【愛の◯◯】三角関係は小説よりも漫画よりもブログよりも奇なり

 

『ランチタイムメロディ』

『ランチタイムグルーヴ』

『ランチタイム・ステーション』

『ランチタイム・グッドネス』

 

……『ランチタイム◯◯』という形式から、離れるべきか。

 

旧校舎向けの昼休み放送ラジオ番組。麻井会長は「GW明けに正式名称を決める」と言っていたけど、彼女のネーミングセンスは、正直…信用できない。

だから、ぼくも独自に新タイトルを考えようとしているわけだ。

『ランチタイム』という言葉を使わないとしたら。

 

『プレシャス! KHK』

『こちら第2放送室』

『麻井律のサンシャインラジオ』

『木漏れ日は風に乗って……』

 

あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!

思わず絶叫したくなるほど、恥ずかしくってダサいタイトルしか浮かんでこない!!

『木漏れ日は風に乗って……』なんて論外だし、ほかに考えた候補も、ネーミングが、ふたつ前の元号みたいだ……!

麻井会長のネーミングセンスがどうとか、ひとのことを言ってる場合じゃなかった。

このネーミングは古い古すぎる。

老け込むにはまだ早いのに、なんでこういう80年代産まれが考えつきそうな懐古趣味なタイトルしか思い浮かばないんだ……!

 

悪かったね80年代産まれで

 

そのとき唐突に天井から聴き知らない声が降ってきた。

 

「だれですか、どこからしゃべってるんですか」

 

このブログ今回で600回更新のキリ番なんで、報告したかっただけ

 

「…はい?????」

 

それだけ

 

すると天の声はピタリとやみ、ふたたび部屋に沈黙が舞い降りた。

 

× × ×

 

――疲れてるのかな。

幻聴がする、ってことは。

麻井会長に振り回されて、てんてこ舞いで、見えないところでストレスが発生しているのかもしれない。

番組タイトルを考え疲れたぼくは、飲み物でも飲もうと、自分の部屋から階下(した)に降りていった。

 

するとリビングでお姉ちゃんとアツマさんが並んで座っていた。

ただ、リビングにいるのは、お姉ちゃんとアツマさんだけではなかった。

ぼくの見知らぬ男女と向かい合って、なにやら談笑している。

ときおり、笑い声が聞こえてくる。

とても和(なご)やかな雰囲気だ。

 

「そっか利比古くんはまだ会ったことないか」

「い、いきなり出てこないでください、あすかさん」

ぼくが驚くと、不満そうに、

「わたしきょう夕飯当番だし、キッチンに行くにはここが近道だし。いきなり出てきたわけじゃないっ」

「すみません」

すみませんあすかさん。

 

ただ彼女は、ぼくをたしなめたかと思うと、一転して柔和(にゅうわ)で穏やかな表情になって、リビングの男女2組を見つめた。

「あすかさん、姉と向かい合ってるひと、姉の学校の制服着てるってことは、クラスメイト…ですか?」

「正解。――アカ子さんっていうの」

「では、アカ子さんのとなりにいるひとは」

「ハルさんだよ」

ハル……さん……?

あれっ、

ハル……さん……、ハル、って名前…もしや…。

「あすかさんが写真をいっぱい撮ってたひとですか」

ちょちょっと!! 声に出して言わないでよ!!

急にあすかさんが慌てに慌てはじめたので、ぼくのほうがうろたえてしまった。

これが地雷踏む、ってやつだろうか。

しかしあすかさんはやがて平静を取り戻しはじめて、

「ハルさんはわたしの高校の先輩でサッカー部」

やはり。

「それでもって、アカ子さんとつきあってる」

な、なるほど。

隣同士で座ってるってのは、そういうことか。

「つきあいはじめたのは――去年の夏休みの終わり」

「どうしてそんなに詳しいんですか?」

 

 

 

 

 

 

× × ×

 

ぼくとしては、何気なく訊いたつもりだったのだが、

どうやらお互いに、墓穴を掘ってしまったらしく、

夕飯当番の名目であすかさんがキッチンに引っ込んでしまった。

 

おそらく、あすかさんとハルさんとアカ子さんのあいだで、何事かが起きたんだろう。

あすかさんがハルさんの写真をいっぱい撮っていたという事実から、事態の顛末(てんまつ)は、容易に推測できる。

クラスメイトの野々村さんがこの前、ぼくの現在の家庭環境を「少女漫画みたいだね」と評していたが、

三角関係……。

こっちのほうが、よっぽど少女漫画だ。

 

事実は小説よりも漫画よりも、ブログよりも奇なり、か。

 

 

× × ×

 

あすかさんをフォローしたくて、キッチンに足を踏み入れた。

「あすかさん、手伝いましょうか?」

ヤダ

「そっそんな」

「……って言ったら、どうする?」

 

まな板で具材を切りながら、ずっとぼくに背中を向けている。

 

「テーブルにお茶菓子置いてあるから、4人に運んであげて」

「わかりました…」

 

キッチンを出るときに、それでもあすかさんに言わねばならないと思った。

 

「あの、あすかさん。」

「なんですかとしひこくん」

「怒ってるんですか、

 それとも、

 気にしてるんですか、

 どっちですか」

 

「――わかってないなあ」

ようやく彼女は振り向いて、

さわやかな笑顏で、

どっちでもないよ♫