「アツマくん、酔いつぶれた蜜柑ちゃんを、部屋まで運んであげたんだって?」
「ゲゲッ愛、どうしてそれを……」
「アカちゃんから聞いた~~」
ニヤけにニヤけて愛は、
「よかったねぇ~~」
なにがだっ。
なにが、よかった、だっ!!
「――でもちょっとうらやましいかも」
お!?
「お姫さまだっこ、したんでしょ?」
「……まあな。そうするより、なかったからだ。蜜柑さんも、大変なことになってたし」
「わたしもアツマくんにお姫さまだっこされた~い」
「ど、どこまで本気で言ってるのか」
× × ×
そうやって、おれをからかいにからかっていた愛だったのだが――。
夕食後、しばらくして、リビングに行ってみると、
夕飯を食いすぎたのかどうか知らないが、
ソファにもたれて、スヤスヤと眠られてしまわれているではないか。
ま、ほっといて、寝かせておくか。
――いったんは、そう思った。
でも――、思い直した。
こんな姿勢で寝続けるのは、身体(からだ)に毒だ。
それに、こうやってある意味マヌケな姿をリビングで衆目に晒し続けるのも、どうかと思う。
マヌケなお姿を晒しているのは、愛なのだが、当事者でないおれまで気恥ずかしくなってくる。
――とにかく、このままソファで、愛を寝かし続けておくわけにはいかない。
無理やりな根拠を並べたかもしれんが、早めに部屋に愛を運搬すべきだ。
いまなら――だれも、見ていないしな。
ソファの前に立ち、スヤスヤの愛の寝顔をのぞきこむ。
黙ってたら――ほんとうに美人だな、コイツ。
――もとい。
「お姫さまだっこ、か」
× × ×
幸い、あすかに見つかって茶化されたりすることもなく、見事に愛を部屋のベッドまで運搬することに成功した。
…お姫さまだっこだった。
…以前も、こんなことがあった気がする。
いつだっけ。
お眠り状態のコイツを部屋のベッドまで運ぶのが、初めての体験というわけでもない……考えてみたら。
勝手にコイツは「お姫さまだっこされてみた~い!」とかはしゃいでいたが、
もう、されてますから、とっくに。
愛を抱きかかえたのは、通算何度目か――とか、どうでもいい(?)ことを、床にあぐらをかいて、考えていた。
まあ、
「抱く」ってのにも、いろんな定義があるよな。
抱きかかえるだけじゃなく、
抱きしめたり、とか、さ。
……決して、エロいことを考えているわけでは、ございません。
「抱く」にそういうニュアンスがあることぐらい、知ってる。
何歳だと思ってんの。
ガキじゃないんだから。
……でも、エロい意味で「抱く」という行為をとらえているわけじゃ、ぜんぜんないの。
ないんだからね、ないんですよっ。
いまは、違うの!
スケベな煩悩なんて、働いてないっ!!
「……そこんとこ、勘違いしないでほしいっすね」
思わず、ひとりごとが飛び出た。
眼の前のベッドで寝ている愛に、なにも手を出さず――数十分経過。
× × ×
やがて、むくぅっ、と愛が起床。
「…あれ? わたしの部屋だ。アツマくんもいる」
「おれがお姫さまだっこしたんだ」
単刀直入におれは言う。
「――マジで」
少し顔を赤くして、おれを見てくる愛。
照れ笑いで、
「うれしいかも」
と言ったまでは、いいのだが、
「わたしが起きてくるまで――ずっとそうやってジッとしてたの? アツマくん」
「…ああ」
おれは、うなずく。
正直に。単純に、正直に。
「よく、ガマンできたね~~!!」
…うるせぇよ。
あっけらかんと言いやがって、コイツは…!!
「あ、アホなこと言ってないで、早く風呂に入っちまえよ、風呂に。…まだだろ? 風呂。」
ぎこちなく、時計に眼をやって、
「ほっほら、もうこんな時間だ…!」
「え~~っ!?」
な、なんだその反応は。
「『まだ』こんな時間じゃーん」
「なっ、なにが言いたいのかな、キミは」
「もうちょっとここで時間をつぶしても――」
「はぁ??」
「文字数も、少なめだし」
「あ、アホンダラっ」
「――そんなに急いでお風呂入る必要、ないよ」
「く……」
「でしょ?」
「る、るせぇ」
「たじろぎすぎだよぉ~、アツマくん」
「……時間をつぶすって、具体的に、なにすんだよ」
「これから決める」
「バカあっ」
「今夜のアツマくん、アホとかバカとか言いすぎ。よくないよ」
「……」
「そだそだ」
「……」
「デートの予定を考えよう」
「……デート?」
「なーんでそんなに不審な顔なのよおっ」
「不審じゃねーよ」
「アツマくんってさ」
「は?」
「妙なとこで、マジメすぎるとこがあるよね」
「なんだそれ」
「わたしをお姫さまだっこしたあとで、わたしになんにもしなかったみたいだし♫」
「あたりまえじゃっっ!!」