「――全部書き直し」
「……えっ?」
「全部書き直しだと、ぼくは言っているんだ」
「全部……って」
「最初からやり直しに決まっているだろう」
ショックを受けているわたしに向かって、いかにも不機嫌そうな態度で、結崎さんは、
「ガッカリだな。
きみに期待したぼくが、愚かだったんだろうか。
ほんとうに、『作文オリンピック』銀メダリストなのか? きみは。偽っているんじゃないのか??
銀メダリストの文章も――所詮、この程度か」
罵倒。
思わず、下を向く。
気持ちが沈み込みながらも、わたしは、
「……具体的には、どこを直せばいいんですか。わたしの文章のどこが良くなかったんですか。教えてくれませんか」
と言うも、
「じぶんで考えることを知らないのか、きみは。すぐ、他人任せにするんだな」
なっ……!
「――帰ってくれ。
きみの悪あがきにつきあっているヒマなんて無いんだよ。あすかさん」
× × ×
2つ原稿を書いた。
ひとつは、2000年代邦楽ロックバンドの紹介。
もうひとつは、タイムリーな話題で、日本プロ野球の完全試合の歴史について。
音楽とスポーツに詳しい人材を求めていた結崎さん。
彼の期待に応えるため、邦楽ロックとプロ野球という題材を選んだ。
ことばは、弾けるように浮かんできた。
勢いに任せるように書いたけれど、出来上がった原稿には自信があった。
きっと、評価してもらえるって。
そう思って、彼に原稿を渡した。
なのに。
一撃で……完全否定されて。
× × ×
打ちのめされると同時に、理不尽さも感じていた。
書き直しのヒントぐらい、提示してくれたっていいじゃん。
わたしの原稿、頭ごなしにdisって、「部屋から出て行け」って。
おかしくない!?
気難しそうなひとだとは、薄々感じていたけど……ここまでだなんて。
苛立ち混じりの敗北感で、キャンパスをふらりふらりと彷徨(さまよ)っていた。
いつの間にか、キャンパスの敷地外に出ていた。
腹の虫がおさまらないというか……なんというか。
……お腹のなかに、なにかしら詰め込まないと、やっていられない。
やけっぱちの食欲が出てきて、飲食店の多く並ぶ通りに向かって突き進んだ。
見覚えのある男の子が、モスバーガーに、いまにも入ろうとしている。
反射的に、大声で呼び止めた。
「ミヤジ!」
驚いて、わたしの方角に彼は振り向く。
ミヤジ。
宮島くんだからミヤジ。
わたしとは、高校の同級生という間柄。
キャンパス、近いもんね。
いつか、ニアミスするに違いないって、思ってたよ。
× × ×
モスバーガーに、テリヤキバーガー。
オニオンフライに、モスチキン。
Lサイズのコーラ。
「…カロリーオーバーじゃないか」
わたしのトレーをまじまじと見て、ミヤジが言う。
「ミヤジくん。『チートデイ』って、分かる??」
「……分からん」
「それは残念だな」
なにが「残念」なんだろう…という風な表情のミヤジ。
「初めて見たかも、モスで1500円以上使う人間」
と、若干呆れ口調で言ってくるミヤジを、
「――わたし、ブルジョアだから」
と揺さぶっていく。
「何パーセントまで本気発言なんだよ、それ」
わたしは無言でニコニコ。
追及をあっさりあきらめた様子のミヤジは、
「…食べるか」
と、じぶんのトレーに取り掛かる。
「そだねー。食べよ食べよ」
わたしも、じぶんのトレーの上に眼を凝らす。
…なにから食べるか。
「ね、モスチキン、食べてもOK?」
「ヘンな質問だな。食べるために注文したんじゃないか」
「いや、ね……。野鳥大好きクンのミヤジなんだから、眼の前でモスチキンをわたしが食べるの、心苦しいんじゃないか、って」
「別に?? ――どうも思わないが」
「――ドライだね、案外」
「そこまで神経質じゃないし。あすかも、神経質になりすぎる必要ない」
ふぅん……。
「ミヤジ。わたし、疑問があって」
「は?」
「競馬の、馬主さんって――馬肉、食べられるのかな」
「……ありがちな疑問だよな、それ」
「ありがちだけど、気になって」
「人によりけり、なんじゃね?」
「無難回答だね」
「……」
「実はね、わたしのお母さんの知り合いに、馬主さんがいるの」
「マジか」
「その馬主さんは、どういう信条なのか……」
「――あすか」
「なあに」
「おまえは、やっぱり……ブルジョアなのかもな」
「今更!?」
「おい」