【愛の◯◯】絶好調。短パンが適当だったこと以外は。

 

無難に授業を受けて、帰宅した。

 

夜。

例によって(?)、アツマくんの部屋をノックする。

 

「アツマくん」

「なに」

「勉強」

「――勉強が、どうかしたか?」

「わたしが勉強道具を抱えてるのがわかんないの?」

「アッほんとだ。受験勉強かー」

ほんとにもう……。

 

× × ×

 

「わざわざおれの部屋まで来て勉強すること、増えたよな」

「ひとりでやるより、あなたがいてくれたほうが、勉強がはかどるのよ」

「マジで」

「――そういうもの。」

 

午後8時。

 

「あなたもダラケてないで、本でも読んだら?」

「んー……。読書はちょっと、遠慮かな」

「どうして」

「ほら――きのう、本読んでたら、ヘンな思考回路に、なっちゃったし」

 

まだ、尾を引いてるのかしら。

きのうアツマくんが、こころの調子を崩した。

崩したきっかけが、難しい本が読み進められなくてストレスを感じたこと、らしい。

 

「読書アレルギーみたいになっちゃってる? ひょっとして」

「そうかもしれん……ま、じきによくなるさ」

「無理しなくたっていいのよ。病み上がりなんでしょ」

「愛は優しいな」

「たまには、ね」

 

「じゃ、おれはスマホで音楽でも聴いてる」

「いいと思うわ」

 

ワイヤレスイヤホンを耳に装着するアツマくん。

 

「いつの間にそんなイヤホン買ったの」

「うらやましいか?」

「ワイヤレスって高いんでしょ、お値段」

「まあそれなりに高かったな」

「そんなお金がどこに…」

「バイト代が余ってるんだよ」

「――アツマくんはガサツだから、もらったバイト代はすぐに全部使い果たしてると思ってた」

「ひ、ひでぇ」

「意外と堅実なのね」

「あすかのみならず、愛にも『ガサツ』と言われるとは……」

「あすかちゃんにも言われたかー」

「なんだそのイジワルそうな笑いは」

バカにすんな――と言わんばかりのアツマくん。

「はいはい」

「フンっ」

「――それだけ突っぱねられるってことは、元気が戻ってきたって証拠じゃないの」

「るせー。おまえは早く勉強しろ」

「はいはい♫」

「まったくおまえってやつは……」

 

× × ×

 

3教科で、受ける。

私立文系で、教科数が少ない分、試験問題の密度は高くなる。

つまり、3教科とも、みっちり勉強しておかなきゃいけないってこと。

3教科、どれも、極められれば――受かる。

 

国語と英語と、それと世界史だ。

 

世界史を勉強していると、『この知識は大学の勉強で役に立ちそうだな』と思うことが、しばしば。

おもしろい。

ちなみにこのブログの管理人さんの得意教科は世界史だったらしい。

『山川の詳説世界史Bをボロボロになるまで読んだ』とか、豪語していた。

『大学に入ったら、全部忘れた』と付け加えていたけど。

『たぶん、高校時代は、世界史に関しては、キミより得意だったと思うよ』という自慢を聞かされたこともある。

なんの根拠があってですか? と問いただしたら、

『そりゃ、ボクが管理人だからだよ』っていうどうしようもない答えが返ってきた。

過去の栄光に……すがりつかないでくださいね。

 

 

「はぁ、脱線しちゃった」

「え、なんだなんだ、愛」

「ごめん。メタフィジックな話よ」

「またかよ」

「いつもじゃないでしょ」

「メタな話も、伝統芸になってきてんな」

「そうね……」とわたしは苦笑いして、

「ちょっとわたし休憩する」

 

「なあ、肩がこらないか?」

「わたしはそんなに。からだ、鍛えてるから」

「関係あるかなあ、体力と」

「アツマくんだって、そんなに、こらないんでしょ?」

「そういえば肩や背中がガチガチになるのは、あんまりないなあ」

「疲れ知らずってことよ」

「おまえもな」

「……わたしに、肩叩き、したかった?」

わざと、彼をゆさぶってみる。

「そんなこと思ってねえよ……」

「じゃあなんで『肩、こってないか』なんて訊いたのよ」

「気くばりってやつだ」

気くばりだけ~~?

「絶好調だな……おまえ」

 

勉強机の椅子に座って、

「世界史の勉強がおもしろかったから、いまのわたしは絶好調よ」

「……それは結構なことだが、なぜにわざわざ、おれに対して上から目線になるような位置に移動したか」

「――『絶好調!』といえば、中畑よね」

おれの質問スルーすんなよ!!

「そして中畑といえば駒沢大学

「それがどうしたそれが」

「ねえ、アツマくんの大学って――駒沢大学より、偏差値高い?」

うるせぇよ

「なんで答えないの、知らないの」

「知らないもなにも、『このブログはフィクションです』ってやつだ」

「で、出た~」

「なにが出たんだっ、なにが」

 

失敗した……と思っていそうな顔になるアツマくん。

 

そのアツマくんが、絶好調モードのわたしを下から目線で見上げて、じっくりと眼を留(と)めていたかと思うと――いきなり、

「――なんかフニャフニャした格好だな、おまえ」

は!?

「いや、服の着かたが、ゆるいというか――」

「どこが!? どこらへんが!?」

「――短パン」

 

痛いところを突かれてしまった……!?

 

「短パンが、いかにも適当に選んで穿(は)きました、って感じだ」

「どうしてそんなにカンがいいの……」

「おいおい、絶好調じゃなかったのかよ」

 

思わず眼をそらし、時計を見たら、午後9時だった。

――今季の火曜9時のドラマ、なんだっけ。

どうせ観ないんだけど、ほんの少しだけ気になる――、

じゃなくって!!

 

「アツマくん、クイズ」

「え」

「問題。わたしがこの短パンを穿(は)こうと思うまでに何分時間を要したでしょう」

 

真剣になって答えを考える、彼。

真剣になるほどのことでも……あるのかどうかは、不明。

 

「……3分」

「大不正解……」

「やっぱりかー」

真剣なようで、適当だったのね……。

「でもよ、3分でできることって、意外と多いぜ?」

「…ぐ、具体例」

ウルトラマンが怪獣を倒せる」

「……」

カップヌードルが出来上がる」

「……」

「キューピー3分クッキング」

「……話がどんどんズレていってない?」

「だな、ファッション関係ないな」

「軌道修正してよっ!」

「じゃあおれに3分間だけ時間くれ」

「……その『3分』に対する並々ならぬこだわりはなんなの」