってるの!? あなたってほんとうにバカね」
「『バカ』も3度までだぞ……愛よ」
「なによ、まだ2度しか言ってないじゃないの」
「……」
× × ×
で、都心の大型書店。
まずは、本らしい。
「ねえアツマくん、『新潮文庫どれだけ読んだかゲーム』しない? 新潮文庫の棚を見ながら、読んだことのあるタイトルを言っていくの。もちろん、多かったほうが勝ち」
「おまえ、新潮文庫がどんだけあると思ってんだ」
「岩波文庫でもいいんだけど、お正月で、時間がたっぷりあるから」
「……やらん」
「え、どうしてよ」
「ほかのお客さんの迷惑になる」
「どうしてそんなにマジメなの」
「おまえがフマジメすぎるんだ」
「……そっか」
「反省しろ」
「……。
大学生なんだから、文庫棚は、もう卒業かもね。
ハードカバーを買いましょうか、アツマくん」
× × ×
いままで買ったこともないようなお値段の本を買わされた。
「これ、もう、本のお値段じゃないような気がするんですけど……」
「なんにも知らないのね。大学3年の冬休みにもなって」
「お、おまえはなにを知ってるっていうんだ」
「相場。」
「なんの」
「本の。」
「き……金銭感覚こわれる」
「その本、アツマくんの専攻分野に、少なからず関係があるわよ?」
「ホントかいな」
「とぼけないでよ」
「と、とぼけてねーよ」
「邸(いえ)に帰ったらさっそく読むのよ」
「まさか、三が日のうちに、読み終われとか…」
「あなたなら読破できる。信じてる」
× × ×
気が重いまま、黄色のイメージカラーでおなじみのCDショップに、引きずられていく。
「CD買う気が萎えてきた」
「なにそれ!? わたしの気持ちまで萎えさせる気なの!?」
「そもそも、CDの時代は、過ぎてしまった気もするし」
「あなたはCDショップまでやってきていったいなにを言っているの」
……ほっぺたまで引っ張らなくていいだろ。
× × ×
「ちょっと!! どこ行くのよ!! そこはアニメソングの棚でしょ!?」
「……おまえはいま、全国4000万人のアニメファン全員を敵に回した」
「よ、4000万って、なによ」
「まあ4000万は適当だが、それにしてもだ。アニメソングをはなっからバカにするのは、問題だな」
「わたしはべつに……」
「さいきんのアニソンのクオリティはすげーんだぜ」
「たったとえば」
「このキャラクターソングアルバムが名盤なんだ」
「……どうしてこの女の子たち、眼がこんなに巨大なの?」
「おれの話を聴け」
「……あまり聴きたくない」
「なぜか? おれがオタクすぎて、キモいんか?」
「――オタクが憑依(ひょうい)してる感じがする、いまのアツマくん」
「憑依してるかもな」
「――戻ってきてね」
「戻れるだろうか?」
「そんなに、7200円の本を買わされたダメージが、大きかったわけ?」
「ぶっちゃけな」