【愛の◯◯】マンガのないお嬢さまの本棚、マンガを読む住み込みメイドのだらしなさ

 

「ハルくん、きょうは『若干』短縮版よ」

「え……、なにをいってるの、アカ子」

「だから、『若干』短縮版だって言ってるの」

「や、そもそも、短縮版、って――」

「――ハルくんにクイズ。」

「えぇ…」

「お勉強のウォーミングアップも兼ねて、よ」

「どんなクイズだよ」

「『原稿用紙4枚』って、何文字だと思う?」

「……」

「その沈黙は、解答不能ってことね」

「だって……知るわけない」

「一般常識的ななにかだと思ってたんだけれど」

「で? 何文字なの? 正解は?」

「1600文字よ。

 原稿用紙1枚が400字だから、400かける4で1600」

「――そうだったんだ。

 でも、そんなクイズ出した意味は、いったいなんなんだ?」

「今回は、『若干』短縮版だ、ってわたし言ったわよね?」

「言ったけどさ。たしかに」

「『若干』短縮版が目指しているのは、1600文字ぐらいで記事をまとめ上げること」

「1600に『若干』短縮版はこだわるんだね」

「ふつうの短縮版だったら、1600よりももっと短い文字数を目指すんだけれど――ね」

「でもさ」

「?」

「わざわざクイズにする必要、やっぱりなかったよね」

「……原稿用紙について賢くなったから、いいじゃないのっ」

 

「ハァ……」

「ため息ついてるヒマないよ、アカ子。『若干』短縮版なんだから、ぐずぐずしてるとあっという間に1600文字になっちゃうよ」

「そうよね……」

「なんで、そんなに悩ましげな顔なの?」

「それは――、

 これからも定期的に短縮版になる日は来るから、そのたびにわざわざ『きょうは短縮版です』っていうお断りをするべきなんだろうか、って考えていたのと、

 それともうひとつ、

 椎菜さんのことが――気になっていたの」

「しーちゃんのこと?」

「そう。

 ハルくんには悪いけれど――わたし椎菜さん、少し苦手かも」

「ま、出会いが出会いだったからねえ」

「――でも、苦手なままじゃ、ダメなんだわ」

「無理に仲良くなろうとすることないよ」

「向き合っていかなきゃ。

 これからハルくんのお家(うち)に行く回数も、増えるでしょう?

 必然的に、椎菜さんと出くわすことも、多くなる。

 そのとき、彼女にわたしは、どう向き合っていくのか――」

「マジメだね、アカ子は」

「接しかたを、探(さぐ)っていきたいの」

「……あんまりムキになっちゃダメだよ。あっちが年上だからって、対抗心燃やして」

「対抗心なんて、燃やしてないわよ」

「どうだか」

「ハルくんは……わたしが、年上のお姉さん相手だとジェラシー感じちゃうタイプだとか、そういうふうに思ってるわけ……」

「まーまー」

「椎菜さんに負けたくないとか、そういう問題じゃないのっ!!」

「わかったわかった。

 わかったから、受験勉強、始めよう?」

 

× × ×

 

「わたしが作った小テストの間違いも減ってきたわね」

「マジ? やった~」

「この調子よ。この調子で、大学に受かって、椎菜さんをギャフンと言わせてやりましょう」

「……さらりとコワいこと言うね、きみは」

 

「少し、休憩しましょうか?」

「そうしよう。

 ……ねえ、アカ子の本棚、見てもいいかい」

「いいわよ」

 

「――マンガが1冊もない。こんな本棚、初めてだ」

「あら、そうなの」

「たしかに、きみがマンガを全然読まなくても、なんら不思議もないけど」

「マンガは全くわからないわ」

「蜜柑さんはどうなの?」

「――蜜柑は、読むわね。よく、少女マンガ雑誌を投げ散らかしてるわ」

「投げ散らかしてるって、どこに」

「蜜柑の部屋の床とか、ひどいときは、リビングのソファの下とか」

「へ、へえぇ」

メイドとは思えないだらしなさよね!? だらしないって思うでしょハルくんも!? 思うでしょ!?

「……なんでわざわざおれの立ってるとこに近づいてくるの」

「蜜柑に対する不満を……つい」

「……切実だね」

「切実よ。……ハルくんにも、蜜柑を叱ってほしい」

「そんなことできないよ」

じゃあ残りの休憩時間を使って、蜜柑を叱る練習をしましょう

「――おれはそれよりも、蜜柑さんがどんな少女マンガ雑誌を読んでるか知りたいな」

それはまた今度!!

「――はい」