【愛の◯◯】ランチタイムメガミックス(仮) by利比古

 

「……どうもリスナーの皆さまこんにちは。きょうは水曜日……週の真ん中、の、お昼休みであります。

 今週は、パーソナリティである板東なぎさ会長のピンチヒッターとして、ぼく羽田利比古が、月曜から番組を担当し続けているわけですが……力不足でしょうか?

 そもそも、板東さんがパーソナリティをお休みする理由は? って話でしょうけど……板東さんも、彼女も、やっぱり、デリケートな面があるんですよ。

 ほら、受験だって、間近に控えてるんですし。

 板東さん、デリケートで、そっとしてほしいんです。

 

 ……こんなこと言ったら、あとで、板東さん本人に折檻(せっかん)されちゃうかな。

 デリケートなコンディションでも、折檻するエネルギーぐらいは、残ってるんだろうし……。

 

 あ。

 タイトルコール、忘れてました。

『ランチタイムメガミックス(仮)』です。

 

 ――12月8日なわけなんですよね。

 12月8日。ジョン・レノンが死んだ日です。

 

 というわけで、この季節に定番のあの曲を、オープニングナンバーとして流したいと思います。

 

 ジョン・レノンオノ・ヨーコ、『Happy Xmas(War Is Over)』」

 

× × ×

 

「はい。

 お聴きいただきましたでしょうか。

 

 ――放送部の、某3年生に、言われたんです。

『せっかく羽田くんは帰国子女でバイリンガルなんだから、パーソナリティを担当するなら、番組のなかで、洋楽を歌うコーナーをやってみたら?』

 って。

 

 提案してきたお方の名前は、伏せますが……これは、相当な無茶振りだと思います。

 だって。

 ぼく、そこまで歌、上手くないんですよ?

 英語の歌詞は聞き取れるし、まあただ単に歌うだけだったら可能なんですけど……下手な洋楽のカラオケを聞かされるリスナーの皆さんの立場を思えば、おいそれとそんなコーナーを設けるわけにはいかないんです。

 番組内では、ぼく、歌ったりしません。

 

 ……姉とは違うんですよ。

 姉は、カラオケで洋楽曲をばんばん歌うし、しかも歌唱力がずば抜けて高いので、採点表示がいつもいつも『100』とか『99』とかなんです。

 ……ウソじゃないんです。

 

 まずったかな。

 こんなことを晒したら、どこからともなく『羽田くんのお姉さんとカラオケに行きたーい!!』って声が、上がってきそうで。

 ――姉と触れ合いたかったら、まず、ぼくという窓口を通してください。

 お願いします。

 

 

 ――時間も限られているし、お便りコーナー、行ってみます。

 

 ……相変わらず、姉に関する問い合わせが多くって、辟易(へきえき)してる部分もあるんですけど。

 あんまり際どいのは、ナシですよ。

 アウトな問い合わせを送ってきたひとには、不幸の手紙が来ます。

 ……というのは、ジョークですけれども。

 

 これは、許容範囲かな……。

 えー、ラジオネーム『ニューヨークべに丸』さんから。

 

『羽田くんのお姉さんは、何ヶ国語がしゃべれますか?』

 

 お答えします。

 まず、英語は、ぼくに勝るとも劣らないぐらい、ペラペラです。

 外国人に英語で道を尋ねられて、理路整然と英語で説明してあげた……ということが、ことしもけっこうありました。

『道案内は得意なの』とか、言ってましたっけ。

 英会話の講師になったら、人気出そうだなあ……とか、思ったりも。

 

 ドイツ語もできます。

 どういうわけか、高校時代から、ドイツ語の授業があったようなので。

 かなりのレベルで、ドイツ語圏のひとたちとコミュニケーションをとることができるみたいです。

 5段階で言うなら……レベル4かな。

 レベル5(ファイブ)っぽい気もするけど。

 ちなみに、高校時代、姉のドイツ語の成績は、常に学年トップ3で――。

 ……まあ、華々しい女子高生でしたから。

 慕われまくっていたらしいし。それこそ、『おねえさま!』みたいな感じで。

 現在でも、慕う人間は、尽きることなく……。

 

 板東さんとか、そうですよね。

『おねえさま!』な勢いで、慕ってるじゃないですか、姉を。

 

 ……不用意なことばっかり言ってたら、スタジオに殴り込まれちゃうかな。

 

 ――それはそうと、姉、英語やドイツ語のみならず、フランス語も相当できるようになったみたいで。

 とあるお方のご指導もあって、メキメキとフランス語の力をつけて――、

 

 んっ??

 

 おかしいなあ。

 

 けたたましい足音が、スタジオのほうまで響いてきてる感じが……。

 

 悪寒しかしないや。」