「どうも皆様こんばんは。羽田愛です。
えー、昨日まで4日連続にわたって、文化祭の『6年劇』の模様をお送りしていたわけなんですが、
日付は飛んで――今日は11月7日、土曜日の夜です」
「いきなりなんなんだよ、ニュースキャスターみたいな口調になりやがって」
「状況説明よ、アツマくん」
「あっそ」
「あっそ言わない!!」
「チェッ」
「チェッ、じゃないでしょ!! あとついでに、ちょうど1週間後がわたしの18歳の誕生日なんです」
「知ってる」
「忘れてたらこの場でぶんなぐってたよ」
「やめよーなー、そーゆーのは」
「…ま、せっかくアツマくん憶(おぼ)えててくれたんだから、誕生日はちゃんと祝ってね、はぁと」
「『はぁと』ってなんだよ『はぁと』って、意味わかんねえ」
「ハートマークをひらがな3文字で表したの」
「はぁ……」
「なにその呆れ気味の反応」
× × ×
おれからも状況説明をさせてもらうと、
「文化祭、お疲れさま!」ってことで、愛とおれの2人で外出しているわけだ。
ま、世にいう『デート』であることは……否定できないです。
けどさ。
『デート』ってことばの響き、どうもおれには、こっ恥ずかしくって。
『デート』に代わる、なにかいいことばが、ないものですかねえ。
ないものねだり、か。
× × ×
ボウリングをした。
何ゲームも何ゲームも、対決し続けた。
熾烈な闘いが繰り返された。
お互い、手抜きなしの真剣勝負で、プロボウラー同士が闘うごとく、気迫をぶつけ合った。
愛の腕前は、プロ級なんじゃないかと思ってしまうぐらいで、ストライクを量産。
だけど、おれだって負けちゃいられない。
お互いのプライドを張り合った結果――、
× × ×
「――けっきょく、おれに愛は1ゲームも勝てませんでした、と」
ピクッ、と愛は思わず反応。
「でもいい勝負だったじゃんよ。毎回毎回接戦でさ」
「あなたが――強すぎるんでしょ」
「ボウリング、そんな頻繁に行かないんだけどなあ」
「そういうところが、なおさらムカつく」
「天才ですから」
「なにスラムダンクの主人公みたいなこと言ってんの!?」
「――読んだの?」
「読んだ。お邸(やしき)の書庫に全巻あったから」
「じゃあ、今度はバスケやるか」
「受験が落ち着いたらね」
「あー」
「……来年の春まで、こうやって遊ぶのもお預けだと思う」
「あー」
「今日はアツマくんとボウリングで真剣勝負したけど、これからは入試と真剣勝負ね」
そう、真剣に語る愛。
「いつになく真面目顔だな」
「ちょっと――気を引き締めようと思って」
「たまに見る真面目顔も――意外性があっていい」
「なによ意外性って」
「おまえは、根が真面目だとは、到底思えんから」
「……」
「図星だな」
「悪かったわねっ、こんなじゃじゃ馬で」
「――真面目顔も、たしかに意外性があって、捨てがたいが、
やっぱり、そうやって、素(す)の感情が出てる顔のほうが、
愛らしくて、愛らしい」
「『愛らしくて、愛らしい』って……なに?」
「ことば通りだ」
黙りこんで、立ち止まり、おれのほうに顔を向ける。
おれは、そんな愛の眼を、まっすぐ見て、
「黙ってりゃ……なおさらいい顔に、なるんだもんな」
おれの不意打ちに、プイと顔をそむけたかと思うと、またもう一度向き直って、
「………そりゃそうでしょ。
わたしかわいいし」
……なに言い出しやがんだコイツは。
開き直ったのか!?
「――――、
とうとう『性格ブス』も、ここに極まれり、か」
しかし、愛は少しも動じず、
「一度言ってみたかったのよ」
「…だれの影響でだ」
「影響とか関係ないよ。わたしがただ言ってみたかっただけ。
でも、一度しか言わないつもり。だから、もう言わない」
ハミングしながら歩き出す愛。
長い長い髪をなびかせてルンルン♫ と歩く愛に、なんとかついていく。
「回転寿司おごってくれて、ありがとね」
おれを横目に見ながら愛は言う。
「わたし20皿近く食べちゃったから、アツマくんの財布の中身、寂しくしちゃったけど」
「いや…、そんなことは、どうでもいいんだ。構いやしない。
…そんなことよりだな」
「なに?」
怪訝そうな愛に、
「『わたしかわいいし』って、さっきおまえに言われたんだけどさ……。
言われても、イヤな感じとか、ぜんぜんなくって。
むしろ――、
『わたしかわいいし』っていう、おまえのことば――、
なんだか、くすぐったいんだ」
「――どういう意味なの、『くすぐったい』って……」
「うまく説明できないんだけど、
……おまえに『わたしかわいいし』って言われると、
ますますおまえが……かわいく思えてしまう」
……。
「アツマくん大丈夫? 顔真っ赤だよ!?」
仕方ねえだろ。
それに、おまえだって。
「――おまえだって、火照(ほて)ってるくせに」
「アツマくんほどじゃないよ……」
「強がるなよ」
「強がってなんかないもん!」
「なんでいつもそんな素直じゃない」
「そっちだって」
「おれは本心を言ったまでだ。
『わたしかわいいし』って言うおまえがかわいいんだ、って」
二度言わせやがって。
「いまの照れ屋さんになってるアツマくんこそ、かわいくってしょうがないよ」
愛にそう言われてしまった。
ダメだ……おれらしくねぇっ。
愛の、「わたしかわいいし」が……これほど破壊力満点だったなんて。
チクショッ。
ボウリングでは、愛に連戦連勝だったのに、
ここに来て――完膚無きまでの敗北を喫するとは。