【愛の◯◯】小泉さんの将来の◯◯

 

えー、アツマでござんす。

きょうは、1月3日。

おれの『当番』も、3日連続…。

 

…飽きてきましたか?

 

× × ×

 

八木と小泉さんが、おれの邸(いえ)にやって来た。

 

八木はおれと同じサークルの女子で、愛の女子校時代の先輩である。

小泉さんは八木の親友。八木の女子校での同級生、つまり八木と同じく愛の先輩だということになる。

 

 

「…年も明けたことだし、こういう人物説明も、しっかりとしておかないとな」

「なんなの? 戸部くん。人物説明とかなんとかかんとか」

「こっちの話だ、八木」

「こっちってどっち」

 

故意に口笛を吹くおれ。

 

怒った八木が、

「ねえ、変なこと言ってないで、少しは接待してくれたらどうなの!?」

「なんだよー、ずいぶんデカい態度のお客さまだな」

「お菓子とか!!」

 

ふたたび口笛を吹くおれ。

 

「あーもうっ、わたし、ダイニングルームに突撃してくるよっ。お菓子強奪してくる」

ダイニングルームには愛が居るぜ」

「それ好都合じゃん。羽田さんなら、なんだってしてくれるし」

「そうだな」

「はじめっから、戸部くんを頼る必要なんてなかったんだ」

「やっとこさ気づいたか」

 

× × ×

 

ダイニングルームに吸い込まれる八木。

 

「さて…小泉さんと、おれだけか」

「そうだねえ」

「あんたとふたりになるのも…レアケースだよな」

「SSRなケース、って感じ?」

「無理やり、スマホゲーのガチャに結びつけんでも」

「あはは」

 

……テレビ画面には、◯マ娘のコマーシャルが映っている。

 

おれはそれを見つつ、

「なあ。あんたは、やっぱりこういう業界に行くんか?」

「こういう業界って」

「テレビ業界だよ」

「あー、就職活動の話かあ」

「…八木は浪人してるからまだ2年だが、おれとあんたは3年生同士、就活生同士なわけだ」

「だね。そろそろだ」

「…小泉さん。あんたは、ギョーカイとのコネみたいなのが、あったりするんじゃないのか?」

 

軽く微笑むだけの小泉さん。

まさにポーカーフェイス、という感じだ。

 

「小泉さんは、大学も、優秀だし……」

「まあ、そういうところを突っつかれる流れに、なっちゃうよねぇ」

 

遠い目をして、テレビ画面を眺めて、彼女は、

「でも、違うんだ」

と言った。

 

んー?

 

「違う?? それはつまり、進路希望が、テレビとかマスコミとかとは、違うってことか??」

「そーだよ」

即答した小泉さん。

 

「……マジか。意外だな。テレビ局しか見えてないと思ってた、ぶっちゃけ」

「無理もない」

「大好きなことを仕事にしたら、大好きでなくなっちまう……的な考えか?」

「それは、あるね。それが理由のぜんぶじゃないけど」

 

 

――八木が、さっそうと舞い戻ってきた。

小柄なからだで、両手いっぱいにお菓子を抱えている。

 

「就活トーク?」

と八木は訊く。

「そうだ」

とおれが答える。

 

意味深な眼になって、八木は、

「小泉ね、冒険、するんだよ」

 

冒険?

冒険って、なんじゃらほい。

 

「もー、冒険、って言っただけじゃ、戸部くんなんにもわかんないよぉ、八木」

ツッコむ小泉さん。

 

おれは尋ねる、

「……小泉さんよ、教えてくださらないか、具体的なことを」

「職種?」

「そう。職種」

「公務員ではない」

「こ、公務員ではないのなら……なに?」

「戸部くん。『公立』の反対って、なんだっけ」

「コウリツ、って、公(おおやけ)に立つ、の、公立か」

「そーだよ」

「公立の、反対は……そりゃあ、『私立』だろ」

「『私立』といえば?」

「『私立』がつくのは……ふつう、学校だよな」

「あたり」

「私立学校が……どうかしたのか?」

「え?! そこまで鈍感だったの、戸部くん。ヤバくない?!」

「だって。あんたが学校の先生になって働くなんて、イメージできないし」

「ショックだな~~。そ~んな認識だったんだ」

 

「……小泉さん……あんた、まさか、まさか」

 

「感づいた?

 わたし、先生になろうと思うんだ。

 冒険ってのは――、つまり、そういうことなんだよね」