きのう
藤村家
『コラっ!! アン、いいかげん起きなさい!!』
『大学がないからって、いつまでも寝てるんじゃないのっ』
『ほら、そんなに寝グセが立ってーー。
お金あげるから、美容院行ってきなさい、わかった?』
『お金あげるから』、……。
身だしなみも、自分のお金で、
どうにかするんだ、とか、
戸部には強気に言ったけれど、
結局、母さんのお金で、
美容院に行く羽目になった。
まぁ、塾講のバイト代がまだ入らないからだが、
そもそも、平日の昼前までグッスリと寝ている時点で、
論外。
自己管理もあったもんじゃない…。
そういえば、大学に入ったんだし、新生活ということで、新しい美容院に行こうと思っていたところに、
愛ちゃんが、
『それならわたしたちが通っているところでカットしてもらいませんか?』
と、『アリア』という名前のお店を教えてくれたんだった。
よーし、
予約。
きょう
美容院『アリア』
♫カランカラン
「いらっしゃいませー♪」
かなり小柄な、
ツインテールのお姉さんが、
出迎えてくれた。
ピンクの地に、子犬柄のシャツ。
「あっ、あのー、予約してた藤村といいます」
「どうぞー♪」
× × ×
「もしかして、羽田愛ちゃんのおともだち?」
「そうです、愛ちゃんの紹介で」
「そっか。藤村さん、じゃあお友達紹介キャンペーンで、割引してあげるねー」
「ありがとうございます。
あの、下の名前『アン』っていうんで、アン、って呼んでもらっていいです」
「そう? じゃ、アンちゃん、最初にシャンプーするね」
× × ×
出迎えてくれた美容師のお姉さんの名前は『サナさん』という。
サナさんは、シャンプーしてる間、
『洗い足りないところありますか?』
というひとことのほか、何も言わないでいてくれた。
そのおかげで、シャンプーされるのに集中することができたし、
何よりシャンプー自体がすごく気持ちよくって、
危うく寝てしまうところだった。
お湯加減が、蒸し暑くなってきた気候にピッタリだったし、
『シャカシャカシャカシャカ』と髪を洗う、その腕の力強さが、言っちゃなんだけど、一見非力そうな見た目からは想像もつかない。
わたしは人にシャンプーされるとき、強くゴシゴシと洗髪されるほうが好きだったから、気持ちよくて寝てしまう寸前だった。
でも、サナさんは、たぶん、美容院にくる全ての人に対して、こういう腕っぷしでシャンプーしてるわけじゃないんだと思う。
直感でちから加減、わかるんだ。
× × ×
「何か雑誌読む?
といっても『プロ野球ai』のバックナンバーだらけだけど」
「野球、好きなんですか?」
「わたし以上にわたしの周りの人間が、ね」
「愛ちゃん、横浜ファンですよね」
「そうね、この前ここに来た時は、わめき散らすだけわめき散らして帰っていったけどw」
「??」
「今年のDeNA、ダメダメなのよw」
「あぁw」
「サッカー部のマネージャーやってたんです。だから野球でなくってサッカーだったら、なんですけど……」
「そっかあ、サッカー好きな人もうちの店、いるから、今度サッカー雑誌も置いてもらおうかな」
「わたし、『ファンタジスタ』ってマンガ、置いてほしいかな」
「へぇ〜」
「知ってますか!?」
「ううんw」
「……(^ω^ )」
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× × ×
「12球団監督クイズー!」
「たは、自信ないなぁ〜」
「巨人」
「原監督」
「DeNA」
「ラミレス」
「阪神」
「矢野…になったんですよね?」
「やるじゃん。じゃあヤクルト」
「……」
「小川監督ね。
中日」
「……」
「与田さん。よくNHKで解説してたの」
「へぇ…」
「カープ」
緒方監督ですよね」
「えらい!」
「え」
「つぎパ・リーグ! 西武」
「……」
「辻発彦。ハムは、わからない?」
「栗山…カントク?」
「そう。きょう、大谷打ってたねぇ。
じゃあ楽天」
「……」
「平石監督」
「選手…だったんですか?」
「だったんですよ。
オリックス!」
「西村監督」
「その人も選手だったんですよね?」
「あらぁ! 首位打者とったことあるんだよん。盗塁王なんて4回も」
「くわしいですね…」
「ソフトバンクは有名かな」
「工藤さん」
「そ。さいご、ロッテ」
「えっと、伊東監督?」
「それはおととしまで。
いまは井口」
「井口!? 井口って選手やめたんですか!?」
「平石監督のほうが6歳も若いよ」
「!?」