【愛の◯◯】モテるんでしょ!? 答えてくれなきゃ、イタズラしちゃうぞ!?

 

お邸(やしき)にやって来て、羽田さんとおしゃべりしている。

「戸部くんは?」

わたしが訊くと、

「大学です」

羽田さんが答える。

あら、戸部くん、まじめ。

「戸部くん、まじめなのね」

「はい、案外」

苦笑いで言う羽田さん。

「彼、単位は、順調に取れてるのかしら」

訊くと、

「どうなんですかねー?」

と、微妙なお答え。

「だめじゃないのー、じぶんの彼氏の単位取得具合いはキチンと把握しておかないとー」

冗談めかしてわたしは言う。

「ま、どーにかなりますよ」

「なる?」

「たぶん」

タハハ。

若干、心もとなし。

「たぶん、大丈夫。

 アツマくんは、アツマくんなりに――がんばってると思うので」

「――そう」

羽田さんのそういうことばを聞いて、少し安心する。

そして、わたしもがんばらなきゃね……って思う。

 

「それはそうと」

「え、なによ、羽田さん」

「……いま、葉山先輩とふたりきりだから、話せるんですけど」

「えっ、えっ、なになに?? 気になるじゃない」

なぜか、少しだけほっぺたを赤らめる羽田さん。

「どしたの? 戸部くんとエッチなことでも――」

「――してません。…しませんでしたけども」

「けども…?」

「きのうの夜……リビングで居眠りしてたら、アツマくんに……お姫さまだっこされて」

「!」

「それで、お姫さまだっこで、部屋に運ばれて」

「あら~~」

「…うれしかった」

 

それはうらやましいなあ~~。

わたしも、キョウくんに、お姫さまだっこされた~い。

そんなシチュエーション、まだ、ないから。

 

「羽田さんの、いまの、トキメキ顔(がお)――女子高生みたいよ」

「あんまりからかわないでくださいよ~、センパイ」

「からかうよ」

「イジワルなんだから♫」

「あはははは~♪」

 

× × ×

 

「ところで。センパイ、ほんとのほんとで、アルバイト始めるんですか?」

「始めるよー。もうすぐ。夏本番になったら、ね」

「どこで、バイトを?」

「横浜」

「エエッ、ちょっと遠いんでは」

「近くはないけど、親戚のおじさんのお店だから」

「センパイが調子崩さないか、心配なんですけど……」

「だいじょーぶよー、おじさん、『疲れたら休めばいい』って言ってくれてるから。休み休み、おじさんのお店を手伝うって感じだから」

「……ヘルプに行きましょうか? わたし」

「だめ」

「!?」

「過保護はイヤよ」

「……わかりました」

「わかってくれたか」

「センパイ、余裕あるって感じなんで」

「余裕ありありよ」

「じゃ、がんばってください。くれぐれも、無理しすぎないで」

「うん、ありがとう」

 

羽田さんの顔を、じ~っ、と眺めるわたし。

 

「ど、どうしましたかセンパイ」

「あなたのキレイな顔見てると――、勇気をもらえる」

「えっ……」

「もっとこっち向いてよ。パワー注入して」

「な、なんのパワーですかっ」

「バイトの、パワー」

 

羽田さんがこっちをまっすぐ見てくる。

わたしと彼女の眼と眼が合う。

 

「……素晴らしい。ステキよ、羽田さん」

「ステキなのは、センパイのほうですよっ。わたしなんか……」

「なにを言うの。あなたらしくもない」

「……」

「ジェラシー感じてるのはわたしのほうなんだから」

「ジェラシーって。なんに対してっ」

「顔。あなたの、顔。」

「……利比古もうすぐ帰って来ますっ

「それは、たのしみ」

 

 

× × ×

 

で、羽田さんの弟さんの利比古くんが帰ってきた。

 

利比古くんと、対面(トイメン)。

 

…うむっ。

ハンサムな男の子だ。

素晴らしき二枚目。

 

素晴らしき、きょうだいであることよ。

姉は超美人。

弟は、いかにもモテ期真っただ中な、イケメン……。

 

 

羽田さんは飲み物を取りに行った。

 

「利比古くんは、放送部なんだっけ?」

緊張ぎみに、

「正確には……違って。放送系クラブが、もうひとつあって。そっちに」

と彼は答えてくれる。

「ふ~ん、複雑なのねえ」

「うちの学校は、部活や同好会が乱立してるんです」

乱立。

「おもしろいじゃないのぉ」

「ひとことで、カオスです。うちの学校の、クラブ活動は」

カオス! わたし、カオス、大好き!!

「…そんなにですか」

「そんなに、なのよ。好き好き、カオスになるほど好き」

「……」

 

まぁ、苦笑するしかなくなるよね。

…利比古くんが入ってる放送系クラブのことを詳しく訊き出すのもいいけど、

ここはひとつ、話題を大転換させて…。

 

「ところで、さ」

「はっハイっ」

「羽田さんがこっちに戻ってこないうちに、訊いておきたいんだけど、」

「……ハイっ?」

「――やっぱり、女の子にモテるの? 利比古くんって」

 

 

 

 

「お~~~い、利比古く~ん」

 

絶句だ、こりゃ。

しょうがないわねー。

案外、手がかかる…。

 

「…ビックリ、しちゃったか~」

「……しました」

「いきなり、だったもんね~~」

「……」

で、モテるの?

「……」

「恥ずかしがりすぎよ~、利比古くぅん♫」

「……」

ゴメンね~~、イタズラ好きなおねえさんで~~~

「…………」

もっと、イタズラしてあげたいぐらいなんだけどな☆

 

 

 

――かわいい。

利比古くんかわいい。

かわいがり甲斐のある、少年だこと――。

 

超、クセになりそう。

…えへへのへ。