放課後、
スポーツ新聞部の様子が気になったので、
活動教室にわたしは向かった。
扉を開けて入ると、あすかさんひとりだけ。
「――加賀くんは?」
「都合が悪いそうで」
「お休みなの」
「ハッキリ言って、サボり、ですね」
「それはよくないわね」
ちゃんと連絡入れておくだけ、マシだけれど。
「じゃあ、きょうはあすかさん、ひとりぼっちで部活しないといけなくなってたのね」
「椛島先生が来てくれて、助かりました」
わたし、ちょうどいいタイミングだったんだ。
「加賀くんがサボり気味で、3年生の3人が実質引退ってことは、もしかして――」
「ほとんどわたしひとりで新聞書いてます」
「それは――たいへんねえ」
「ページ数はそんなに減ってないんですけど……」
「だっ大丈夫? 無理してない? あすかさんに負担、かかりすぎなんじゃ」
「へっちゃらです」
――ひとりで、書きまくれるっていうのは、
天賦(てんぷ)の才なんだろう。
さすが『作文オリンピック』銀メダル。
全国2位の文章力。
だけど、
「書き過ぎるのも、心配だな、わたし」
「書き過ぎ……なんでしょうか?」
「顧問だから、心配しちゃうの」
だって、
「生徒を見守るのも、顧問のつとめだから」
あすかさんの、となりの席に座る。
寄り添うように、椅子を近づけて、彼女のほうに顔を向ける。
「……少しは、休んだって、いいんじゃない?」
「し、心配し過ぎなのでは……先生」
「し過ぎるくらいがちょうどいいの」
向かい合った彼女に、こうお願いする。
「ちょっと、お話しましょうよ」
× × ×
「加賀くんは、どうにも制御できないね」
「困ってます」
「わたしも困ってる」
「やっぱり、先生からしても、問題児ですか」
「宿題、かならず遅れて出してくるんだもの」
「ひどい」
「何回怒ってもだめ」
「…もう放(ほ)っといたらどうですか」
「放っとけないの」
「どうして」
「教師だから」
「たいへんですね……手がかかる生徒が、身近だと」
「その点、あなたは手がかからなくってうれしいわ、あすかさん」
「ホメ…られて、るんですか、わたし?」
「宿題、ちゃんと出してくれるし」
「宿題ぐらい出しますよ!」
「…そういうあなたのマジメさが、わたし、好き」
「わたし……決して優等生ではないと思うんですけど」
「どうしてそう思うの?」
「国語の成績が……べつだん優秀ってわけでもないし。
現代文にしても、古典にしても、良くて85点、ってところだし」
「85点は、よくがんばってるわよ」
「そうでしょうか?」
「加賀くんは、平気で25点を取ってくるし」
「……どうしようもないですね、彼」
「ね? どうしようもないでしょ?」
笑い合うわたしたち。
「笑っちゃ、失礼、なんだけど、ねっ、でも」
「笑い過ぎですよぉ~~、せんせ~」
ゴメンね、加賀くん。
期末テストは50点を目指そうね。
× × ×
「なんだか、加賀くんがかわいそうになってきちゃった」
「先生、わたしも若干」
「本人の名誉のために話題を変えましょうか」
「今度はだれの悪口言いますか?」
「あら、あすかさんもイジワルなのね」
「てへーっ」
「悪口――はおいといて、女性週刊誌的な話をしましょうか」
「ゴシップですか?」
あすかさんが眼を輝かせている。
「ゴシップ――というよりも、熱愛報道」
「あっ――もしや」
「そっか、あなたは同じ部活だから、とっくに気づいてるか。
…『熱愛報道』とか言った意味、なかったか」
「細かいことは気にせずにいきましょうよ。面白いことには変わりないんだから」
「――面白すぎるよねぇ。だっていきなり『岡崎くん』が『竹通(たけみち)くん』になってるんだもの」
「わたし、新学期早々、衝撃を受けました」
「いつの間に、って感じよね」
「ニヤニヤしちゃうんですよ、ふたりを見てると」
「わたしさ、
岡崎くんが一宮(いちみや)さんに惚れてるのは、うすうす気づいてたんだけど」
「おー、先生も目ざとい」
「正直、空回りで、卒業まで行っちゃうのかな~、って思ってたの」
「――それが、年を越したら、いきなりカップル成立」
「なにがあったのかしらねぇ」
「イジワルな笑顔になってますよ、先生」
だってぇ。
「冬休みに、なにがあったって話でしょ!? 想像しちゃったよ、いろいろと」
「ヤダー、先生、岡崎さんと桜子さんのクラスメイトみたい」
「そーねっ、女子高生的な興味で、あのカップルのこと考えちゃう」
「きょーしがそんなことでいいんですかー」
超面白い、といった顔で、あすかさんがからかってくる。
そうこなくっちゃ。
こっちだって、超超面白いんだし。
「あら~~っ、あすかさんだって、イメージしちゃうんでしょ~、あのカップルの『きっかけ』を~」
「いつ告白したのか」
「そう!」
「どこで告白したのか」
「そう!」
「――たぶん、岡崎さんのほうから告白したんだと思うんですけど、」
「そう思う!!」
「その告白に対する、桜子さんの返事を想像すると――」
「アツくなるよね!!」
「はいっ、この冬いちばん楽しいですよね!!」
――岡崎くん、一宮さん、
とりあえず受験、がんばって。
応援してるよ、先生。
あらゆる意味で……。
ふふっ。