とうとう、GW最終日。
こどもの日ー。
× × ×
おねーさんの後輩の川又ほのかちゃんと、電話でお話中。
「……ふむふむ、ほのかちゃんは、そんな音楽が、好きなんだ」
『ミーハーでごめんね』
「そんなことないよ」
『あすかちゃんのほうが……絶対、音楽通だよ』
「あ~、それは言えるかもね」
『あ、あすかちゃんっ……』
「ごめんごめん、自分で納得しちゃった」
『……しょうがないなぁ』
イジワルしちゃった。
イジワルだなー、わたし。
だれに似たんだろ。
「ほのかちゃん、しょげないで。わたしが音楽通だからって」
『べつに、しょげないし、しょげてない』
「よしよし」
『――昔のロックバンドの曲、よく知ってるよね』
「好みなんだよ」
『そこが、すごい』
「てへへっ」
『バンドでギターも弾いてるんでしょ?』
「まぁ、弾いてるね」
『……』
「ほのかちゃーん?」
『……見かけによらない、って言ったら、怒っちゃう?』
タハ~。
「怒らないって~~」
『よかった……』
「時たま、そう言われることもあるけど、気にしてない」
『そっかー。……わたしは楽器、できないんだ。だから、うらやましいし、うらやましい以上に、尊敬する』
ほのかちゃんが、わたしを、リスペクト!
おぉっ。
それからわたしとほのかちゃんは、お互いの読書傾向に話題を移していった。
「……ふむふむ、ほのかちゃんは、そんな本を、読んでるんだ」
『どう思った……?』
「さすが文芸部だね。さすがおねーさんの後輩だね」
『えっ』
「わたしなんか、及ばないよ」
『えっ、えっ、及ばないって』
「わたしが歯が立たないような本、読んでる」
『……そこまで、言っちゃう!?』
「読書に関しては、負けてる。白旗」
『……』
「自信持って、ほのかちゃん。ほのかちゃんは立派な、文学少女だよ」
『……!!』
「もしかして、そう言われたこと――なかった?」
『うん……初めて』
「みんな見る目ないなぁ」
『あすかちゃん……』
「んー??」
『うれしい……』
「よかった。よござんした」
『え、『よござんした』って、なに』
「――江戸っ子弁?」
『――夏目漱石かな』
おねーさんの読書は、いい意味で『激ヤバ』だけど、
ほのかちゃんの読書も、かなりヤバいことが判明した。
もちろん、いい意味で、かなりヤバいってこと。
『かなりヤバい』を連発してると――、
ナンバーガールな気分だな。
ところで。
「ほのかちゃん」
『今度は…なにかな?』
「…お誘いが、あってね」
『お誘い?』
「そ」
『もしかして――』
「わかる?
わかっちゃう??」
× × ×
「根尾くんにグランドスラム打たれちゃいましたね」
「くれてやったのよ」
「ハハ……」
連休ももうすぐ終わる昼下がり。
ダイニングでコーヒーブレイクしながら、おねーさんと雑談中であった。
きのうは根尾くんに手痛い一発を食らったが、DeNAベイスターズの矢印も最近はちょっぴり上向きで、おねーさんも気分が良さそうである。
「きょうは勝つから」
断言した。
「もうすぐですね、試合開始」
「まだ、お菓子食べるぐらいの時間はあるよ」
「たしかに。お菓子、出しましょうか」
「あすかちゃんの好きなお菓子、分けっこしたい」
「じゃあ……今回は、カントリーマアムで」
「いいチョイスねぇ」
「えへへっ」
カントリーマアムを――食べる、ついでに。
「――まだ試合開始まで少し時間あるんで、『伝達事項』を言っちゃいたいんですけど」
「『伝達事項』?」
「はい」
「なになに」
「ほのかちゃんが――また、邸(ウチ)に来ます」
「えっ、川又さんが!?」
「お泊りで」
「それって、いつ?」
「来週の土日予定」
「15日と16日、か」
「そーですよ」
「誘ったのはどっち? あすかちゃん?」
「ハイ! わたしです」
「積極的……。
わたしも、見習わないと」
『見習う』?
「あ、ああ、ご、ごめんねあすかちゃん、キョトーンとさせちゃって。
こっちの話。
大学での、友だち関係的な……お話」
おねーさんのキレイな顔を、わたしはジーッと見る。
そして、
「……いろいろあるんですね、大学生も」
「そうね。入り組んでるわね」
「入り組んでる――」
「いっぱい新しい出会いがあるから、関係も、複雑に」
「――なんとなく、わかります」
「わかってくれる!?」
「そりゃーだって、わたしとおねーさんの付き合いだし」
「よかったわ」
おねーさんはホッと胸をなでおろす。
いささか、オーバーリアクションだが。
「――話をもとに戻して、ほのかちゃんのお泊りのこと、おねーさんも覚えといてください」
「忘れないよ、わたしは。――2ヶ月ぶりか」
「そうですね。2ヶ月ぶりのお泊り」
「今度も、あすかちゃんのお部屋で、寝泊まり?」
「そのつもりですけど」
「……そっか」
「もしや、寂しかったり?」
彼女は気丈(きじょう)に、
「寂しくない。あすかちゃんに譲ってあげる」
「偉いですね、おねーさんは」
「……そうよ、偉いのよ」
「――ま、部屋に3人集まって女子会、とかやったりできるんですし」
「――いっそのことさぁ」
「? なんですか」
「ふたり一緒に寝るんだったら、ふたり一緒にお風呂に入りなよ」
またまたぁ……。
「『裸の付き合い』って、言いたいんでしょ」
彼女は応答せず、よこしまな眼つき……。
「……大学生になったら、スケベさが増すものなんでしょうか」
「かもねー」
おねーさんの、エロい言葉も……、
好き好き。