「アツマくん、きょうは短縮版だよ」
「え……短縮版、って」
「できれば、1000文字以内で終わらせたいわね」
「はぁ」
「はぁ、じゃないっ! 気合入れてよ」
「でも短縮版なんだろ?」
「関係ない関係ない」
「……で、おれたちはなにをすればいいんだ」
「読書の話をしましょうよ」
「え~っ」
「いやがらない!」
「――アツマくん、あなたトルーマン・カポーティの『冷血』を読んでいるそうじゃないの」
「まあな」
「わたしもむかし読んだわ」
「それがどうした?」
「あなたも早く読み切ってよ」
「たしかに、な。読み切る必要は、あるんだこれが」
「なにそのヘンな言い回し」
「や、レポートの課題なんだよ、これ」
「たいへんじゃないの!! 早く読まないと、単位が逃げていく」
「そうはいってもなあ」
「しかも、読むだけじゃダメなんでしょ!? レポート書く時間もとらないといけないんでしょ」
「おまえがあわててどうする」
「――今年中に、読み終えてよね」
「指図されなくったって」
「――できる?????」
「そんなにクエスチョンマーク重ねんな」
「だって、心配」
「愛。おまえはちょっとは自分の心配もしろ」
「あっ」
「おれはさ。
自分のことは、自分でするから」
「……ホントに?」
「だから。おまえはおまえのことをがんばれよ」
「……。
ねえ、
わたしの部屋で、いっしょに勉強しない?」
「いいよ」
「アツマくんは、勉強という名の読書…」
「読書という名の勉強、ともいう」
「どっちだっていいじゃないの」
「どっちだって正しいよ」
× × ×
「――落ち着きがないわね」
「そんなソワソワしながら読んでるかー? おれ」
「もっと集中してよ」
「これ以上どう集中すればいいのか」
「もしかして――わたしの部屋に来たから、落ち着きがないとか?」
「バカいうな」
「いってない」
「この部屋ならなんべんだって来てる。知り尽くしてる」
「知り尽くしてるって――」
「ことば足らんかったな。もちろん、おまえが見られてイヤなところは、見てないぞ」
「いっいまさら、あなたに見られたくないところなんて……」
「あるだろ、タンスの中とか」
「……スケベ」
「机の引き出しとか、勝手に開けてないから。……安心してくれ」
「……誠実スケベ」
「はあぁ!? 意味不明な、なんだよその日本語」
「――本棚やCD棚だったら、いくらでも見せてあげるんだけど」
「……けど?」
「もっと――見たいところある? わたしの部屋で」
「なに言い出すか」
「積極性がないなあ」
「悪いかっ」
「受け身になんないでよ。わたしとあなたの仲でしょう?」
「そんなに顔近づけてくんなっっ!」
「む~」
「あざとい表情しやがって……」
「あざといってなによっ、せっかく距離詰めてるのに」
「接近しすぎる」
「接近しすぎるぐらいがいいんじゃないの、不都合なんてないでしょ」
「……おまえ……なにがしたいんだ」
「キス」
「!?」
「……でも、すると思った?」
「おまえのほうがよっぽどスケベだよ!! ったくもう!!!」
「収拾、つかなくなっちゃったね」
「愛のせいだ」
「文字数もとっくに1200超えてるし」
「それも愛のせいだ」
「収拾つかないついでに……」
「どーした、もっともっとイチャイチャしたいってか」
「どうしてわかったの……?」
「ほんとほんと、おまえはどーしよーもない」
「……」
「なあ」
「?」
「22時まで無駄口叩かず受験勉強することできたら、なんでもお望み通りにしてやる」
「えっ……アツマくん……エロい」
「もう一度『エロい』って言ったら、反省文な」