月曜日。
最寄りの図書館が、休み。
ならば代わりに、もはや大常連と化した喫茶店『リュクサンブール』に行き、本を読んで過ごすだけ。
というわけで、『リュクサンブール』に入店してみると……?
『いらっしゃいませ…!!』
『戸部くん!?
なんでいるの!?』
× × ×
「葉山。
おまえ大学のシステム知らないのか」
「どこにも所属してないから……」
・「やべぇ」という表情になる戸部くん
「(穏やかに)注文、いいかしら?」
「はい。」
「カフェオレ、ホットで」
「はい。」
× × ×
・1時間後
「友達なら話してきてもいい」という許可をもらったらしく、ホールスタッフ姿の戸部くんが、わたしのテーブルにやってきて、向かい側の席に腰を下ろした。
「いいの? 仕事しなくて」
「『きょうは人も少ないし、初日だから』って、甘えさせてくれた」
「初日、っていっても、夏もバイトしてたじゃん」
「でも、久々だから」
「休み明けの競走馬みたいなものねw」
「(-_-;)微妙にわかりにくいたとえだな…葉山らしいが」
「大学ってもう終わりなのね」
「(^_^;)そうなんだよ、2か月休みがあるんだ。
あのさ……」
「え、なに?」
「あの……おれ……」
「………」
「………」
「………?」
「………おれ、無神経だったな。
さっき、『おまえ大学のシステム知らないのか』とか言っちまって」
「そんなに気にしてたの!?
わたしもう忘れてたよw」
一生懸命に、ことばを探しているような戸部くん。
謎の沈黙。
「いつまでここで働くの?」
「3月が終わるまで」
「そっかー」
「……」
「……」
「…そんな、かしこまらなくてもいいじゃないw」
「ごめん…」
「クイズ」
「!?」
「アンとわたし、どっちが髪長いと思う?」
「(どぎまぎして)
そ、そうだ、先週藤村に会ったんだよ。
あ、あいつずいぶん髪伸びてたから、
だから、難しいな」
ふーん。
アンに、会ったんだ。
「ほら、選んで、答えて」
「う……、
それでも、葉山のほうが、長いんじゃないのか!?」
「正解よ」
「やっぱし」
「わたしもね、
高校時代より、髪が伸びたのよ。」
「!」
「ーー気づかなかったでしょw」
そんなことよりも。
彼はアンに会ったらしい。
アンには好きな男(ひと)ができて。
そのことは、眼の前の彼には、言いふらさない、約束。
「(意味深っぽく)ねえ……」
「…?」
「一緒に暮らしてるから、わかると思うんだけど、
羽田さんって、コーヒーに砂糖入れないよね」
「(虚を突かれたように)ああ、あいつはブラックで飲む」
「大人だな~。
戸部くんは?」
「おれか? ホットだったら、基本ブラックだな」
(カフェオレのカップをスプーンでかき混ぜるふりをする)
「大人だな~。
きょうはカフェオレ頼んだけどさ、わたし、コーヒーには角砂糖2つ入れないと、飲めないんだ」
「それは……悪かったな」
「なんであやまるの~www」
「(翻弄されるように)藤村は?」
「アン? アンがコーヒーに入れる砂糖の数?w
あなたのほうが詳しいんじゃないの?w
先週会ったんでしょ??」
「金曜日に、都心で……偶然だったけど、大学近いから、エンカウント確率高いんだ」
「(一瞬、間をもたせて、)
どんな話したの?」
「や、そんな大したことは、話してねぇけど」
(さりげなく、カフェオレのカップに指をかけてクルクル回す)
「ただ……あいつも、いろいろあるんだなって」
……『いろいろ』?
「だから……言ってやった。
もしーー残念なことがあって、
絶望的な気分になったときは、
おれの邸(いえ)に来い、
って」
「と、
べ、
く、
ん、
そんなこと言う、
ってことは、
もしかして、
『悟っちゃった』の!?」
「(真面目な顔つきになって)
藤村、言ってた。
『わかっちゃうんだね、けっきょく』って」
「(両手をヒザに置いて)
戸部くん、どこまで、『わかっちゃった』、の?」
「ーー約束してるんだろ? あいつと。
『口外(こうがい)するな』って」
「どうしてそんなところまでわかっちゃうの……!?」
「(あっけらかんと笑って)
なんか、共有しちゃったみたいだな。
藤村と葉山とおれの3人で、
藤村の事情を。
じゃ、そろそろおれは仕事に戻るぜ」
・さっそうと業務に戻っていく戸部くん
・しばらく唖然とするわたし
戸部くんーー、
名探偵。
『名探偵コ◯ン』の単行本のカバー折り返しで紹介されそうなくらい、名探偵。
憎らしいくらい、名探偵。
でもーー憎めない。
そうかー。
悟られちゃったかー、アン。
戸部くんが言ったように、
『アンに好きな男(ひと)がいる』という事情を、
アンとわたし、そして戸部くんの3人で、
共有しちゃったみたい。
奇妙な構図に。
どうしようかしらーー
今度、三者面談でもしようかしら。
『リュクサンブール』に、アンを呼ぶ?
いや、恋愛事情を話すには、ふさわしくないかもしれない。
だったら、わたしの家か、戸部くんの邸(いえ)かーー
× × ×
「葉山さん、お皿をお下げしましょうか」
「どうしたらいいかなぁ」
「はぁ!?」
「場所を考えていたの」
「なんの場所!??!」
「三者面談。」
「!??!!?」