【愛の◯◯】ハンバーガー食べ散らかしお嬢さま

 

日曜日。

バイト先の模型店でレジ番をしていたら、

見知った、若い女の人が、

お店に入ってきた。

 

椎菜さん!?

 

叫び声のような声を出してしまうわたし。

 

だって、だって、完全アポ無し。

事前連絡、なにもなく、突然に突撃してきた、椎菜さん……!

 

「しーちゃんだよ~~」

おどけて言う彼女。

 

「あれ、アカ子ちゃん、ボーゼンとしてない? なんで??」

 

……。

 

「ま、まずですね、」

「うん、」

「わたしがここでバイトしてるって、どうしてわかったんですか」

「え。そりゃ~わかるよ。わからないわけないじゃん」

 

……。

 

「用件は……?」

 

わたしの疑問を華麗にスルーし、

店内を見回して、

 

「わああ~~、プラモデルが、いっぱ~~~い」

 

「聴いてるんですか……?」

 

「ね、フィギュアはないの!? フィギュア」

 

もうっ。

 

「フィギュアの取り扱いはございませんっ」

 

――わたしはひとりでに立ち上がっていて、

 

「お店に用もないのなら、長居(ながい)はやめてもらえますか!?」

 

「あ」

「なっ、なんですかっ」

「冷やかし、だとか、思った?」

「……」

「図星の反応だねぇ」

「だって」

「――わかったよ。」

 

なにがわかったのかしら、と訝しむ間もなく、

彼女は、クルリと出口のほうを向き、

 

「アカ子ちゃん。バイトは、何時まで?」

 

不審に思いつつも、バイトの終了時刻を教えると、

 

「――だったら、そのとき、また来るよ」

 

迷惑な…! と思うヒマもなく、

 

「おごったげる」

「おごる……?」

「バイトしたら、お腹がすくでしょ。食べたいもの、なんでもおごったげる」

 

し、椎菜さん……もしや、

わたしの、『大食い属性』まで、把握……!?

 

 

× × ×

 

「こんなとこでよかったわけ?」

 

…お行儀悪くも、ドリンクのストローを噛んで、黙っているわたしに、

 

「なんの変哲もない、ファーストフードじゃん」

 

…そう。

わたしのトレーには、すでに食べ終えたハンバーガーの包み紙が、いっぱい。

完全に、食べ散らかし。

社長令嬢らしからぬ、はしたなさ…。

 

万が一、会社の人に目撃されたりしたら、困ったことになる。

困るんだけれど、

それよりも、わたしは……、

じぶんの空腹に、困っていた。

 

「いい食べっぷりだね」

椎菜さんは容赦なく、

「テリヤキバーガーだけで、3つ――」

 

たまらず、椎菜さんをにらみつけた。

数を数えるのはやめてください』の、サイン。

 

椎菜さんは大げさに苦笑する。

 

唐突に、

「あーっ、わかった」

 

…なにがですかっ。

 

「ふだん、こういうファーストフードとか、行かないんだよね。お嬢さまだもの。それで、いっぺん、来てみたかったんだね」

 

…どうしてわかるんですかっ。

 

「あたしたちにとっては、ありふれてるようでも、アカ子ちゃんにとっては、ぜんぜんありふれたお店じゃなかったんだ」

 

「――ありふれたお店じゃないのは、わたしにとってだけとは、限りませんよ」

「?? どゆこと」

「わたしの知人で、中国地方の某地方都市に住んでおられる方がいらっしゃるんですが。

 そのお方は――、

 最寄りのマクドナルドまで徒歩50分だと、嘆いておられましたよ」

「……」

「ですから、マクドナルドのハンバーガーも、なかなか食べられないという人々も――」

「……」

「――そうだ。

マクドナルドまで徒歩50分』のお方は、こうもおっしゃってました。

 ある日のこと、早朝で、周りのお店がどこもオープンしていないので、朝5時から営業しているマクドナルドに行こうと思った。

 でも、歩いていくには遠すぎるし、体力も消耗してしまうので、公共交通機関を使ってみたい。

 それで、自宅の最寄り駅から、ローカル線の始発に乗って、そのマクドナルドの最寄り駅で降りた。

 そして、マクドナルドまで行ってみた。

 ……すると、たいへん不運なことに、

 店舗メンテナンスで、いつもは朝5時オープンなのに、8時オープンだという貼り紙がしてあった。

 朝マックの目論見は崩れ、陸の孤島と化した店舗の前に、そのお方はいつまでも立ち尽くしていた……。」

 

「……アカ子ちゃん、なんでそんなに話を横にそらすの?」

「……すみません、しゃべりすぎました、わたし」

 

呆れ笑いで椎菜さんは、

「そんなに、マックのありがたみを、強調しなくたって」

「ごめんなさい、時間稼ぎというか、文字数稼ぎというか――そういう感じになっちゃいました」

「こらこら」

軽く彼女はたしなめて、

「ますます、あらぬ方向に、『脱線』しちゃうじゃん」

「そうですね。なにをやっているんでしょうね、わたし。バイトの見えない疲れが、影響しているのかしら」

「見えない疲れが溜まってるのなら、」

「?」

「もっと――注文したら?」

 

さ、さすがにこれ以上は……!

 

「いーじゃん。ハンバーガーもナゲットもポテトも好きなだけ食べられる、いい機会だよ?」

「でも……」

「でも、?」

「椎菜さんの、おごりの、予算が……!」

「そんなこと気にしてるの!? 細かいこと言いっこなしだってば」

予算は気にします」

「どして」

社長令嬢だからに決まってるでしょう」

「あ~~」