【愛の◯◯】珍しく、おれのほうが、物足りなくて……。

 

おれも愛も、大学が冬休みに突入。

冬休み突入を記念して、昼から、ふたりで、お疲れさま会を開くことになった。

 

流さんは、外出。

母さんも、外出。

 

……空気を読んで、邸(いえ)にふたりきりにさせてくれた、というわけ。

 

「水曜のお昼からお疲れさま会なんて、大学生のうちにしかできないわね」

「特権だな」

 

愛が作ってくれた料理が、リビングのテーブルにズラリと並んでいる。

美味そうだ。

 

「アツマくん。ビールとか、飲んでもいいのよ?」

「いや、やめとく」

「どうして」

「まだ、昼間だし。それに、おまえは未成年だから、いっしょに飲めんだろ」

「細かいこと気にするのねえ」

「こまかくねーよ」

「妙なところで、真面目クンなんだから♫」

「うるさい」

 

…とりあえず、ふたりとも、オレンジジュースで、

カンパーイ!!

 

× × ×

 

「どうだった? ことしは。アツマくんは」

「平和だったんじゃねーのか? おおむね」

「そっかあ」

「来年も、この調子で行けるといいんだが。……就職活動とかあるんだよなぁ」

「不安なの」

「人並みには不安になるだろ、そりゃ」

「アツマくんでも不安になるんだ」

「おれ、そんなにメンタル強くないぞ」

「持ち前のスタミナで、乗り切ってよ」

「スタミナ、ねえ」

 

唐揚げをパクつきながら、おれは、

「愛はどーなんだよ。心配ごととかは?」

「とくになし」

「ほんとか? 少しでも気になってることがあったら、遠慮なく言っちまえ」

「え、なにそれ。わたしはだいじょーぶだよっ、アツマくん」

「…フム」

 

愛の整いに整った顔立ちをジックリと見て、

「――ま、いいか」

「……順調だから。あすかちゃんとも、仲直りしたし」

「それな」

「な、なんでニヤけるのよっ」

「ハラハラしてたんだからなー、いつ元に戻るんだろうか、って」

「……ごめんなさい」

「まあ、雨降って地固まる、でよかったと思う」

「わたし……来年は、もっともっとオトナになる」

「そんな気負わんでも」

「気負うよっ!」

「はいはい」

 

× × ×

 

バクバクと、愛の美味い料理を口に運んでいくおれ。

 

……愛のほうは、頬杖をついてシーンとしている。

もっと飲んだり食ったりしたっていいのに。

なにアンニュイっぽい雰囲気になってんだよ。

 

「おい、おまえが作った料理だろ、もっと食えよ」

「……あなたのために作った料理だし」

「だとしても」

「……」

「……食欲不振か?」

「そんなわけないでしょ」

「む……」

 

大人びた眼つきで、愛がおれの顔を眺めてくる。

 

愛の顔が、これまでになく大人っぽい顔に見えて……少し焦る。

 

愛って……こんなにオトナだったっけ。

 

やや困惑。

 

「アツマくん」

「――」

「もう、アツマくんってば」

「――なにかな」

「わたし、そっちに行く」

「そっちって」

「あなたが座ってるソファに決まってるでしょ?」

「お……おう」

「どうして焦り気味なわけ。焦らないで」

 

× × ×

 

「わたし、アツマくんであったまりたいの」

 

そう言うやいなや、おれのからだにジカに密着。

 

「顔、そらさないで。ちゃんとわたしを見て」

「…見てる」

「バカっ」

 

正面から…ぐぐぐっ、と抱きつかれる。

 

おれの体温と、愛の体温が…合わさる。

 

背中に触れてみる。

 

背中を触るだけじゃ、物足りず、

ぐーっと、抱き寄せて、

愛のからだを、おれのからだで、包みこむ。

 

「積極的……珍しいわね」

「るせっ」

「そんなに、ギューってしたかったの? あなた」

「……」

「なんとか言ってよぉ」

 

なにも言わず、愛のからだを包みこんだまま――仰向けに寝っ転がる。

 

「わっ、びっくりした」

「……すまん」

「しょうがないわね、アツマくんも……」

 

愛のきれいな手が、おれの右のほっぺたにそっと触れる。

ゆっくりと、着実に、愛の顔が、おれの顔に、近づいてくる……。

 

「なにしよっか、これから?」

甘く言う愛に、

「お好きなように」

と返すおれ。

「…じゃ、ほんとうにわたしのしたいようにするけど。」

「…あっそ。」

「…コドモじゃないのよ☆」

「…ほざけ」