・アカ子からTEL
「もしもし」
『もしもしハルくん?』
「おはようアカ子」
『寝ぼけないでよ、今何時だと思ってるの』
「すまない」
『退屈? 退屈なんでしょ?! そうよね?!』
(^_^;)どういうテンションなんだ。
「あーたしかに退屈だよ。
うかつにランニングもできないから、身体がなまってて」
『走るのまで自粛しなくてもいいじゃないの』
「たしかに、ねえ…」
『ねえ』
「なんだよ」
『走って来ない? わたしの家まで』
「( ゚д゚)……なにかんがえてんだ、きみは」
『いいじゃないの、ちょっとぐらい。
ダメ?』
「…案外わがままなんだな」
『それはOK、ってことでいいかしら』
「走って行くかどうかはわからない」
『OKなのね、来てくれるのね』
「…案外めんどくさいんだな」
(通話、キレる)
× × ×
アカ子邸
「ようこそ」
「あのなー、電話をぶっちぎるのはやめてくれよ」
「楽しい時間を過ごしましょう」
「や、スルーすんなよ」
「えーと、蜜柑さんは?」
「出かけたわ。しばらく帰ってこないわ」
「まさか」
「両親が不在じゃないとでも思ってたの?」
「ってことは」
「そうよ、今このお邸(やしき)にはふたりしかいないわ」
「…………はめやがったな」
「だって、わたしだって退屈だもの」
「…………ひきょうものっ」
「うるさいわね!」
「ハルくんあなた昼ごはんは? もう食べた?」
「あいにく、な。
もしや、作ってくれるつもりだったのか?
それならそうと電話ぶっちぎらずに伝えてくれれば」
「作るつもりはなかったわ。
ただ…お寿司の出前でも、とろうと思ってたのに」
「いったいきみはどういう思考回路なんだよ💢」
「めったにないチャンスのお寿司だったのに、残念ねぇ」
「はぁ……、
メチャクチャだよ、きょうのきみは。
じゃあきみ昼飯食べないのか」
「1食抜くぐらいで倒れないわよ」
「ホントかぁ?
あんなに大食いなのに」
ひとこと余計で、
しばらくアカ子は口をきいてくれず、
そしてなぜかーー
アカ子の自室に無理やりつれていかれた。
「蜜柑さんが急に帰ってきたらどうすんだ」
「どうもこうもしないわ。
どうってことないわよ」
アカ子はベッドに腰かけ、
おれはカーペットの床であぐらをかいている。
「わたしが先週送った写真で、どれがいちばん気に入った?」
「(スマホを確認して)
迷うな。
甲乙つけがたいのが2枚あるんだ」
「へぇ~っw もう2枚にしぼってるのww」
(-_-;)くっ……
「でもさ、」
「?」
「写真じゃ伝わらないことって、あるんだな」
「どういうことがいいたいの、あなた……」
「だって。
絶対、間近で見るほうが、いいだろ」
「こら、なんかいえ」
「がっ、外見だけ、ほめられてもーー」
「たしかに中身はダメダメだな」
「ひ、ひどいこと言うわね!!」
「ただしきょうに限っての話だ」
「(;・・)」
「アカ子はさ、
本来は、優しい子なんだと思うよ」
「ど、どういう根拠があって、優しい子だなんてわかるの…」
「でも、おれと会うと、『いい子』じゃなくなるんだな」
(無言)
「でも、それだからこそ、
いま、ここにこうして、
きみがそこにいて、
おれがここにいて、
こうやって、向かい合ってる」
(無言を貫く)
「ーーおれの前だと、『いい子』じゃないほうが、優しい子じゃないほうが、
アカ子らしいと思うw」
「…キザ。カッコつけ。
しかもどういうロジックよ、あなたの分析は。
分析になってない。
ーー『もっと優しくしてほしい』とか、思わないの」
「べつに思わないけどーー、
初詣のときさ、
お祈りしてくれたじゃんか、
おれが『ケガしませんように』、ってさ。
ーーあれは、うれしかったな」
「返事になってない。
はぐらかさないで」
「(スルー気味に)…ただ単純に、うれしかった」
「(;´Д)それが…なんなのよ」
「そう祈ることで、きみはきみの優しさを隠すことができなかった。
そういうところはーー素直にかわいいと思う。
外見じゃなくって。」
「(;´Д)こっちが恥ずかしくなることばっかり言わないで」
「この空間じゃなかったら言ってねーよw」
そして、
見上げるようにして、
アカ子の顔を、顔だけを、
じーーーっと見た。
「…」
「…」
「……」
「……」
「………」
「………」
「…………」
「…………10分だけ、あなたにあげる」
「どういう意味ですかそれはアカ子さん」
「権利よ」
「権利~?」
「わたしのベッドに、座る権利」