【愛の◯◯】ヨーコも少しはお黙りなさい

 

「羽田くーん」

「えっ、なに、小路さん」

「羽田くんさー、亜弥の苦手なもの、知りたくない?」

「苦手なもの!?」

「そう」

 

小路さんは、猪熊さんのほうをニヤニヤと見ながら、

「わたしが言っても、つまんないし、羽田くんに、これから当ててもらおっかー」

「……悪趣味です、ヨーコ」

「悪趣味じゃないよ。クイズ仕立てのほうが、ぜったい面白いし」

「それが悪趣味なんですよ」

 

苦手なもの、か……。

いろいろと考えられるが。

 

「――嫌いな食べ物とか?」

言うぼくに、

「ぶっぶー」

と小路さんが不正解を伝える。

「食べ物じゃないんだな、これが」

 

フム……。

 

……猪熊さんが、いささか早口に、

「もしや本気で考えてるんですか!? 羽田くん」

「ぼく、クイズ、好きなんだ」

「こ、困ります、詮索されるのは」

「――そうなのか。じゃあ、秘密は秘密のままで」

「……」

「猪熊さん、ほんとに困ってるみたいな顔になってるもんね」

「……!」

 

「え!? あきらめるの、羽田くん」と小路さん。

「あきらめが早いよ。もっと全力で亜弥の秘密を知ろうとしなよ」と小路さん。

「まあ、プライバシーとかプライベートとかあるしさ」とぼく。

「え~っ、おもしろくな~い」

「…猪熊さんは、もっと面白くないと思うよ」

マルハダカにしちゃいなよ~、亜弥のこと

 

なんて子なんだ、この子は……とぼくが思うと同時に、猪熊さんがテーブルを強打した。

怒るのも、無理はない。

 

× × ×

 

…例によって、放送部に滞在中なわけだ。

 

「ア◯フォート食べなよ、羽田くん」と小路さんがすすめてくる。

しかしぼくは、

「あ、ごめん……。じつは、ア◯フォート、ちょっと苦手なんだ」

と正直に言う。

しかし小路さんは、

わたしのア◯フォートが食べられないって言うの!?

と、素っ頓狂な声……。

 

「うるさいですよ、ヨーコ」

「うるさくないよ」

「いいえうるさいです」

「…亜弥の頑固もの」

「だいいち、あなたがア◯フォートを作ったわけじゃないでしょう? ア◯フォートを作っているのは、◯ルボンじゃないですか」

「…とってもイジワルなこと言うんだね」

「あなたのア◯フォートではなく、◯ルボンのア◯フォートなんです」

 

猪熊さん、キッパリ。

これぞ正論、だな。

 

× × ×

 

ア◯フォートを回避したぼくだったが、

「ねえねえ!! きょうって、2022年2月22日でしょ!? 2が6つもあるじゃん!! きょうは、すごい日だよね」

と小路さんは、なおもはしゃいでいる。

 

ひとつ、心を鬼にして――。

 

「小路さん、そんなことは、どうでもいいんだよ」

「え」

「きょうの日付のことは、いまこの場で本質的なことじゃない」

「…本質的、って」

「…ぼくはね、せっかくこの場所に来てるんだから、猪熊さんやきみと、話し合ってみたいことがあるんだ」

ほんの少しうろたえる小路さんに、

「2が6つとか、本質的じゃないことで、時間を食ってる場合じゃないんだ」

 

狼狽の小路さん。

やがて…不満を表に出して、

「わたし、マジメなのは、イヤ」

「ときにはマジメになろうよ。」

「……羽田くんらしくなくない??」

「そうかもしれないね。

 だけど、ぼくだって、KHKのたったひとりの会員として、前を向いて、前に進んでいきたいから」

 

「――KHKの活動のことで、ご相談、ということなんですね?」

「正解。猪熊さん」

「番組づくりに関してですか?」

「するどいね。新しい企画、ずっと温めていて」

 

猪熊さんはどこからともなくノートを取り出して、

「……テーマは?」

「桐原高校の、歴史」

「もっと具体的なトピックとしては――」

「まず、クラブ活動の歴史だな。いろんなユニークな部活やクラブが、この学校には乱立しているし、個々の部活やクラブの成り立ちに、とても興味がある」

「どれを掘り下げるか、ある程度、決めてはいるんですか?」

「コンピューター部、とか」

「なるほど。この学校のコンピューター部は、相当に歴史が古いそうですからね」

「40年前からあるって聞いたよ」

「日本最古……なんでしょうか?」

「もしかすると」

 

「……亜弥」

「どうしました、ヨーコ」

「つまんない」

「それは、ヨーコがふざけすぎたからです」

ふざけてないよ!!

「なんですか。入学したての中学生みたいな、幼さですね」

「……わたし、JK」

信じられませんね