リビングのカーペットにどっかりと腰を下ろしている。
テーブルには、ビール、チューハイなどの缶が、デーンと置かれている。
そして、
おれの眼の前には、
同じ大学の女子がふたり……。
八木八重子。
星崎姫。
× × ×
…事の起こりはこうだ。
きょう、学生会館に行って、『MINT JAMS』のお部屋に入ったら、
八木と星崎――やっかいな女子2名が両方いて、
このダブルやっかい女子に、もてあそばれまくった挙げ句、
いきなり星崎が、
「そーだ! これから戸部くんちに行って、飲もーよ!!
それで、戸部くんをもっともっとイジメちゃおう!?」
と、八木に提案したのである。
八木は即刻承諾。
ためらうおれの腕を、ダブルやっかい女子は、両サイドからぐいぐい引っ張って――。
× × ×
「おまえら茶々乃さんを見習え。良識を少しは持て」
缶ビールを開栓すると同時に、八木&星崎を詰(なじ)るおれだったのだが、
「戸部くん、茶々乃ちゃんのこと、そんなにマジメっ娘(こ)だとか、思ってたの!?」
と、星崎に即刻からかわれて――ビールが、すごく苦い。
「茶々乃ちゃんは単なるマジメっ娘じゃないよ~」
「でも……星崎、おまえよりははるかにマシだろ。ちゃんとしてるだろ」
なにも答えず、ふざけた顔でビールのロング缶をグビグビ飲んでいく星崎。
ふざけんじゃねえよ。
「おい……怒るぞ星崎。おれだって、怒るときは、怒るんだ」
「プハーッ!」
「星崎ィ!!」
「戸部くんだめだよー。もっと楽しく飲もうよ」
「八木」
「ほら、星崎さんの飲みっぷり、見習おうよ」
「……」
「どうしたの? なんでそんな疑わしそうな眼でわたし見てるの」
「だって……不可解だし」
「なにが」
「八木が……そんなに、星崎の肩を持つのが」
「親友だもん。わたしと星崎さんは」
で、出やがった、親友宣言。
「以心伝心、ってやつ?」
そこまで言うか八木っ。
「そう! 八木さんとわたし、もはや以心伝心級の、大親友」
シラフ同然の満面の笑みで星崎が言う。
「ねーっ」と八木が反応。
「ねーっ」と星崎が反復。
「…八木よ。ひとつ忠告しておくが、星崎の酒飲みのペースにつきあったら、潰れるぞ」
「そんなことわかってるよ」
八木は意に介さず、
「仲良しと、お酒のペースは、関係ないよ」
……ちっ。
「でも八木さんもさ、案外に強くない?
もう缶ビール2本空(あ)けちゃってるよね」
「……おのれはロング缶を何本飲み干した、星崎」
「4本」
大丈夫か……? コイツの、アルコール耐性。
どんだけだよ。
× × ×
エプロン姿の愛が、おれたち3人の前にやってきた。
「わーっ、愛ちゃん、そのエプロンかわいいー」と星崎。
「ほんとだー、かわいい。もしかして、エプロンじぶんで作った?」と八木。
「はい、じぶんで縫いました」
答える愛。
八木は陽気に笑いながら、
「安心だねぇ、戸部くんも」
「は!? なにが安心なんだよ」
「服のほつれたところとか、すぐに羽田さんに直してもらえるんじゃん」
そういうことかよ…。
「あ!
もしや、日常的に、直してもらってるとか……!」
「…八木のご想像におまかせする」
ニヤニヤする八木。
うぜぇ。
「……アツマくんのエプロンも、あるんですよ」
愛が余計なひとことを言いやがった……!
『マジで!?』
超でかい声で、八木&星崎が同時に驚きを示す。
「夜なんだぞ、そんなに大きな声出すもんじゃない」
たしなめようとするが、
八木&星崎は、おれのエプロン関連の諸事情を、ひたすら愛から訊き出そうとしている。
後頭部をふたり同時に叩いてやりたい気分だ。
……実際に叩く気はないが。
「――見える、見えるよ」
星崎がクルッと振り返って言う。
「なにが見えるんじゃ」
「『カテイ』が」
「『カテイ』?」
「戸部くんと愛ちゃんが、ステキな家庭を営んでるのが」
「あ、あることないこと言い出しやがって」
「戸部くん……缶ビールこぼしそうだよ?」
「正座しろ!! 星崎」
「え~、なんでよぉ~~」
「――あれっ? 羽田さんが、いつのまにかいなくなってるよ」
「ほんとだね八木さん。わたしが戸部くんなんかに気を取られてたら、彼女、どっか行っちゃった」
まったくこいつらは……!!
「わからんのか!? おまえら、ふたりとも」
「ええっ……『わからんのか』って、なんのこと?」
八木がとぼけたように言う。
「意味わかんないこと言わないでよ。どーしてそんな頑固オヤジみたいなの?? 戸部くん」
星崎もとぼけたように言う。
ボケナスがっ……みたいな、汚いことばは、自重するとして、
「テレてるんだよ!! あいつは」
「テレてるって、いったいぜんたい――」
八木の鈍さ。
「なにが原因でテレてるってゆーのよ?」
星崎の厚かましさ……!
「おまえが『ステキな家庭を営んでるのが見える』とか言うからだよっ、星崎!!
それで、あいつは、この場にいられなくなるほど、テレちまったんだよっ」
「わたしのせい?」
「星崎、おまえは説教だ……!」
じぶんの声の震えを自覚しつつ、
どうやって星崎をシメてやろうか、考えをめぐらせるおれ、
だったのだが、
にっくき星崎に、反省の色は少しもなく、
「戸部く~~ん」
「……」
「戸部くんったら~~」
「……」
「あのさ。
もう、くっついちゃいなよ~、愛ちゃんと」
「……『くっつく』の定義にも、いろいろ」
「なに日和ってんの? らしくないよ」
「星崎……。
黙って、酒を飲め」
「あららぁ」