【愛の◯◯】求められたら、突き進んじゃう……ワガママに。

 

「ほんとにマクドナルドでよかったの? あすかちゃん」

「ハイ、藤村さん」

「ファーストフードじゃなくって、もっとちゃんとしたレストランで、もっとちゃんとした料理を食べさせてあげられたんだけどな」

「マックでじゅうぶんですよー」

「…。『お姉さん』が、ごちそうしてあげたのに」

 

たはは。

藤村さん、完全にわたしの『お姉さん』を自称している。

 

三姉妹で、

藤村さんが、長女、

おねーさん(愛さん)が、次女、

そしてわたし(あすか)が、三女。

 

藤村さんによれば、そういう位置づけらしい。

 

無理もないかな。

藤村さん……わたしと同じ大学の4年生なんだから。

出身高校も進んだ大学も同じになって……わたしが可愛くないわけがない。

そりゃー、可愛い可愛い後輩の面倒、見てあげたくもなるよねえ。

 

 

右手で頬杖をついて、

「――『PADDLE』を、受け取っちゃったんだって? あすかちゃん」

と藤村さんは言ってくる。

「ハイ。もう、3回は読み返してます」

「ええぇ……」

 

戸惑いの顔色で、

「あすかちゃん。結崎純二(ゆいざき じゅんじ)には、気をつけたほうがいいよ」

と言ってくる彼女。

「じつは、結崎って、わたしと同期入学なんだけど……、けどさ」

そうなんだ。

同期なんだ。

同期だけど、結崎さんのことを、相当警戒しているみたい。

 

彼女は続ける。

「同期なんだけど、アイツがいま何年生なのか、謎に包まれてるの」

 

あーっ。

謎めいた雰囲気、出てたもんね……きのうのブースでも。

 

「単位取ったこと、あるのかな? 試験受けたことすら、ないんじゃないのかな」

「えっ、そこまでなんですか」

「それくらい、ヤバげな存在ってこと」

 

……藤村さんの、実感なんだろう。

でも。

そうであるかもしれないけれども。

ヤバげであったとしても。

 

「藤村さん、本音、言っていいですか」

「本音?」

「――『お姉さん』には、思ってること、嘘偽りなく伝えたいから」

「嘘偽りなく……って?」

「わたし……。

 結崎さんが、悪そうなひとには、見えませんでした」

 

「あすかちゃん……。」

 

「――わかるんですよ」

「な、なにが、かな!?」

「『文は人なり』って言うでしょ?

 同じ文章を書く人間として、わかるんです。

 伝わってくるんですよ。

『このひとの文章からは、誠実さがにじみ出てきている』って……思ったんです、わたし」

 

× × ×

 

日はだいぶ長くなったけど、さすがに暗くなろうとしていた。

 

マクドナルドを退店して、駅に向かっている。

 

藤村さんより数メートル先でわたしは歩いている。

 

「あすかちゃん……。もしかして、アイツと、結崎と、今後も関わるつもりなの!?」

 

早足で近寄ってきて、藤村さんが問うてくる。

 

「反対ですか? 藤村さんは」

 

若干歩みを遅くするわたし。

 

ことばを出しあぐねている藤村さんに対し、

「…『PADDLE』に、書いてあったんです、さりげなく。

『スポーツと音楽に詳しい人材求む』、って。

 わたし……ピッタリだな、と思って」

 

「スポーツと音楽…??」

 

振り向いて、うなずいてみる。

 

「たっ…たしかに…あすかちゃんはスポーツ新聞部の部長だったし、ガールズバンドのギタリストでもあるけれど。

 だけど……結崎だよ? 結崎なんだよ!?」

 

生意気な『三女』であるわたしは、

『長女』の藤村さんに対して、

 

「距離を詰めて、関わってみないと、わかんないことだって、たくさんあると思うから。」

 

立ちすくむ藤村さんに、まっすぐに向き合い、

 

「ゴメンナサイ。

 藤村さんの言うこときけないワガママっ子になっちゃう……わたし」