カーテンを開いて、朝の光を浴びる。
文化祭の振替休日だから、1時間だけお寝坊した。
× × ×
文化祭のバンド演奏の責務は果たした。
今後気になることは――、
スポーツ新聞部の人間模様と、
わたしの『作文オリンピック』の結果。
作文オリンピックのほうは、10月になれば結果が出るのだ。
「そのとき」が来るのを待つしかない。
もう書いて、出しちゃったんだから、こっちのほうでジタバタしたって仕方がない。
不安と希望混じりの感情を――ときおり抱いたりは、するけれど。
スポーツ新聞部の未来はまったく不確定だ。
いや、正確には、スポーツ新聞部における人間関係の行く末が――いまだ全然定まっていない。
桜子さんも、
瀬戸さんも、
岡崎さんも、
ギクシャク、ギクシャク、ギクシャク――。
とりわけ3年組の歯車がお互い噛み合っておらず、わたしは心配。
こんがらがってるよねー。
加賀くんの存在感が極度に薄れるぐらい、3年組の人間模様は複雑にこんがらがっている。
水泳部の神岡恵那さんと仲睦まじい瀬戸さん。
ハルさんとの因縁浅からぬ岡崎さん。
神岡さん・ハルさんなど、スポーツ新聞部外部の人間も巻き込んでこんがらがっちゃってるから、もう、たいへん。
あと――3年の皆さん、進路、どうするんでしょうか??
「……わたしは、傍観者でいいんだろうか。
どう思う……? ホエール君。」
……、
……腹話術じゃあるまいし、
ゆるキャラのホエール君のぬいぐるみに語りかけたって、しょうがないんだけど、ね。
× × ×
「よぉくつろいでるなあすか」
「だってせっかくの振替休日だし」
くつろいでるのは、お兄ちゃんのほうじゃないですかー。
大学はどうしたのー?
とか、思っていると、
「ヨォシ! せっかくおれもおまえも休みなんだし、2人で昼メシ食いに行こーぜ!!」
――そういえばいつの間にか、そんな時間帯だ。
「――いいよ、わかった。外出る準備するね」
わたしのリアクションが意外に思ったのか兄は、
「ん…いつものあすかなら、もうちょっと抵抗すると思ってたけど」
「きょうのわたし素直なの」
「んん……」
「お兄ちゃん、『笹島飯店』に行きたいんでしょ?」
「どうしてわかったんだ……」
「妹だからに決まってるでしょ」
そうやって、不敵な笑い顔を作ってみるのだ。
× × ×
「しばらく行ってなかったもんね」
「マオがさ、バイト先に来てくれたから」
「そのとき『近いうちに行ってやる!』って約束したんだよね」
「よく知ってるな。あすかに話したか?」
「んー、お兄ちゃんが話したか、マオさんから聞いたか……」
「ずいぶんあいまいだな」
「いいじゃん、どっちでも。
わたし、マオさんとの約束を果たしたお兄ちゃんはエラいと思うよ」
「ずいぶん素直だな」
「そんな日もあるの」
そしていつの間にやらマオさんの実家『笹島飯店』の入口前に着いたのだった。
ガラーッ、と扉を開け、入店。
「いらっしゃいま…アツマさんとあすかちゃん!!」
お盆を抱いて、感極まった表情のマオさん。
「アツマさん、ほんとうに来てくれたんですね、しかもこんなに早く!」
「長男はエラいから約束は必ず果たすんだ」
「『長男はエラいから』ってなんなの、お兄ちゃん…」
「あすかちゃんもお店に来てくれるのは久々ね、すぐお冷やとメニュー持ってくるからね~」
マオさんの機敏さにわたしは驚いた。
実家で働き始めて半年、ずいぶん手慣れるものなんだなー、と感心。
ニコニコ顔で、兄妹の向かい合うテーブルの脇に立つマオさんに、
「マオさんは――中村部長に、お盆休みに会ったんですよね」
当然、卒業してしまったので、もう『部長』ではないのだが、ついクセで『中村部長』と言ってしまう。
「うん、会ったよー」
「わたしも中村部長に会いたいです。」
目を丸くするマオさん。
「ソースケに…そんなに…会いたいの???」
「だって、彼は……いろいろなものを、わたしに与えてくれましたから」
「そ、ソースケ、そんなに人望があったんだなあ、って、」
「マオさんが過小評価なんですよぉ」イタズラっぽく。
「違うよ! わたしがいちばんソースケのこと認めてるもんっ!
……あっ」
恥ずかしそうに口をつぐんだマオさんに、
「みんな……彼のことは認めてるんですよ……。
いちばんは、もちろんマオさんで間違いないですよ?」
「こらあすか、無駄口叩くなっ、はやく注文決めろ」
「ごめん、お兄ちゃん」
「素直なのはいいんだがなあ」
「ブログという次元じゃなかったら何分間さっきの会話で消費してんのかって話だよね、ごめん…」
やってられない、といった様子で小さくため息をついて兄は、
「ラーメンとチャーハンのセットを頼むよ」
「承りました。――あすかちゃんは?」
「ラーメン。それと――」
これを頼まなきゃな。
「――餃子1人前」
「あ、おれも餃子頼もっかな」
「ダメダメお兄ちゃん」
「なんでだよ!?」
「1人前を――お兄ちゃんと半分こするの。
『笹島飯店』の餃子1人前は6つ――でしたよね? マオさん」
感激の声でマオさんが、
「よく覚えててくれたね!!
あすかちゃんは、お兄さん想いなのね!!」
× × ×
「6つ、ってことは――半分こで、3つしか食べられないのか」
「いいじゃんお兄ちゃんチャーハンも頼んでるんだし」
「あくまで1人前に執着するというのか」
「――兄妹で分け合うことに、意味があるんでしょ?」
「なんか、きょうのおまえ――」
「?」
「落ち着いてるな」
「ありがとう、ほめてくれて」
「…いつもこうだったら、もっと平和なんだがな」
「前言撤回」