♪ピンポーン♪
あ、
はーちゃん来た。
「おはよう、はーちゃん」
「おはよう!?
今何時だと思ってんの👊🏻💢」
「意外w」
「なにが」
「はーちゃん、もっと時間にルーズだと思ってた」
「おじゃましまーす」
「(ノ∀`)タハー、いかにもお嬢様っぽいあいさつ」
「👊🏻💢💢」
わたしの部屋
「アンあんた髪ぐらいといたらどーなの。いくら自宅だから、っていったって」
「あぁ、ごめん、前回よりひどいよね?
ちょっち待ってね、はーちゃん」
高校3年の年の瀬。
だけれども、
鼻歌を歌いながら、櫛(くし)で髪を整える余裕くらいは、ある。
そう、鼻歌を歌いながら……。
「はーちゃんの髪ってサラサラでいいよね」
「(-_-;)はやいこと勉強に取り掛かろうね……」
「シャンプーなに」
「👊🏻💢」
「そっかー、特別なシャンプーとかコンディショナーとかは使ってないんだね」
「わたしをなんだと思ってるの、資産家のお嬢様とでも……」
「だって如何にも似合いそうじゃんw
ドレスでも着せてあげたいんだけどなー」
「(;´Д`)あのねぇ!」
はーちゃんを怒らせるの楽しい…w
「アン、早いこと席につきなさい!」
「先生っぽいこと言うー」
「……(・∀・ ; )
まるで調子があまり良くないときのわたしが自分のベッドで寝っ転がってる時の服装みたいね……」
「(自分で自分の着ているものを見て)へぇー、はーちゃん、こんなの持ってるんだー」
「葉山家、中流家庭だからね!?
言っとくけど」
「いまどき『中流家庭』なんてことば誰も使わないよぉー」
「あああもう英語の問題集はやく出しなさいよ!!」
「(はーちゃんの頭を軽く、ぽん、ぽん、と叩いて)わーったわーった」
わたしが決めた約束。
はーちゃんの知らない、はーちゃんとの約束──、
はーちゃんが、
パニくる前に、
自重する。
1時間30分経過
(そろそろ山田くんが座布団運ぶころかー)
「アン、ここでいったん休憩にしましょう」
「はーちゃんわたしまだいけるよ?」
「あなたはまだいけるかもしれないけど、」
「(はーちゃんの左肩に片手を置いて)ごめんごめん、はーちゃんのペースに合わせるからね。
これ、藤村家(ふじむらけ)ルール」
「どういうハウスルールよ……」
「ダメだぞ、女子高生が『ハウスルール』とか言っちゃあw」
「ハウスルールってゲーセン用語でもあると思うんだけど……、
まーいいや(ゴロン)」
初回に決めたことがある。
この部屋のベッドの優先使用権は、はーちゃんのほうにある、ってこと。
筆記用具を置き、ベッドに横になったはーちゃんを見やる。
「まる子? サザエ?」
「まる子でいい」
「ホントぉ!?w」
「……、
じゃあサザエ。」
きゅうけいちゅー
窓の外の陽がもう落ちるのを見て、本格的な冬の訪れを感じ取り、入試シーズンが近づいていることを意識し、少しわたしは焦る。
でも、はーちゃんには……、
大学受かる受からないより、
もっと苛酷な未来が見えていて。
そして、苛酷な日々を過ごしているし、これからも苛酷な暮らしを続けていく。
そんなはーちゃんのチカラに、少しでも、なれれば、いいなぁと思って。
出会いは、一期一会で。
はーちゃんに転がってきた、
ハルがクリアミスしたサッカーボールが、
わたしとはーちゃんを引き合わせてくれたようなもので、
ハル、そういう意味では、有能。
ま、かといって、しちめんどうくさい理由づけはいらないよね。
優しさに根拠なし。
そして、根拠なんてないんだけど、
「ヒトに見えにくいかたちで苦しんでいるはーちゃんのためになってあげたい」、
そう思い立つこと自体が、ささやかなはーちゃんへの優しさのひとつのかたちで、
わたしのベッドを貸してあげることだって優しさのひとつのかたちなんだし、
そういう優しさのかたちも……たぶん、愛っていうかたちの一部。
「(スマホ画面を見て)怪物牝馬だ怪物牝馬だ騒がれても、そんな毎年毎年怪物が混合ジーワン勝てるほど甘くないよねー」
「コラっ、むつみ」
「Σ(=ω=;)ギク」
ホントにもう……、
夕飯食べさせてあげる代わりに、
東風荘アクセス禁止令出すよ!?
「(起きてベッドに座り)ごめんなさい、もうサザエも始まる時間かしら?」
「まだまだ」
「そう。」
「はーちゃん、フジテレビといえば、今夜8時からドラゴンボールの映画やるみたいだけど興味ある?」
「ない」
「あ、そう」
「はーちゃんって、ジャンプなんかよりは、漫画ゴ〇クとか、そういう系のほうが好きそうだよねえ」
「単行本派」
「あ、そうw」
否定はしないんだ…w
すごい会話の流れになってきちゃった、
「アン、もうすこし休憩時間あるみたいだから、わたし、あなたの髪をちゃんとしてあげる」
「!?
ちゃ、ちゃんとなってるでしょ、さいしょに髪は梳(と)かしたんだし」
「まだ完全にはなってないわ。ごめんなさい、わたし気になるから」
とっぷりと日は暮れて、
わたしの背中にはーちゃんは立ち、
わたしは、はーちゃんに髪をセットされているのだった。
「ここらへんがハネやすいんでしょう」
「よ、よくわかったねw」
「気をつけて」
「はい……」
「育ちがいいんだね、やっぱし。お嬢さんみたいに」
「どこが。」
「鏡から、はーちゃんの口もと見えちゃうから」
「うぅ…(-_-;)」