藤先輩と一緒に、アツマさんがバイトしているという喫茶店『リュクサンブール』に来た。
おしゃれだ……。
「場違いじゃないですかね?」
思わずわたしは言ってしまった。
お冷やを運んできたアツマさんが、
「なにいってんだ」とツッコミを入れる。
「全然場違いじゃないよ」
「アツマさんにそう言ってもらえるとうれしいです」
「マオ…そんなに戸部を立てなくても」と藤先輩。
「だって純粋にうれしかったし。
『場違いじゃないか』って言ったのは――実家の空気に、馴染みすぎていたから」
「庶民的な中華料理屋だもんね」と苦笑いの藤先輩。
「藤村ぁ、『笹島飯店』を悪く言うもんじゃない」
「心外だなあー、悪く言ってなんかないよ」
「マオ、またいつか『笹島飯店』に行ってやるからな!」
「ありがとうございます、近いうちがいいです」
「よっしゃよっしゃ」
「ところでアツマさん、
注文してもいいですか?」
「あっ」
× × ×
藤先輩に、ソースケの近況報告。
実はお盆休み、ソースケは東京に帰省していたのだ。 ※フィクションですよ
できるだけ――ソースケのそばに居られるように、わたしは過ごした。
ごはんも作ってあげた。
「前より美味しい」って、ソースケ言ってくれて――。
また、離れ離れになるけれど、
その褒(ほ)め言葉が、わたしの支えになる。
「よかったね。バッチリじゃん、ソースケくんと。進展してる感じする」
「そうですね……。相変わらず、バカなことばかり言ってましたけど」
「ソースケくんは福岡の大学でなにを勉強してるの?」
「さぁ…?」
「そっ、そこは訊いとくべきじゃないのー」
「いいんです。」
「ホントにいいの?」
「――あいつはなにかを『決意』して福岡に言ったんだって、わたしわかってますから。とやかく言いません。きっとソースケなりに、あっちで上手くやってるんです」
「マオも――成長したよね」
「藤先輩!?」
× × ×
「空いているお皿をお下げしましょうか」
またアツマさんがやってきた。
「戸部、本日のフルーツタルト追加」
「承知しました…」
「なにかしこまってんの」
「仕事なんだよわかれよ」
アツマさんの制服姿に、わたしは見とれてしまっていた。
「――キマってる。」
「え、え、マオ、もしかして戸部の服装のこと言ってんの!? ぜんっぜんキマってないよ」
「藤先輩はアツマさんに辛口すぎます」
フォークを口元に持っていったまま、あんぐりとする藤先輩。
「カッコいいと思います、アツマさんの制服姿」
『照れるなぁ』といった表情のアツマさん。
「なんでマオはそんなに戸部の評価高いの」
「ぎゃくに、藤先輩はなんでそんなにアツマさんの評価低いんですか」
「べつに…低くはないよ…」
軽くうろたえる藤先輩。
「悔しいけど……なんだかんだで頼りになるし、悔しいけど……」
「藤先輩が悔しいのが、よーーーーーーーーーーくわかります」
藤先輩にイジワルしてみた。
「――マオも、言うようになったね」
「卒業しましたから」
「そうだよねえ、社会人なんだよねえ、マオは」
「社会人、って言っていいんでしょうか?」
「実家であっても、働いてるんなら社会人でしょ」
「案外藤先輩ってマジメですよね」
「ゆ、ゆーよーになったねぇ」
「フルーツタルトお持ちしました」
「…マオにも持ってきてあげて」
「追加注文ですね、承知しました」
× × ×
「高校時代の知り合いなら積もる話もあるんじゃない?」と店長に言われたとかで、アツマさんがわたしたちの席に座った。
あんがいフレキシブルなのね。
「素朴な疑問なんだけど」
「なんだ藤村」
「愛ちゃんはここ来ないの?」
そういえば。
「まだ…来たことはない」
少し歯切れが悪くなる、愛ちゃんの彼氏。
「サービスしてあげなよ、自慢の彼女にも」
一気にとどめだ! と言わんばかりに、藤先輩はからかう。
「ひとこと多い…」
「なにいってんの!? どこが『ひとこと多い』ってゆーの」
「う……」
「『自慢の彼女にも』ってところが、ひとこと多いんですよね、アツマさん♪」
「そのとおりだ…マオ」
「ふふん♪」
「事実じゃん」
「『事実じゃん』とか言うなよ…」
「わたしはゆーよ」
「ゆーなっ」
「ゆーもんっっ」
「いいかげんにせーや」
「どーして!? ひどっ」
「ひどくないっ」
「ひどいっ!!」
意地の張り合いになってしまった。
ほんとうに――仲がいいんだなあ。
× × ×
夏祭りのポスターが壁に貼ってある。
今週末らしい。
「わたしらも行こーよ、夏祭り。ね? マオ」
「そうしましょう!」
「かき氷食べたいよね~~」
「ですよね~~」
「戸部、引率よろしくね」
「えぇ…」
トホホといった表情のアツマさん。
せっかく高校を卒業したので、
アツマさんにもちょっかいを出してみる。
「アツマさん」
「なに」
「3択です。次のうち、いちばん好きなかき氷を答えてください。
・ブルーハワイ
・メロン
・レモン」
いっしゅん言葉を失ったアツマさんだったのだが――、
「……練乳。」
「――3択にない答えを言わないでください」