祝日明けの金曜日。
いよいよ、わが校の文化祭も明後日に迫り、校内は完全に文化祭の準備ムード一色だ。
授業もない。
ひたすら、クラスの出し物だったり、部活の展示だったりの準備にいそしむ。
じぶんのクラスの手伝いもそこそこに、わたしは教室を出た。
廊下を早足でずんずん歩いていると、
担任の二宮先生――『ニノ先生』が、向こうからやってきたではありませんか。
「ニノ先生じゃないですかー。どーしたんですか?」
「や、どーしたもこーしたもないだろ。クラスの様子を見に来たんだ」
「あー」
「あー、じゃない」
「ごめんなさい」
「……」
「……」
「……あすか、」
「ハイ」
「おまえ、じぶんのクラスの出し物に、非協力的じゃないか?」
ぎく。
「ぎく」
「ぎく、じゃない」
「ごめんなさい。」
「……部活やら、バンドやら、いろいろ忙しいのはわかるが」
「忙しいってことは、ちゃんとクラスのみんなには説明してますから」
「赦(ゆる)しを得てるってことか」
「得てます」
わざ~とらしく、先生の顔を、じ~っと見上げ、
「先生が思ってるより――ちゃんとしてるんですから、わたし」
「ちゃんと……してるってのは」
「じぶんで考えてください」
「お、おい!!」
スーッと先生の横を通過していく。
……あっ。
いけないいけない。
これを、言わなくちゃあ。
ピタッと立ち止まり、
うろたえ気味に立ち尽くしている先生に振り向き、
「受験だって、ちゃんとしますから!!」
と高らかに言う。
なにも言えない先生に、
「わたしの推薦入試が近づいてることぐらい……わかってるでしょ?」
「……当然だ。おれをなんだと思ってるんだ」
「担任教師」
「……」
「入試のときは、背中を押してくださいね、ニノ先生♫」
× × ×
「背中を押してください」は、余計だったかな。
まあいいや。
校内をぶらぶら歩く。
取材のネタがどっかに転がってないかなー、と思いながら、ぶらぶら。
文化系クラブ活動の展示会場となる教室をのぞいてみる。
そしたら、わたしが教室に入ってから程なくして、小野田生徒会長が入室してきた。
「小野田会長だー」
「おや、あすかさんが、こんなところに」
「えへへ」
「ヒマなの?」
「決してヒマではないんだけど、やっぱりヒマなのかも」
「曖昧を極めてるね」
えへへへ。
「――小野田さんこそ、こんな場末(ばすえ)まで、なんでまた」
「こらこら」
小野田会長は苦笑して、
「場末なんて言ったら、展示するクラブの人に、にらまれちゃうよ」
「アッいけない」
「ほらほら、あそこで作業してる子が、苦々しい表情しちゃってるじゃない」
「……マジだ」
苦々しい表情にさせてしまった男子生徒に、小野田会長がおっとりと微笑みかけることで、事なきを得る。
生徒会長さまさまだ、ホントに。
「――『特撮・SF同好会』なんて、存在してたんだ」
「知らなかったの!? あすかさん」
「エッいま知ったよ、わたし」
「文化祭だと毎年、奇抜なパフォーマンスを行うことで有名なのに」
「――さすが生徒会長だね、どんなクラブ活動が生き残ってるか、ぜ~んぶ把握してるんだね」
にしても、
「なんで、特撮とSFが、いっしょの同好会になってるわけ?」
「ちょ、ちょっと、あすかさんっ」
慌て始める会長に、
「特撮とSFをいっしょにしたって、面白くなるわけでもないじゃん」
「あ、あすかさんっ、いちばん言っちゃダメなこと言ってるからっ!」
え??
「わたし、失言した??」
会長は焦り顔になり、
「…いまは、特撮・SF同好会の会員、この場にいないから、まだいいけど、」
「けど?」
「たとえばね。
当日、この展示室で、さっきみたいに、『特撮とSFいっしょにしたって面白くない…』みたいなこと言っちゃったとしたら、
ギャオスのコスプレした同好会の会員が……襲ってくるよ」
「……会長、
ひとつ、質問。
ギャオス、って、いったい、なに??」
× × ×
「ねー、お兄ちゃん」
「?」
「中日ドラゴンズの、現在(いま)の監督のひとつ前の監督って、だれだったっけ」
「は!? おれに訊くなよ」
「知らないか。」
「知らねぇ…」
「はぁ。」
「ため息ついてるヒマあったら、検索してみろや」
「珍しく、いいこと言うんだね。
……そっか、モリシゲ監督だったか」
「解決したか?」
「解決した。ありがとう、お兄ちゃん」
「おれ――なにも、してないんだが」
「それと、」
「??」
「文化祭」
「がどうした」
「ぜったい、来てよね」
「お、おぅ……」
「ぜったいのぜったいだよ!! 命令だよ」
「――ったく、命令とか、大げさに言いやがって」
「サボったら、ガメラとギャオスがお兄ちゃんの部屋にだけ襲ってきちゃうよ!?」
「……がめら? ぎゃおす?
気は確かか、おまえ」
確かだよ。
――特撮映画の知識、ゼロだったんだね、お兄ちゃんも。
わたしだって、ガメラもギャオスも、きょう、小野田会長に教えてもらったばっかりなんだけどさ。
――それとこれとは、関係なかったり、なのかな??