「アツマくん、きょうは短縮版だよ」
「なんで」
「なんでも!」
「……前にも、『短縮版だよ』とか、言われた記憶が」
「できれば、1000字以内で終わらせたいわね」
「……そうだ、そのときも、おまえ『1000字以内で~』とか言ってたな」
「つべこべ言わない」
「果たしてうまく1000字以内でまとまるのかな?」
「どうかしらね」
「や、どうかしらね、じゃねえよ、おまえががんばれよ」
「あなたもよ!!」
「ところでさ」
「なに」
「水曜日の朝なわけだが。
愛、おまえ、学校に行かんくていいんか?」
「は~~~っ」
「どデカいため息つきやがって!!」
「アツマくんがなんにもわかってないからじゃないの」
「どういうことだよ」
「言ったでしょ!? 『自由登校』だって!」
「自由登校…」
「そうよ。きのうから高等部3年は自由登校になったのよ。学校に行っても行かなくてもいいの」
「いいな、それ」
「ま、学校行かないんだったら、その代わり、自宅学習で受験勉強しないとダメなんだけどね」
「ほーん」
「自宅だとやる気が出なかったり集中できなかったりするからって、わざわざ学校まで来て自主勉強する子も多いわ」
「おまえは――邸(いえ)でも、勉強できるのか?」
「できるわよ。これからやるつもり」
「その割には――くつろいでんな」
「わたしスケジュールちゃんと決めてるから。9時になったら始めるんだから」
「ほんとに始められんのか?」
「なめないでよ」
「ソファに寝っ転がって雑誌読んでんじゃんか」
「メリハリつけてんのよ、メリハリ。あなたとは違うの。いつまでたってもゴロゴロしてるわけないでしょ」
「そんなにおれはだらしないか」
「わたしよりはだらしないでしょ」
「寝っ転がって言われても説得力ないぞ」
「っるさいわね!! いつも寝っ転がってるのはアツマくんのほうじゃないの」
「あ、起き上がった」
「……アツマくんこそどうなのよ」
「どうって、なにが」
「大学は!?」
「甘いなぁおまえも」
「……そんな顔して笑わないで」
「休講だ~~」
「ムカつく。ムカつくったらムカつく」
「もうすぐな、お父さん春休みなんだ」
「またお父さん気取ってる。悪いクセ」
「じゃあ、『お兄さん』だったらいいか?」
「それも良くない」
「なんでだよー。お兄さん休み期間はバリバリアルバイトで働いちゃうんだぞ」
「ヘンな言い回しやめてっ」
「クッションを投げつけてくるのは、お兄さん感心しない」
「あなたにクッションを投げるのも、勉強のウォーミングアップよ」
「……こわい」
「――うまい具合に、1000文字超えたみたいね」
「やったな」
「…春休みのバイトって、また喫茶店?」
「『リュクサンブール』な」
「…あなたが働いてるところに突撃してみようかしら」
「なにするつもりだ? 長時間受験勉強で居座られても困るぞ」
「そんなことするつもりない」
「じゃあ、なにしに来るんだ」
「あなたの働きぶりをずっと見てる」
「……店に来るときは、前もって言ってくれよな」
「どうしてよ、わたしとあなたの仲じゃないのっ」
「だって……心臓に悪いから」