おれの部屋で、愛と勉強会をしている。
おれは大学の課題をやり、愛は学校の宿題をやる。
何気なく向かいの愛を見ると、珍しく、宿題に手こずっているような表情だ。
「…難しいのか?」
「なにが?」
「宿題が。」
愛は強がるように、
「そうね、きょうのは、解きにくい問題があったかもね」
と、ノートをぱたんと閉じた。
「愛でもそういうことあるんだな」
と言うと、さらに強がるようにして、
「別に珍しくないわよ。――天才じゃないんだし」
おまえが天才じゃなかったら誰が天才なんだと心のなかでツッコんだわけだが、
「――ただの優等生になっちゃったのかな、わたし」
強がったと思ったら、なんだか弱気だ。
× × ×
弱気な愛をどうするか?
愛を前にして、少しの時間考えていた。
愛は、スマホをぽちぽちし出したかと思えば、やっぱり宿題が気になるのか、スマホを放り出してノートをぱらぱら見返したり、落ち着きがない。
「愛、」
「ん?」
「――ちょっとこっち来いよ」
なぜか、おれのそばに来るなり、正座する愛。
「いや、正座する必要ないって、もっと楽になれって」
すると、愛は少しだけ姿勢を崩した。
しばし、両者沈黙。
のあとで、
おれは意を決して――、
愛のからだを抱きしめた。
綺麗な髪をサラサラとなでて、
背中を軽くポンポンと押してやる。
愛の顔じゅうが、みるみるうちに赤くなっていくのがわかった。
「…どうしたの」
あえて、おれは何も言わなかった。
「アツマくんのほうから……こうしてくるのって、めずらしいよね」
「ああ。
でも、はじめてじゃないだろ」
「そうだけど…、さ」
「たまには、おれのほうから抱きしめたっていいだろ」
「そうだけど…、さ」
「おなじことばを2回言うなっ」
そうして、しばらく愛をハグっていた。
「――ったく、『ただの優等生になっちゃったのかな』じゃねーよ。
もっと自信出せ、自信!」
いったんからだをほどいたが、今度は両肩にガシッと手を置いて、元気づけようとした。
でも、愛が、
「アツマくん…もう一回、ギュッとしてよ」
と、せがんできたので、逆におれのほうが戸惑ったが、
結局、おれのからだでもう一度、愛を包み込んでやって、
長い時間、愛のやわらかさとあったかさを、肌で感じ取っていた。