「おお、水曜日!
あなたはどうして、水曜日なの?
――週の真ん中、だから?
きっと――水曜日だから、水曜日なんでしょうね。
『ランチタイムメガミックス(仮)』、はじまります。
――はい。
気温が、着実に上がってきましたね。
夏の匂い……。
GWが明けると、夏ですか。
夏色のナンシーこと、板東なぎさでございます。
……古すぎ?
『あなたはいつの時代を生きてるんだ』って、言われちゃう?
――ま、早見っていったら、優じゃなくて沙織だよね。
そんな時代に生きてんだわ、わたしたち。
2000年代産まれなんだわ。
えー、時たま、
『選曲が古くありませんか?』
という貴重なご意見が来るのですが、
カンペキ令和だぜ! みたいな超・トレンド楽曲があったら、
わたしに遠慮なく教えてね。
教室に来て、教えてくれてもいいよ。
新譜のCDを持ってきてくれたら、優先して流そうと思うんで。
――ここでいきなり、おたより読み。
ラジオネーム『こぐましろくま』さん。
『この前、学校の近場のブックカフェで読書している板東さんを目撃してしまいました。とっても素敵だと思いました。』
うんっと、ブックカフェにいるところを、見られちゃったみたいで。
間違いありません、『こぐましろくま』さん、あなたが目撃したのは、わたしです。
素敵だ、って言ってくれるのは、うれしいんですけど――、
ちょっと照れちゃうな。
テレテレ。
テレテレの、テレッテレ。
ほら――カフェで読書するのは、『ポーズ』みたいな側面もあるから。
ひとことでいえば、『カッコつけ』ってこと。
あの日のわたしは……見栄をはってたんだ。
人生でベスト5に入るぐらいの、見栄ちゃんだった。
わたしがあの時なにを読んでいたか、教えてほしいですか?
それなら、わたしの教室に突撃して、名乗り出てください。
それか、この【第2放送室】まで来てもらうのもいいな。
……この番組、旧校舎からお送りしてるわけですが、
最近、旧校舎に立ち入るのを敬遠するようになった生徒が、増えているらしくて。
なんでも、『なにかが出る』という怪情報が、出回ってるそうな。
つまり、幽霊やら妖怪やら、そんなものが『出る』っていうんでしょ??
そんなこと、ないよ。
安心して旧校舎にはお越しください。
大丈夫だって。なにも怖くないから。保証する。
『桐原高校のフシギ』が、また、増えちゃうよ。
これ以上――増やしたくないよね、フシギ。
七不思議どころじゃなくなってるんだよね? あれ。
いま、12個ぐらいあるんだっけ??
とすると、『旧校舎でなにかが出る』がフシギ認定されると、13番目のフシギになっちゃうよ。
13番目って、いかにも不吉で、不名誉だな。」
× × ×
「朗読コーナーが休止中なんだけど…そろそろ再開したいな。新しい本を読んでみたい」
「板東さんの朗読は上手(じょうず)だもんね」
「黒柳くんのヘタッピとは格が違うんだよ」
「……ヘタッピ?」
「ほら、黒柳くんは、国語の授業で教科書を読むとき、噛みまくることで有名じゃないの」
「……たしかに」
「黒柳くんのカミカミも、3年生のあいだではベスト10に入るぐらい、よーく知れ渡ってるよね」
「カミカミ、って」
「――よかったじゃん。カミカミに噛みまくるのが、注目の的になって」
「――どう考えても、よくない注目のされかただと思うんですけど……」
「黒柳くんイジり倒してもしょーがないよね」
「板東さん……ぼくをイジり倒すの、楽しそうだよね」
「黒柳くんがマゾなのが悪いんでしょ」
「!?」
「――朗読コーナーのテキスト、どーしよっか? シェイクスピアでも読んどく? 例えば、『から騒ぎ』とか」
「ぼ、ぼくに、言われても」
「――ホントーに、『教養ないです』、って顔してるねぇ」
「ええぇ」
「シェイクスピアのシェの字も知らないって顔」
「だって……」
「だって、なに?」
「……やっぱいい」
「イジりすぎも――よくないよね」
「う、うん、ぼくとしても、そう思うよ」
「イジりすぎたことを謝りはしないけど」
「それもどうなのか……」
「シェイクスピアといえば、演劇。演劇といえば、演劇部」
「演劇部がどうかしたの?」
「ウチの演劇部って、大所帯(おおじょたい)じゃない?」
「あー、文化部の中でも、規模、大きいよね」
「吹奏楽より目立ってんだもんね」
「そうだね…」
「…で、大所帯だから、部内でも、いろんなグループができてて」
「グループ?」
「派閥(はばつ)とかじゃないよ。念のため。」
「あ、はい」
「例えば、ね……3年生の有志が、『チトセグミ』っていう独自の演劇グループを作ってて、三軒茶屋の小劇場で公演したりしてるの」
「それは、すごいね」
「すごいでしょ。
で、こっからが本題。
わたし、『チトセグミ』を――密着取材してみたい」
「――ドキュメンタリー?」
「ドキュメンタリーちっくに」
「…なるほど」
「黒柳くんも同行してね。とーぜん、撮影要員」
「もう、確定な流れなんだ……」
「そーだよ」
「……羽田くんには? きょう不在だけど、羽田くんには、言わなくてもいいの?」
「ウフフッ」
「ど、どうしてそこで笑うの板東さん」
「羽田くんの手は、借りない、今回」
「え!?」
「わたしと黒柳くんのふたりだけで作る。番組作ってることは、彼にはできるだけ伏せておく」
「なんで――」
「よろこんでよ、黒柳くん」
「――?」
「わたしとふたりで密着取材に赴(おもむ)くってことだよ?
わたしと・ふたりだけで・取材」
「ふたり、『だけ』――」
「そういうことよ。
擬似デートっぽいでしょ」
「板東さん……擬似デート、って、なんの冗談!?」
「冗談じゃないよっ!!!」
「ヒエッッ」
「三軒茶屋にふたりきりで取材に行くのだって、擬似デートでしょ」
「本気で……言ってるの??」
「強調しとくけど、デートとは似て非なるものだからね、擬似デート」
「でも、なんでわざわざ、擬似『デート』とか、そんなたとえを……」
「黒柳くんにはもっと自信を持ってほしいの」
「自信」
「会長として、切実に思ってる」
「切実に…」
「…だから、わたしとデートごっこして、自信をつけてほしい」
「ごっこ……かぁ」
「不満でも!?」
「……自信をつける理屈に、なってるのかなあ。
それと……」
「なに?」
「ごっこってことは、擬似体験、だよね」
「それが?」
「『体験』してなきゃ、擬似体験するのも、難しい気がするんだけど」
「なにがいいたいのっ」
「板東さん、きみは――『体験』があるから、擬似デートだとか、デートごっこだとか、言ってるんだよね?」
「……」
「なんでそこで口ごもるかなぁ。
『体験』ってのは、『デート体験』ってことだよ」
「……」
「板東さーん」
「……デリケートな部分に、触れたね、黒柳くん」
「もしや……怒っちゃった?」
「サド」