「加賀くん加賀くん」
「なに」
「期末テスト、どうだったぁ?」
「……別に」
わたしはわざとらしく、
「その反応はいただけないね」
「なんで」
「期末、どうだったか、教えてよ」
「どーもこーもねーよ」
「赤点、なさそう??」
そう、加賀くんの顔をじ~っくりと見ながら、わたしは言う。
「とくに、国語」
国語、とわたしが言った瞬間に、顔を逸(そ)らした。
ストライーク、か。
「ね、どうなの、国語」
「っるさい」
将棋盤の前の椅子にふんぞり返り、
「あんたはどーなんだよあんたは」
余裕を持ってわたしは、
「赤点なんかあるわけないじゃん。ぜんぶ平均点以上の自信があるよ」
「……優等生かよ」
「そんなんじゃないよ」
「……『自分が優等生だと思ってないだけ』かもしれないぜ? あすかさん」
え。
「なぁ……?」
「加賀くん……」
「だいいち、作文で全国2位って実績が、もう優等生超えてんじゃねーか」
「……それ以上言ったら、恥ずかしいかなー、って」
ふ~ん、と、彼はわたしのほうを向いて、
「――部活はじめようや」
「――うん。」
× × ×
『……期末テストが終わる時期なんじゃないの?』
リモート出演の岡崎さんがしゃべり掛ける。
わたしと加賀くんのふたりだけではどうしようもないので、こうやってリモート出演の先輩方にありがたいアドバイスをいただくことにしているのである。
「はい、終わりました。わたしはまあまあでした。加賀くんはさんざんでした」
「決めつけんな、あすかさん」
『加賀の態度の悪さも――相変わらずだな』
そう指摘された加賀くんが、軽く舌打ち。
『そういうのが良くない』
たしかに、良くないよね。
『あすかさん――最終手段で、なぐっちまうのもアリだと思うぜ』
「体罰――ですか」
『だって、あんまりにもあんまりだし。……コイツを矯正(きょうせい)できなかったおれたちにも責任があるんだが』
「岡崎さんの気持ちも、わかりますけど――暴力は、行き過ぎだと思います」
『……腕っぷし、強そうだよね?』
「……わたしが、ですか!?」
『泣く子も黙る……どころか、あのアツマさんだって黙らせられる、腕っぷしの強さだって』
どういう情報が入ってきてるの、岡崎さん。
たしかに、お兄ちゃん叩くことだって、なくはないけど。
わたしって、そんなに暴力的??
「わ、
話題、変えましょ?」
『唐突な』
「わたしは基本的には暴力反対ということなんですけど……。
ところで、」
『ところで?』
「――桜子さんは、来てないんですか」
岡崎さんはどんどん動揺していって、
『さ、さくらこは、いないよ、おれんちには、いま』
んーっ、
「お互いがお互いの家に行ったりしないんですか?」
『……い、いそがしいんだよ、さくらこも。ほ、ほら、はるばしょ、はじまったろ、はるばしょ』
たしかに。
大相撲春場所は、桜子さんの大きな関心ごとだ。
が、
「ふたりで、いっしょにNHK視(み)ればいいじゃないですか」
『……どこで』
「どっちかの家で」
『……』
「昼間は――ご家族も不在で、大相撲中継だって存分に視られるし、ほかにも」
『『ほかにも』とか、言わないでくれよ…』
「…イチャつけるのも、長い春休みの特権ですよ?」
『あすかさんっ』
「――そのへんにしといてやれよ」
「加賀くん」
「あんたの態度も相当だな」
「そうだね……」
「すぐさま認めるんか」
「……不良だね、わたしたち」
× × ×
また今度、岡崎さんにお詫びしなければ。
どんなふうにお詫びしようか。
――それはそうと、帰宅して、夕食を終え、居間でくつろいでいる。
例によって? 向かい側には、利比古くん。
「ねぇ利比古くん」
「なんでしょうか」
「あなたの桐原高校も、期末、終わったんでしょ?」
「ハイそうですよ」
「わたしのとこも終わった」
「だいたい、おんなじ時期になっちゃいますよね」
「それでさ」
「ハイ」
「だいたいどれも、平均点以上は取れた、と思うんだけど」
「あ、ぼくも、そんな感じです」
「あなたの振り返りは、後回し」
「ご、ごめんなさい…」
「わたしのことを言わせてよっ」
「…どうぞ」
「英語」
「英語、が??」
「英語が――今回、ちょっといまひとつだったんだよね」
「――苦手なんですか?」
「苦手ってほどじゃないよ。だけど、長文問題に、ちょっと手こずっちゃって」
その点、
「その点――利比古くんは、高2の3学期レベルの長文でも、楽勝で読めちゃうんだよね」
なにが言いたいんだろう、という顔になっている利比古くん。
構わず、
「英語長文の読みかた――わたしに、教えてくれない?」
「……ぼくですか!? いまですか!?」
「ぼく。いま。」
「姉という適任者が……」
「利比古くんがいいの」
「なぜに」
「あなたとわたしで、高めあっていくの」
「おっしゃる意味が」
「4月からも高校生なのは、わたしとあなたでしょ?」
「……」
「切磋琢磨していこうよ」
「……」
「戸部邸ゼミナール。英語の講師は利比古くん」
「……英語以外は?」
「国語は、わたし」
「じゃあ、社会は」
「社会も――、わたしのほうが学年上だから、わたし」
「……、
平等には、なりませんよね……やっぱり」
「わたしが国語と社会教えるの、不満!?」
「ち、ちがいますよ」
「不満じゃなかったら、不安!?」
「そんなわけでは…」
「本日開講。戸部邸ゼミナール」
「…代◯木ゼミナールみたいなことにならないといいですね」
「アットホームで行こうね、『戸(と)ゼミ』は」
「『戸ゼミ』!?」
「呼びやすいでしょ?」