【愛の◯◯】10分だけあげる

・アカ子からTEL

 

「もしもし」

『もしもしハルくん?』

「おはようアカ子」

『寝ぼけないでよ、今何時だと思ってるの』

「すまない」

退屈? 退屈なんでしょ?! そうよね?!

 

(^_^;)どういうテンションなんだ。 

 

「あーたしかに退屈だよ。

 うかつにランニングもできないから、身体がなまってて」

『走るのまで自粛しなくてもいいじゃないの』

「たしかに、ねえ…」

『ねえ』

「なんだよ」

走って来ない? わたしの家まで

 

 

 

 

「( ゚д゚)……なにかんがえてんだ、きみは」

 

『いいじゃないの、ちょっとぐらい。

 ダメ?』

 

「…案外わがままなんだな」

 

『それはOK、ってことでいいかしら』

 

「走って行くかどうかはわからない」

 

『OKなのね、来てくれるのね』

 

「…案外めんどくさいんだな」

 

 

通話、キレる

 

 

 

× × ×

 

アカ子邸

 

「ようこそ」

「あのなー、電話をぶっちぎるのはやめてくれよ」

「楽しい時間を過ごしましょう」

「や、スルーすんなよ」

 

「えーと、蜜柑さんは?」

「出かけたわ。しばらく帰ってこないわ」

 

「まさか」

 

「両親が不在じゃないとでも思ってたの?」

 

「ってことは」

「そうよ、今このお邸(やしき)にはふたりしかいないわ」

 

 

「…………はめやがったな」

「だって、わたしだって退屈だもの」

「…………ひきょうものっ」

うるさいわね!

 

「ハルくんあなた昼ごはんは? もう食べた?」

「あいにく、な。

 もしや、作ってくれるつもりだったのか?

 それならそうと電話ぶっちぎらずに伝えてくれれば」

「作るつもりはなかったわ。

 ただ…お寿司の出前でも、とろうと思ってたのに」

「いったいきみはどういう思考回路なんだよ💢」

「めったにないチャンスのお寿司だったのに、残念ねぇ」

「はぁ……、

 メチャクチャだよ、きょうのきみは。

 じゃあきみ昼飯食べないのか」

「1食抜くぐらいで倒れないわよ」

「ホントかぁ?

 あんなに大食いなのに」

 

 

 

ひとこと余計で、

しばらくアカ子は口をきいてくれず、

 

 

 

 

 

 

そしてなぜかーー

 

 

 

 

 

アカ子の自室に無理やりつれていかれた。 

 

 

 

 

 

「蜜柑さんが急に帰ってきたらどうすんだ」

「どうもこうもしないわ。

 どうってことないわよ」

 

アカ子はベッドに腰かけ、

おれはカーペットの床であぐらをかいている。 

 

「わたしが先週送った写真で、どれがいちばん気に入った?」

「(スマホを確認して)

 迷うな。

 甲乙つけがたいのが2枚あるんだ」

「へぇ~っw もう2枚にしぼってるのww」

 

(-_-;)くっ…… 

 

「でもさ、」

 

「?」

 

「写真じゃ伝わらないことって、あるんだな」

 

「どういうことがいいたいの、あなた……」

 

「だって。

 絶対、間近で見るほうが、いいだろ」

 

 

 

 

 

 

 

「こら、なんかいえ」

 

「がっ、外見だけ、ほめられてもーー」

 

「たしかに中身はダメダメだな」

「ひ、ひどいこと言うわね!!」

「ただしきょうに限っての話だ」

「(;・・)」

 

「アカ子はさ、

 本来は、優しい子なんだと思うよ」

 

「ど、どういう根拠があって、優しい子だなんてわかるの…」

 

「でも、おれと会うと、『いい子』じゃなくなるんだな」

 

(無言)

 

「でも、それだからこそ、

 いま、ここにこうして、

 きみがそこにいて、

 おれがここにいて、

 こうやって、向かい合ってる」

 

(無言を貫く)

 

「ーーおれの前だと、『いい子』じゃないほうが、優しい子じゃないほうが、

 アカ子らしいと思うw」

 

 

 

 

「…キザ。カッコつけ。

 

 

 しかもどういうロジックよ、あなたの分析は。

 分析になってない。

 

 

 ーー『もっと優しくしてほしい』とか、思わないの」

 

「べつに思わないけどーー、

 

 初詣のときさ、

 お祈りしてくれたじゃんか、

 おれが『ケガしませんように』、ってさ。

 

 ーーあれは、うれしかったな」

 

「返事になってない。

 はぐらかさないで」

 

「(スルー気味に)…ただ単純に、うれしかった」

 

「(;´Д)それが…なんなのよ」

 

「そう祈ることで、きみはきみの優しさを隠すことができなかった。

 

 そういうところはーー素直にかわいいと思う。

 外見じゃなくって。」

 

「(;´Д)こっちが恥ずかしくなることばっかり言わないで」

 

「この空間じゃなかったら言ってねーよw」

 

 

そして、

見上げるようにして、

アカ子の顔を、顔だけを、

じーーーっと見た。

 

 

「…」

「…」

「……」

「……」

「………」

「………」

「…………」

「…………10分だけ、あなたにあげる」

「どういう意味ですかそれはアカ子さん」

「権利よ」

「権利~?」

わたしのベッドに、座る権利