「あっ、利比古くんだ」
「はい、利比古です」
「夏だねぇ」
「夏ですね、あすかさん」
「……」
「な、なんですか」
「……」
「その思惑ありげな眼はなんなんですかっ」
「――タブレットで、なにを閲覧しているの?」
「ウィキペディア日本語版ですけど――」
「出たぁ~~」
「そういうリアクションはやめてください!!」
「こわっ」
「あすかさん……ほんとにもう」
「利比古くん、テレビ局の記事とか見てそう」
「ぐあぁ」
「…図星だからって、うめかないで」
「うめきますよぉ」
「なにを調べてたの? フジ? テレ朝?」
「……いえ、キー局ではなくて」
「?」
「北海道のテレビ局を、調べていたんです」
「なんで……なんで、北海道なの」
「なんとなくですけど…」
「北海道のテレビ局を調べてどうなるの」
「どうなるんですかねえ。ぼくにも、わかりません」
「利比古くんも、わりと……不可解な行動に出るよね」
「それはそうかもしれませんけど、北海道のテレビ局のウィキペディアを読むこと自体は、けっこう楽しいですよ?」
「生産性がないじゃん、生産性が」
「……ウィキペディアに生産性、求めますか?」
「ん……」
「――北海道の民放テレビは5局あるんです。東京とほぼ変わりありませんね。MXみたいな独立局はないですけど」
「……」
「……」
「相づちぐらい、打ってくれませんか……?」
「……利比古くんが、ニヤけながら講釈してるのが、悪いんだよ」
「ひっひどいですよ、ぼく別にニヤけてないし」
「否定しても説得力ゼロ!!」
「……HTB北海道テレビは、『水曜どうでしょう』で有名な局で」
「――そうなんだ」
「――ようやく、話に乗ってきてくれましたか」
「――あのさ」
「ハイ」
「もしかしてさ、HTB…だっけ、そのテレビ局って、『onちゃん』っていうマスコットキャラクターがいるんじゃない?」
「そうですそうです、onちゃんは、『水曜どうでしょう』に出てきて人気に火がついたようですね」
「わたしでも知ってるもんね。全国のテレビ局のマスコットキャラクターで、いちばん人気があるんじゃないの」
「…好きなんですか? onちゃん」
「かわいいよね。見てると、癒やされる」
「癒やされるんですか…」
「グッズ、売ってないかな? HTBって、なに系列?」
「テレ朝系列ですが」
「じゃあ六本木に行けば買えないかなあ」
「それは……どうでしょう」
「『水曜どうでしょう』ならぬ、『onちゃんグッズどうでしょう』、だ」
「――通販があるじゃないですか。そっちのほうが確実だと思いますが」
「通販か! その発想はなかった。――でも、HTB公式オンラインショップとか、存在しているの?」
「きっと、あるでしょう。onちゃんがこれだけ人気ならば」
「きっと、じゃ、心もとないなぁ」
「ググってみますか?」
「お願い」
× × ×
「……さっそくポチってましたね、onちゃんグッズ」
「ついつい」
「合計金額がけっこうなお値段になったんでは……」
「気にしない」
「お金持ちですか、あすかさんは」
「利比古くんと違ってちゃんと貯金してるし」
「……」
「貯金のほかにも――」
「ほ、ほかにも!? どんなお金の出どころが」
「――ぬふふ」
「ぬふふ、じゃないですよぉ」
「ま、期末テスト乗り切った、ごほうびだよ」
「じぶん勝手な解釈を…」
「悪い?」
「良くはないと思いますが」
「――利比古くんも、期末、終わってるよね」
「お、終わりましたけども?」
「なら、反省会タイム、突入だな」
「えー、反省会、するんですか……」
「なんなのそのダルそうな声は」
「ダルダルの、ダルビッシュです」
「!?」
「……あはは。
ダジャレ、出ちゃいました」
「出ちゃいましたじゃないよ……。利比古くんが、利比古くんが……ダジャレを、口走るなんて……。しかも、相当しょーもないダジャレを……」
「――うろたえ具合MAXですね」
「…どうせ利比古くんは、英語は楽勝だったんでしょ」
「言うまでもなく」
「…で、英語に比べて、国語や社会は振るわず」
「……まあ、案の定」
「わたしは、逆だな」
「国語と社会は良かったと?」
「良かったよ。振るったよ。現代文も古典も、世界史も政治・経済も、たぶんみんな、80点超えてきてる」
「それはすごいですね」
「とくに政治・経済で80点超えの手ごたえをつかんだことに『すごい』と言ってほしい」
「……なるほど」
「微妙って顔しないでよ。
反対に……英語は、残念ながら、80点水域には届かなかったみたい」
「イマイチだったんですね、英語は」
「平均点より上なはずだけどね」
「平均点は、どのくらい??」
「――そこ、訊くわけ!?!?」
「え、ええええ」
「信じらんない」
「なんで――」
「平均点は……デリケートな数字なんだよ、利比古くん」
「言うほどデリケートですかね……」
「たとえて言うなら、」
「たとえて言うなら?」
「平均点を晒すってのは、わたしの――」
「ちょ、ちょっとタンマですっ、あすかさんっ」
「どうしたっての」
「あすかさんが平均点を『なににたとえるか』が、不穏なのでっ」
「――先取りしちゃったか、わたしの言おうとしたこと」
「――自重してくださいよ。もうちょっと、慎みを…」
「『平均点を晒すってのは、わたしのスリーサイズを晒すようなもの』」
「なんで言っちゃうんですかっ!!!
そういうところですよっ、あすかさん!!!」