【愛の◯◯】本を読む場所、少なくとも、9つ

戸部邸

アツマくんが、大学から帰ってきた

 

「おかえりなさい」

「ただいま。

 ーーなんだ? 考え事でもしてたのか」

 

・こくん、と首を縦にふる

 

「(リビングのテーブルを見て)わかった。読んでた本のこと考えてたんだな」

 

・こくん、と首をもう一度縦にふる

 

「きょうは『どうしてわかるの』って言わないんだなw」

「💢」

「(焦り気味に)わかった、わかったから、言わないときもあるって、わかってるから」

 

 

「本のことと、もうひとつ、本を読む場所のことについて考えていたの」

「場所?」

「そう。本をどこで読むか、ってこと。

 具体的に、どんな場所で読んでいるかを、数え上げていたのよ」

「数えるって、不毛なことのような気もするけどなぁ」

「わるかったわね💢」

 

 

 

1.リビング

 

「つまりここのことね。

 現にさっきまでこの本を読んでいたわけだし」

 

 

目まいのする散歩 (中公文庫)

 

 

「はじめて見る名前の作者だな」

「(びっくりして)アツマくん、武田泰淳知らなかったの!?」

「知ったかぶりするよりいいだろ」

「たしかに。

 でもショックだわ」

「(^_^;)あ、そう…

 小説家か?」

「そうだけど、これはエッセイ集。ちょうど読み終わっちゃったところ」

「ふーん」

「つまらなかったけどね」

「え」

 

 

2.ダイニング

 

「起きて、朝ごはん作って、みんなが起きてくるのを待っているときとか」

「愛は朝早いもんなー」

「あなたって、朝早く起きてランニングするときもあれば、遅く起きてくるときもあるわよね」

「基本おれは朝早いぞ」

「うそでしょ」

「うそじゃないよ」

「じゃあなんで年末の旅行で、出発の朝になかなか起きてこなかったのよ。わたしが起こしに来てあげなかったら、新幹線乗り遅れてたかもしれないのよ」

「あれは時間帯が早すぎたからだよ」

「でももうちょっとちゃんとしてほしかったなー」

「ちゃんと新幹線間に合ったから、オールOKだろ」

「お正月も起きてくるの遅かったじゃない?」

「それはお正月だからだよ」

「言い訳ばっかりしないで」

「でも母さんのほうがおれより朝弱いだろ」

 

「それは…否定できないけど……

 

 ら、ランニングするときは、早く起きられるんだから、もう少し起床時間を安定させようね、ね?」

 

 

3.通学の電車

 

「なるほどねえ」

「行きと、帰りに。帰りのほうが、電車は混んでないこと多いから、読みやすいよね」

「電車の中で読むと、集中できる?」

「そうね。なぜかしらね」

「山手線に乗り続けてると無限に本が読めそうだな」

「同じこと考えてる人たくさんいるから。本にも書いてあったし」

「どの本に?」

「…忘れちゃった」

「おまえらしくないなw」

 

・シュンとしてうつむくわたし

 

「ご、ごめん!! 誰だって思い出せないときはあるよな、な!?」

 

 

4.学校の図書館

5.公立図書館

 

「山手線ゲームならぬ山手線読書ゲームってか」

「(-_-;)読書をゲームと言えるかどうか……

 (^_^;)ま、いいわ。」

 

「わたしは図書館で本を借りること、比較的少ないんだけどね」

「なんで?」

「自分の部屋に積ん読タワーがあって、それを崩すので精一杯だから。

 あとーー」

「あと?」

あるじゃないの、この邸(いえ)に、世界でいちばん素敵な図書館が!!

「ああ……なるほど。

 そうだな、そうだよな。」

 

「べつに学校図書館公共図書館の存在意義を否定してるわけじゃないので、勘違いしないでくださいね♫」

「(;´Д`)……どこ向かってしゃべってんだ、おまえ!?」

 

 

6.児童文化センター

 

「ここにも図書室があるからね。もちろん児童書メインだけど、大人向けの本もあるわ」

「大人向け? どして」

「鈍いわね」

「(棒読みみたいに)わるかったなにぶくてー」

「お母さんやお父さんのための本よ」

「あ…そうかっ! 子育てについての本なんかが置いてあるんだな」

「いきなり鋭くなったわね」

「………」

「放課後に立ち寄って、絵本の読み聞かせをしてあげることもあるし」

「ルミナさんも常連なんだろ」

「そうね、もうスタッフさんみたいなものよ」

 

「なあ、おれがセンターに行ってみるのは、やっぱダメなのか?

 以前おまえを迎えに行ったとき、『恥ずかしいかも…』って言ってたし」

 

「ダメ、とは……言っては、いない、けど、」

 

「(キョトンとして、)??」

 

 

…やっぱり、あの場でアツマくんといっしょになるのは、

恥ずかしい、

かなり恥ずかしい、

 

けど、

恥ずかしいことが恥ずかしくて、『恥ずかしい』って言い出せない。

 

 

 

ーーそれはともかく!!

わたしが本を読む場所、いったいいくつ存在するのよ。

次から次へと思い浮かぶ。

 

 

7.自分の部屋の机

8.自分の部屋のベッド

 

「そういや、愛の部屋、ベッドにも本を置く場所があったな」

「よく覚えてるわね。枕元にね」

「机とベッドで、読む本の種類は違うの?」

「それは違うわよ。ベッドは寝る前だから、リラックスできるように軽いエッセイを読むことが多いわね」

「そういえば」

「そういえば?」

メモリーカードを、愛の部屋で落としちまったみたいなんだ、どうも」

 

「メモリー……カード?」

 

「うん。テレビゲームのメモリーカード。データを保存するやつ」

 

「ど、

 どうして、

 どうしてそんなもの、わたしのへやで、おとす、かなあw」

 

「いや多分おまえの部屋で落としちまったような記憶があるんだ。なんかの弾(はず)みでさあ。

 ほら、いっしょにドイツ語の勉強してたらおれが居眠りして、おまえに叩き起こされたことがあっただろ? その弾みだよ。

 

 ーー、

 なんでそんなキョドってんだ???」

 

「もしかして、わたしのへやに、さがしにくる…の」

 

「だっておまえメモリーカードっつったってわかんねーだろ。口で説明するより探しにいったほうがーー」

 

「(息を吸って、冷静になって)

 あのね、わかるよね、常識的に、男の子が、女の子の部屋をくまなく漁(あさ)るってのは、おかしいでしょ。」

「『くまなく漁る』とまでは、言っていない。

 部屋を荒らすわけじゃないし、まさか見ねーよ、タンスとかクローゼットの中とか。

 見るわけないだろ?

 おまえが見られてイヤなところは探さねーよ。

 おまえが『いい』って言う場所だけ探して、見つからなかったらそのときはそのときで…」

「アツマくん?

 

 そもそも、これ、あすかちゃんに部屋に来てもらえば済む問題じゃないわけ??」

 

「わたしも、この解決策に気づくのが遅かったのは、認めるけど」

「ほんとだ。なんで思いつかなかったんだろう」

「なんか、会話の流れ、変だね」

「ヘンだなあw」

「おかしかったねww」

「ああww

 

 でもさーー、

 

 愛のさっきのキョドりかた、尋常じゃなかったから、

 ひょっとして、」

 

 

あっ。

 

 

悟られた。

 

 

ーーおれの誕生日プレゼントを、秘密にしておきたいんだな?

 

「やっぱりわかるのね。

 わかっちゃうか。

 アツマくん、だもんね」

 

「明後日だもんな。

 ようやく19歳か。」

 

そう。

 

アツマくんの誕生日は、1月22日。

 

そこまで、誕生日プレゼントは、温存して、大っぴらにせずにおきたいから。

 

だから、いま彼に部屋に入られるのは、困るのだ。

 

「19歳になったらできることとかあるのかなw」

「さぁね~?

 葉山先輩なら、知ってるのかもしれないけど」

「? 葉山?」

 

 

「ーーわかったよ。

 誕生日プレゼントの中身は、秘密にしときたいんだな。

 そのほうが、楽しみも増すもんな。」

「うん、よろしく。

 

 ところでーー、

 わたしが本を読む場所だけど、」

「まだその話題続いてたんかい」

「もうひとつあるの。読む場所。

 

 でも、秘密。」

「そりゃ、いつまで秘密なんだ?」

秘密。

 

 

【愛の◯◯】2枚重ねのハンカチ

「工藤くん!!」

 

 

 

「……八木さんか。

 

 透き通ってて、よく通る。

 

 いい声だ。」

 

「工藤くんの声のほうが100万倍いいよ」

 

「そうやってじぶんを卑下(ひげ)してばっかしいると、もう1年浪人しちゃうよ」

 

「わっわたし卑下なんかしてないから、

 ないから、、

 

 

 それより!!

 

 

工藤くんの手のひらに、

ハンカチを置いた、

 

1枚だけじゃない。 

 

 

「洗って返すって約束したでしょ。

 

 ごめん遅れて」

 

「や、いつでもいいんだけど……

 

 なんで、2枚?

 

「工藤くんニブチンねえ、ニブチンなんだから…ほんとに」

 

「八木さん、言葉づかいがダサいよw」

 

「(小さく息を吸い込んで)

 

 ーーおまもり。

 お・ま・も・り

 

「合格祈願?」

 

「そう。

 もう1枚は、わたしからあなたへの、おまもり

 

「……ありがとう。」

 

「どうも。

 

 絶対いい点取ってね。

 

 日和(ひよ)って、『やっぱ京都行きません』なんて言わせないよ」

 

 

「ーー八木さんは、きっといい点取るよ」

 

「なんでそう思うの」

 

「覚悟が、決まってる顔だから」

 

 

 

 

たしかに、工藤くんの言う通り、

 

わたしは心を決めていた。 

 

 

そして明日から、いよいよ、

2度めのセンター試験

 

 

 

 

【愛の◯◯】「『球界の盟主』って、なに?」

どうもこんにちは。

椛島澄(かばしま すみ)と申します。

とある高校で、国語の教員をしています。 

 

えっ?

 

「出身大学はどこか」ですって??

 

そんなこと、別に訊(き)かなくてもいいじゃないですか。

 

…小金井の、某国立大学ですが。 

 

それはそうとして。

 

わたし学生時代演劇をやっていたので、赴任したときに演劇部の顧問を希望したんですけど、「間に合ってます」と言われてーー

 

で、「スポーツ新聞部」 なる、この世の高校で1つしか存在しないような謎の部活の顧問にさせられて。

 

これまでは、これまではサブ顧問的な立場で許されていたのですが、メイン顧問の先生から「来年度からは椛島先生がメインになるんだよ」と、満面の笑顔で言われて!!

 

 

それでーー

きょうの放課後、

わたしはその「スポーツ新聞部」に割り当てられた教室で、

なぜか、なぜか、

生徒の子から、

プロ野球をレクチャーされていて。

 

 

どうして、

どうしてこうなったの…

 

 

瀬戸くん「ですから、過去10年の日本シリーズで、セ・リーグの球団は1度しか勝利していないのです」

わたし「それは、つまり、9対1でパ・リーグが勝ち越してるってこと?」

あすかさん「そのとおり! 近年はパ・リーグが日本一になることが圧倒的に多いんです。

 ちなみに今年はソフトバンクのストレート勝ちでした」

わたし「ソフトバンクって、ホークス、でいいんだよね」

あすかさん「そうです。ここで復習です。ソフトバンクホークスの本拠地はどこでしたっけ?」

わたし「福岡」

あすかさん「Excellent」

わたし「……」

あすかさん「ストレート勝ちということは負け無しの4連勝ということで、相手は先生も元からご存知だった読売巨人軍でした」

わたし「じゃあ巨人って弱いの」

あすかさん「日本シリーズの出場回数も優勝回数もダントツで巨人がトップです」

わたし「(@_@;)???」

 

あすかさん「すみません、混乱させるようなこと言っちゃってw

 現代文のテストだったら、バッテン解答になっちゃいますよね。

 …もし、『おねーさん』だったら、もっとわかりやすく筋が通るように説明できるのかな」

 

わたし「(@_@;)ええっ、あすかさん、お姉さんがいたの。

 お兄さんのことは、教えたことがあるから、知っていたんだけど…」

 

あすかさん「いいえ、実の姉じゃなくて、勝手におねーさんだと慕ってるだけです」

 

あなたのお兄さんとつきあってるのよね

 

 

わたし「!?!??!?!?!??!!?」

 

あすかさん「桜子さ~~~~んww

 

 つきあってるというか、一緒に住んでますね。

 で、おねーさんの部屋は、わたしのとなりです」

 

 

なにが、なにやら……

舞台上でセリフを忘れた演者みたいに、錯乱しているわたくし。 

 

 

わたし「と、ところで、一宮(いちみや)さん、いまどきポータブルラジオとかめずらしいね」

一宮桜子さん「あ、すみません、持ち込んだらまずかったですか」

わたし「そんな校則はないけど…いったい、なにを聴いているの」

一宮さん「NHK第1の大相撲中継です」

 

わたし「なんでまた!??!?!」

一宮さん「本場所の期間中は取り組み結果を掲載してるんです。

 わたしは格闘技担当のセクションなのでーー」

わたし「なんでまた!??!?!」

一宮さん「中村部長の方針です」

 

わたし「(頭を抱えて)中村くん……将来が思いやられるわ」

 

岡崎くん「変わってますよね。

 でも型破りで、いいじゃないですか。

 簡単には、他人の敷いたレールに乗っからないというか」

 

一宮さん「そうね。ひとりぐらい、そういうひとがいたっていいよね」

 

岡崎くん「(しどろもどろに)桜子も…同意してくれるのか……」

 

 

えっなんでそこで岡崎くんしどろもどろになっちゃうの。

演技、じゃないよね。

天然でーー

 

もしやw 

 

一宮さん「きょうはなんと言っても朝乃山と遠藤です。これはゴールデンカードですよ…!」

 

わたし「(^_^;)…へええ。」

 

一宮さん…

岡崎くんの素振りに、気づいてあげなよ。

それともあえてスルー、なのかな。 

 

瀬戸くん「朝乃山の勢いがすごいんだってね」

 

一宮さん「そうなの瀬戸くん!! きのう阿炎(あび)に負けちゃったけど」

 

ダメだよ一宮さん…

 

岡崎くんのときと反応違いすぎ。

 

もっと「演技」しないと。 

 

あすかさん「先生」

わたし「ん?」

あすかさん「たのしそうですね」

わたし「  」

 

 

あすかさん「文字数が余ったので、もう少しプロ野球を10倍…もとい100倍楽しく見る方法をレクチャーしたいと思います」

わたし「(あすかさんの肩をぽんぽん叩いて)文字数、ってのは大人の都合ね、わかるわかる」

あすかさん「過去10年の日本シリーズ福岡ソフトバンクホークスは6回も日本一になってるわけですが。

 先生、ダイエーっていうスーパーがあったそうですね」

わたし「そうね。あなたたちが生まれる頃にはつぶれそうになってたみたいだけど。

 でもなんでダイエー?」

あすかさん「福岡ソフトバンクホークスは、以前は福岡ダイエーホークスだったのです」

わたし「あー、たしかに子どものころ、優勝セールとかあった記憶も…」

あすかさん「でも福岡ダイエーホークスの前は『南海ホークス』で大阪の球団だったんですって!」

わたし「えーっ、それは難解だねぇ、南海だけにw」

 

中村くん(部長)「水島新司先生の『あぶさん』って漫画読めば、昭和のパ・リーグが難解じゃなくなりますよ」

 

わたし「ああっ中村くんいつのまにっ!

 

 

 

あぶさん栄光のホークス 南海篇 (My First Big SUPER)

【愛の◯◯】ナルミとルミナ

あたし、茅野(かやの)ルミナです。

大学3年生(法学部)。 

 

ーー、

2020年になってからは、お初?

そうだよね。

もうお正月気分なんて微塵も残ってないけど。

まーいいや。

 

・音楽鑑賞サークル「MINT JAMS」部室

 

わけあって、

非常に不本意ながら、

この部屋の扉をノックする。 

 

♫ガチャッ

 

「やぁルミナちゃんじゃないか」

ぎゃあっ鳴海が出たっ

 

 

× × ×

 

部屋には…

あたしのほかに、

ギンと、鳴海と、戸部くん… 

 

鳴海「ルミナちゃん、人のことを妖怪みたいに思わないでくれよw」

あたし「だってびっくりしちゃうでしょ、

 いきなりにゅ~っと出てこられると💢」

 

鳴海……

ほんとムカつくっっ 

 

戸部くん「なにかここに用事でもあったんですか?」

あたし「あ、えーっと、

 ひ…非常に言いにくいんだけど、

 あたしのサークルの部屋、暖房が故障しちゃったみたいなの。

 それで……寒くて……」

 

ギン「寒いからぬくもりに来たんだな」

鳴海「わかるよ、ルミナちゃんのその、ヌクヌクしたい気持ちw」

 

ああああああああ鳴海なぐりたいなぐりたい 

 

戸部くん「まぁウチの愛も『冷えるのやだ』って言ったりします」

あたし「あっけらかんと…」

戸部くん「?」

 

あたし「ところでこの部屋ケトルとかないの」

ギン「ケトル?? ああ、お湯を沸かすやつか」

あたし「そ」

鳴海「ルミナちゃんは紅茶とコーヒーのどっちが好きなの?」

あたし「(# ゚Д゚)割り込まないでよ鳴海!!

 このボケナス!!!!!!!!」

 

 

~~しーん~~

 

 

ギン「ルミナぁ~『ボケナス』はあんまりにもひどいんじゃないのか~」

 

あたし「(; ゚Д゚)」

 

あたし「(;-_-)ごめん。

 でもわかって。

 あたしが鳴海に敵意むき出しだってこと」

 

ギン「いやそれは普通鳴海さんの眼の前では言わないことだぞ」

戸部くん「そっそうですよ、言い過ぎですよルミナさん。

 なんか鳴海さん凹(へこ)んじゃってますし」

 

えっ…

 

うそっ 

 

 

(ヘコーンと凹んだ表情の暗い鳴海)

 

ギン「な、限度ってものがこの世の中にはあるもんだ。

 おれはコンビニでホットドリンクを人数分買ってくるから、

 ルミナはそのあいだに反省するよーに」

 

× × ×

 

部屋には、

 

・あたし

・戸部くん

・(冴えない)鳴海 

 

どうしよっ

 

あたし「……さっ、さっきから、よーがくがずっとかかってるね。

 さいきんの、ロックバンドかなあ??」

 

鳴海「……」

 

答えてよ鳴海……

間がもたないよっ 

 

戸部くん「2000年代ガレージロック・リバイバル特集だそうです」

あたし「ふーん、じゃあ、さいきんじゃないねえ。

 ところで、ガレージロック・リバイバルって、なんなの…」

戸部くん「なんなんですかね~~

 

あたし「戸部くんあなたこの1年間ここでなにをしてきたの…

 なんにも吸収できてないんじゃないの…?」

 

ごめん戸部くん、

あたしイラついてしゃべってる。 

 

鳴海「…(これまでとは打って変わって真面目な口調で)ルミナちゃんは、厳しいんだなあ」

 

鳴海「よし、ぼくが説明しよう。」

 

 

(ひとしきりガレージロック・リバイバルについて説明する鳴海)

 

 

あたし「驚いた。

 鳴海、こんなに雄弁にしゃべれたんだ」

 

鳴海「ウィキペディアを暗記してしゃべった部分もある」

 

あたし「あっそ」

 

鳴海「ほら今度は戸部くんがメランコリックな表情になっちゃったぞ」

あたし「ほんとだ」

 

あたし「ごめんね戸部くん。

 鳴海へのむき出しの怒りが、飛び火して」

 

戸部くん「ルミナさん……」

あたし「戸部くん……」

戸部くん「だいぶ血色がよくなりましたね」

あたし「」

 

鳴海「ルミナちゃんはなんでそんなぼくが苦手かなあ」

あたし「単刀直入に言うと、キモいから」

鳴海「女子高生っぽいw」

あたし「鳴海!!

 

 

♫ガチャ

 

ギン「ただいま~~

 ほれルミナ、おまえがいちばん好きな紅茶花◯のミルクティーだぞ。もちろんホットだ」

 

戸部くん「午後ティーじゃないんすねw」

あたし「好みは人それぞれだし」

 

ギン「ルミナは、いつも紅茶花◯だったんだ。

 いつも同じ自販機で。

 

 中学のときも。

 

 高校のときも。」

 

あたし「(紅茶花◯を自分のほっぺにあてて)そうだったね。

 

 懐かしいね。

 

 ノスタルジック。」

 

ギン「ルミナ、それで反省はしたのか?」

 

あたし「してるよ」

 

ギン「よしよし、えらいえらい」

 

あたし「子どもじゃないんですけどっ」

 

 

 

戸部くん「ところで……

 鳴海さんが、消えました

 

 

ギン「あれ? いつのまに」

あたし「そうよ。なにトンズラしてんのよっ

 

 

 

 ……まだ謝ってないじゃないのあたし」

 

ギン「罪の意識があるのか?」

あたし「『ボケナス』なんてもう言わない、って鳴海に面と向かって言うつもりだったのに」

ギン「よしよし、えらいえらい」

あたし「……」

 

 

 

× × ×

 

・学生会館を出たらーー

 

ベンチに、鳴海らしき人間が座っている。

じっと下を向いてて、顔が見えない。

でもきっと鳴海だ。

 

ほっとこうか。

でも、ほっとけなかった。 

 

「鳴海」

「おおルミナちゃん」

「突然行方をくらまさないで」

「それは…悪かったよ」

「わたしも悪かった。

『ボケナス!』なんて、侮辱して。

 今後は罵倒の仕方を考えるね」

「まじめだね…ルミナちゃんは」

「意外にね」

「意外じゃないよ」

 

 

「…鳴海???」

 

 

「ーーところで。

 

 ギンは、きみのことを、ほんとうによく理解していて、すごいよ。

 

 

 ーー認めてあげてくれ」

 

 

(ベンチから立ち上がり、歩いて去っていく)

 

 

 

 

なんなの、鳴海。

 

行動も、意味わかんないし、

 

言動も、なにがいいたいのか、

 

ぜんぜんわかんないよ。 

 

 

 

【愛の◯◯】あなたの回復力、速すぎよっ!

・きのう(成人の日)

・夕方

・ハルくんに、電話

 

 

「もしもし」

『…………もしもし』

「観てたわよね? さっきの試合」

『………??』

「決勝戦よ、決勝戦

『…………』

「ちょっと、聴いてるのっ💢」

『……(ダルそうに)なんの決勝?』

こ、

 高校サッカーの決勝に、決まってるでしょっ💢💢

 

『あー、選手権かー』

 

「あー、じゃないわよっ!!

 あなた、もしかしてさっきの決勝戦の中継、観てなかったの!?」

 

『おれ、ただ観てるより、プレーしてるほうが好きだからさー。

 そりゃ、観ないときも、あるよ』

 

「それにしたって……

 観なさいよっ、いちばん重要な試合くらい。

 あそこの舞台に立ちたいんじゃないの!?!?」

 

『立てれば……自慢できるんだけどなっw』

 

ピキッ💢 

 

『ーー考えてごらんよ。予選だけで、何試合勝ち上がらなければいけないと思ってんのw』

 

ばか💢 そんな弱気でどうするの!!!

 

 せっかく、せっかくハルくん、たくましくなってきたと思ってたのにっ」

 

『……体調が悪くなければ、テレビ観てたかもしれないけど』

 

 

「……えっ……病気にでも……なったの?」

 

 

『いんや、ノドが痛いってだけだよw

 ノドが痛くて、部屋で休んでたら、試合が終わっちゃってたw』

 

「…熱は?」

 

『(咳き込む音)

 今んとこはない。

 

 大丈夫だよ。

 そんな心配そうにしなくたって』

 

 

(´・_・`;;) 

 

 

 

× × ×

 

・きょう

・放課後

 

 

「大丈夫だ」なんて、

そんなこと言われたって、

心配にならないわけ、ないじゃない。 

 

 

@LINE

 

>『こんにちは』

>『どうですか? からだの具合は』

>『学校』

>『学校…ちゃんと行けた?』

 

 

<『休んだ

 

 

 

 

 

 

 

「やっほ~アカちゃん。

 珍しいね、教室でスマホなんて、放課後とはいえ。

 蜜柑ちゃんとでもLINE?

 あ、

 それとも…w」

 

ごめんっ愛ちゃんっ

 

(教室から全速力で飛び出す)

 

 

 

× × ×

 

どうしよう。

どうしよう。

きのう、強く言いすぎたんだわ、

それが悪かったのよ、

そのせいよ。 

 

逃げ惑うようにして、

校内をさまようわたし。

 

人気(ひとけ)のないようなところで、

彼と連絡をとりたかった。

 

走るスピードが、だんだん、だんだん速くなって、

つまずいて転んでしまいかけた。

 

恥ずかしい……恥ずかしいし、

情けない。

自分の体力を、過信していた。

 

……ハルくんの走るスピードに、

追いつきたかったのかしら。 

 

そもそも、スカートだから、

全速力にも限界があるんだけれど。 

 

やっと閑散とした場所までやって来た! と思ったら、

(卒業シーズンだから…?)

ただならぬ雰囲気のお二人様に出くわして、

ちょっとどころじゃなく気まずかった。

 

 

× × ×

 

ここまで来たらーー、

たぶん、誰にもさとられないはずっ 

 

 

 

・LINEの通話ボタンを押す

 

『もしもし~~?』

「つっ、通話でよかったかしら、あなたきのうノドが痛いって、ノドが痛くてあんまりしゃべられないんじゃ」

『ああ、寝たら治ったよw』

「!? 学校、休んだんでしょう!?」

『朝がいちばん調子悪くてさぁ。でも、薬飲んで寝たら、もうなんともないよ』

 

「(へなへなとなりながら)…もう。

 …心配させないでよ。

 …焦ったんだから。」

 

『回復力はサッカー部3本の指に入るんだ』

 

「とぼけないでよっ」

 

『ごめんよw』

 

「……(思わず笑いながら、)いいわよw

 

 こちらこそ、ごめんね……。」

 

『え!? なにが』

 

「お説教みたいになっちゃったじゃない、きのう。

『バカ!』なんて言っちゃったし。

 ノドが痛くて、調子が悪くなりかけてたのにね、あなた。」

 

『まー、お説教されたからって、病状が悪化するわけでもないしさー』

 

「あなたがそーいうタイプだってことがハッキリわかったわw」

 

『そいつはよかったーw』

 

「あとーー、あとね、

 全速力で走るのって、すごくスタミナが要(い)るのね」

 

『? あたりまえだろー』

 

「よーくわかったわ。

 それと、いきなり走り出すと、転びやすいのね」

 

『あたりまえじゃんか? そのために準備運動があるんだろ』

 

「それも、よーくわかったわ」

 

『でもなんで? 

 きみ、走る必要でもーー』

 

ひみつっ

 

『そういや、スポーツテストの結果は、いつ見せてくれるの?』

「元気そうなのがわかったから切るわよ」

『…ひみつ、かww』

おだいじにっ

 

 

 

 

 

 

 

× × ×

 

カバンを取りに、教室へ戻ろうとした道すがらーー

 

「(-_-;)やっぱりいると思った、愛ちゃん。」

「『やっぱり』、じゃないでしょ?

 いきなり教室脱走されるとビックリしちゃうんだから!w

 はい、カバン♫」

「ありがとう…」

 

 

 

「…愛ちゃん、どうしてわたしがいきなり取り乱したのか、訊(き)かないのね」

「えーっ? だってだいたいわかるもん」

「?!?!?」

「想像できちゃうもん、

 お見透(とお)し、ってやつ?」

 

 

「ねぇ、愛ちゃんって、ランニング、するのよね」

「うん、近くにいいコースがあるんだよ、アツマくんが教えてくれたの」

「素敵ね。

 

 わたしも、ランニング、は、はじめよっかな」

「なんでまた」

「だって、ハルくんは、たぶんランニング、するでしょう」

「そりゃーねー」

「わたしも、もうちょっと、体力をつけたいと思って」

「そりゃまたなんで」

「(愛ちゃんの手を握って)ね、4人でランニングしない?

 愛ちゃんとアツマさんとわたしとハルくんとで

「(^_^;)……そりゃまたなんで。」

 

 

 

【愛の◯◯】「顔がグショグショの八木さんなんてキライだっ」

どうも皆様いかがお過ごしでしょうか。

八木八重子です。 

 

本来なら、ここで「あけましておめでとうございます…」と言うところでしょうが、実のところ、予備校生つまり浪人生には年末年始やら年越しやらお正月やらそういう概念はあってないようなものなのです。

 

なのでお祭り気分な外の空気を避けるように、ひたすら引きこもって勉強勉強勉強……していたらなんと! 1月も1/3を過ぎようとしているんですね。

 

2度めの大学入試は、もう、すぐそこ。

 

・きのう、葉山と電話した

 

『ーーそっか、第一志望、早稲田にしたんだ』

「そゆこと。

 自分の原点に戻るような感じ、だけど」

『わたしの教え子も早稲田受けるわ。建築だから理系だけどね』

「『教え子』って……w

 ヘンな言いかた。

 キョウくん、でしょっ?w」

『わ、わたしは、か、家庭教師なんだから、キョウくんは、教え子』

「葉山らしくない。

 もっといい形容の仕方があると思う」

『たっ、たとえば』

「んーーーーーー、

 

 思いつかないww」

八重子っ

「おこらない、おこらない。

 血圧上がっちゃうよ?

 

 ねえ葉山、気をつけてね、体調。

 特にインフルエンザ」

『気をつけるのはそっちのほうでしょっ、どう考えても💢』

 

『早稲田のほかには、どこ受けるの?』

「戸部くんの大学とか」

『ああー、すべり止めか』

「『ああー』じゃないよ。

 戸部くんに失礼じゃない」

『でも戸部くんの大学がすべり止めであることは否定しない』

「そこはね……w」

 

『関西の大学はどうなの?

 関関同立とか』

「受けないよ、こっちの大学だけ。

 お父さんに負担かけたくないし。

 無尽蔵に受験料があるわけじゃーないからねー。

 受けるところは、ある程度絞った結果」

『でもさみしくないの』

 

「……」

 

『八重子の話しぶりだと、工藤くん、たぶん京都大学ダメでも、大阪大学受けるよ、関西に固執(こしつ)すると思う。

 

 抜け出したいんだよ、工藤くん。東京っていう世界からーー』

 

「それはあんたよりわたしのほうがよーーーく実感してるよ、抜け出したいっていう、彼の気持ちは」

 

『八重子が意地っ張りだからあえて言ってみた』

 

「あんただってそうでしょ」

『そうかもしれないけど、わたしと八重子を比較すると…ねw』

 

 

 

× × ×

 

きょう

予備校

昼休み

 

工藤くんが、

机の上で指を組んで、

眼を閉じている。

 

まるで、念じ入(い)るかのように。

あるいは、考え事を、突き詰めているのかもしれない。

 

物思いの工藤くん。

わたしはそんな工藤くんの背後に立って、

 

くどーくーん

 

Σ(@_@;)

 

「びっくりさせないでくれよお」

「物思いにふけってても、試験の点は上がらないよ~」

「きょうの八木さんはやけにイジワルなんだな。

 

 でも、さっきのは、すぐに八木さんだってわかった。

 

 だって、僕のこと『工藤くん』って呼ぶの、八木さんぐらいしかいないから」

 

ドックンッ

 

「八木さん…、

 なんできみは、『クドタク』じゃなくって、わざわざ丁寧に『工藤くん』って……」

 

ドックドクンンッ 

 

「(;-_-)それは、外に出て話しましょうか」

 

 

 

 

× × ×

 

「ーー高校の放送部のコンテストで会ったときから『工藤くん』だったでしょ。

 だから今も『工藤くん』、なだけ」

「それは説明にも理由にもなってないよ」

 

(言い返せない)

 

「『クドタク』って呼び直せばいいだけの話じゃんか」

「『くん』、を、『くん』を付けないと、ぞんざいな呼びかたになっちゃうし」

「じゃあ『クドタクくん』じゃだめだったの?」

「…『工藤くん』のほうが、響きがいいでしょ」

「響き??」

「音の響きよ。

 工藤くんは…放送部だったんだから、そういうところには敏感だと、わたしは思ってたのに」

「や、『クドタク』は『クドタク』で、慣れるといい響きだよ」

ばかっ

 

「…八木さん…」

 

工藤くんばかっ、放送部のころの工藤くんはいったいどこに行っちゃったの!?

 

 コンテストに出てたころの工藤くんは輝いてたよ、男子ひとりでコンテスト参戦して肩身も狭かったはず、それでもアナウンス原稿読む工藤くんは輝いてた、そう、工藤くん輝いてた、工藤くん、あなたがいちばん輝いてたんだよ。

 

 …その輝きを、どこに置いてきちゃったの…?

 

 変わらないのは……だけ。

 そう工藤くん、あなたの、低音で、素敵な、その

 

 

 

時間が止まったみたいになった。

 

立ち尽くす、工藤くんと、わたし。

 

クルマが行き交う音だけが、BGMで。 

 

 

「あこがれてた。

 わたしは確かに、高校時代の放送部のあなたにあこがれてたんだ。

 

 それでーー好きだったんだ、声、

 ちがう、声だけじゃない、

 

 声から…声から好きになって…それで…」

 

「八木さん、ひ、昼休み、終わる、」

工藤くん意気地なし、もっと意地張ってよ。

 

 来週センター試験なんだよ!?

 

 意気地なしでどうするの、

 もっと食い下がってよ、

 食い下がってよわたしに。

 

 せっかく、せっかく、わたしがわたしがこんなに、こんなふうにーー」

 

 

「落ち着いてくれよ」

 

(ハンカチを差し出す工藤くん)

 

「…なんのマネ」

 

「なんのマネ、じゃないだろっ!?」

 

 

わたしの五臓六腑(ごぞうろっぷ)に響き渡り染み渡る、

彼の、バリトンの、怒鳴り声。

 

 

「僕は!

 顔じゅうそんなふうに涙まみれになってる女子は、

 キライなんだ」

 

 

 

 

(やるせない表情でその場を去ろうとする工藤くん)

 

 

「工藤くん」

 

 

「……」

 

 

「洗って、返すね」

 

 

 

「…………よろしく

 

 

【愛の◯◯】スポーツに詳しくないスポーツ新聞部顧問!?

あすかです!

 

さて、きょうも部活部活~と思ったら、活動教室の扉の前に、

国語の椛島澄(かばしま すみ)先生が、

仁王立ちしているではありませんか。 

 

椛島先生だ。ご用ですか? スポーツ新聞部に」

「あすかさん。

 (怒りっぽく)…中村くん。

 中村くん、いるかしらっ」

「中村くん…ああ、部長ですね。

 おそらくもう来てると思いますよ。

 このところ、授業終わったらここの教室に直行してるみたいですから。

 

 でもどうして?」

「中村くんを叱りにきたのっ💢

 

 彼、宿題未提出の常習犯なのっ💢💢」

 

あー。

(^_^;)想像できちゃうなー。 

 

× × ×

 

ガラッ

 

中村部長「やあ、あすかさん。それに、椛島先生」

椛島先生「『それに』じゃないです、中村くんっ!!」

中村部長「おぉっと」

椛島先生「宿題!💢

 冬休みの漢文の宿題、出してないでしょっまだ!?

 あいも変わらず!!

 

 まさか、『漢文は受ける大学の入試に出ないからやらない』とか思ってないでしょうね!?!?」

中村部長「思っていません!」

椛島先生「じゃあなんで提出しないのかなあっ、

 先生、怒ってるんだよ???

 わからないかなあっ???

 こうやって、わざわざ部活の教室まで、あなたを追いかけてるんだよっ?💢💢

 わかってよ、わたしの苦労…

 

あえぎ始める椛島先生……

 

ほんとうに、中村部長に手を焼いているみたいだ。

 

なんだか、椛島先生、くたびれ方がリアル。

若いのに……。 

 

中村部長「椛島先生、息切れですか?」

椛島先生「ひどい、ひどいひどい中村くん」

 

わたし「(^_^;)まあまあ落ち着いてください、先生」

 

 

桜子さん「そういえば、

 椛島先生って、スポーツ新聞部の顧問でしたよね?」

 

椛島先生「Σ(;・∀・)

 

わたし「えっ、それホントですか」

 

椛島先生「(うろたえ気味に)そうよ、あすかさん、

 そうなの、

 

 ーーこれまでは、サブ顧問的な立場で、

 メイン顧問の先生の影に隠れてた。

 

 でも!

 

 新学期になったとたん、

 そのメイン顧問の先生に、」

 

桜子さん「『来年度からはおまえがメイン顧問になれ』と言われたんですね」

椛島先生「そう!

 

 (桜子さんの手を取って)一宮さん、わたしどうすればいいのかしら?

 

  引き受けるか、引き受けないか、そこが問題、だった、

  けれど、事の成り行きは、必然で。

  ああ、どうしてわたしはスポーツ新聞部の顧問なの。

  しかも来年からはメイン顧問で。

  ああ、そしてどうして、中村くんは中村くんなの?

  中村くんはどうしてスポーツ新聞部のボスなのよ」

 

桜子さん「先生だいじょうぶ、中村部長は卒業します」

椛島先生「おお、ロミオ!!」

桜子さん「ロミオじゃないです」

 

わたし「椛島先生……

 学生時代、演劇部だったんですね」

 

 

椛島先生「どうしてわかるの…!?

 

 

(ずっこけるわたしと桜子さんと中村部長)

 

 

× × ×

 

岡崎さん「椛島せんせーい、いま、おれたち、プロ野球の順位予想をしてるんですよー」

 

椛島先生「(きょとんとして)順位予想ーー??

 

 それは、何位から、何位まで」

 

岡崎さん「(眼を丸くして)先生、プロ野球はぜんぶで何球団か、わかりますか?」

 

椛島先生「えっ…わからない」

 

岡崎さん「(眼を見開いたまま)12球団です。

 そしてセ・リーグパ・リーグで、6球団ずつに分かれるんです」

 

椛島先生「岡崎くん、どうしてそんなに野球に詳しいの……

 

 

(ずっこける岡崎さんと瀬戸さん)

 

 

わたし「ダメですよぉ岡崎さんも瀬戸さんも。知らない人はとことん知らないってこともあるんですから」

中村部長「そうだよ、色眼鏡、ってやつだ。

 

 先生、たとえばセ・リーグの順位予想をするとして、いま岡崎が言ったように、セ・リーグぜんぶで6球団しかないので、1位から最下位の6位まで予想するんです。

 全順位を予想しても720通りしかないから、簡単ですよw」

 

椛島先生「…中村くん、理系なの??」

中村部長「いいえ文系です」

椛島先生「だったらなんで『720通り』なんて数字がすらすらと出てくるの」

中村部長「♪~(´ε` )」

椛島先生「しらばっくれないでよ

 

わたし「先生もセ・リーグの1位、予想してくださいよ」

 

椛島先生「えっ……でもわたしが知ってるチーム、巨人と阪神だけ」

 

(^_^;;)こりゃー「本格的」だなー。

 

わたし「じゃあ、巨人と阪神だったら、どっちがより優勝に近いと思われますか?」

 

椛島先生「それは…巨人じゃないの」

 

わたし「では、セ・リーグパ・リーグだと、どっちが強いのか、」

瀬戸さん「あすかさんちょっとタンマ、

 先生は、セ・リーグパ・リーグって概念も、知らないんだろう?」

わたし「あっ」

 

椛島先生「え…気になるよ。セ・リーグパ・リーグ、どっちが強いとか弱いとかあるものなの」

 

瀬戸さん「先生、パ・リーグのほうが強いんです」

 

椛島先生「瀬戸くん…言い切れるものなの、それって!?」

 

桜子さん「先生」

椛島先生「うん」

桜子さん「来年度からわたしが部長になるんですが」

椛島先生「はい」

桜子さん「あしたから10回に分けて、『なぜセ・リーグよりパ・リーグのほうが強いのか』を説明するために、あすかちゃんと瀬戸くんに『日本シリーズ』についてレクチャーしてもらいます」

椛島先生「にほん…シリーズ。

 

わたし「(^_^;)」

瀬戸さん「(-_-;)」

 

 

【愛の◯◯】次期部長:桜子さん、次期副部長:瀬戸さん

はいどうも! 戸部あすかです。

 

新学期が、始まりました。

 

スポーツ新聞部も、絶賛稼働中なわけでしてーー 

 

 

@スポーツ新聞部の活動教室

 

わたし「桜子さん、今朝配った新聞なんですけど…」

桜子さん「なにかあったの?」

わたし「良いことです。

 花園…高校ラグビーの決勝戦の記事を書いたじゃないですか、わたし。

 そしたらその記事に反応して、読んでくれる子がけっこういたんですよー。

『この記事はあすかが書いたの?』って訊(き)いてくる子もいて。」

 

桜子さん「あすかちゃん人気ものなのね」

わたし「い…いえ……わたしはラグビーへの関心が高まってるのが、良い兆(きざ)しなんじゃないかということを、ですね……」

桜子さん「でも、記事を『あすかちゃんが』書いたこと、が注目される。

 

 あなたはスポーツ新聞部の花形なのね」

わたし「…花形……なんて、そんな……『巨人の星』じゃあるまいし…」

桜子さん「なんでそこでとぼけるの」

 

中村部長「なんでそうあすかさんをイジメるの、桜子はw」

桜子さん「勉強してください、部長。

 

 ねえ部長、これだけ書いた記事が注目を集めるのなら、次期部長はあすかちゃんでもいいんではないでしょうか?」

 

わたし「(思わず立ち上がって)どうしちゃったんですか!? 桜子さん」

 

中村部長「(手をヒラヒラさせて)ダメダメダーメ、桜子、ダメなものはダーメ。

 部長は現・2年の三人のうち誰かがやる。

 これ、部長命令。拘束力、MAX」

 

(くちびるをギュッと噛みしめる桜子さん)

 

そして、教室から逃げ出す桜子さん

 

 

 

わたし「……、

 桜子さん、

 体調でも、悪かったのかな」

 

瀬戸さん「プレッシャーだよ」

 

わたし「プレッシャー??」

 

瀬戸さん「あいつは、次期部長に自分が指名されるって、ビクビクしてるんだ」

 

わたし「瀬戸さん、どうして、そう言い切れるんですか…」

 

瀬戸さん「前々から2年組で話してたんだよ。

 『次の部長は桜子がいいよな』って。

 それで桜子も納得してたーー受け容(い)れてた、っていったほうがいいかな。

 でも、ポスト中村部長っていう自分の立場が、中村部長の卒業が近づくにつれ、重荷になってきた。

 わたしに中村部長の代わりが務まるのかーーっていう」

 

中村部長「桜子、そこまでボクを高く買ってくれてたの」

瀬戸さん「心の底では部長を尊敬していたんです、だからーー」

 

岡崎さん「でも瀬戸も悪いよなー」

瀬戸さん「はぁ!?

 

わたし「お、岡崎さん、話が見えてこないです」

 

岡崎さん「神岡、だよ」

瀬戸さん「神岡…恵那…

 

 ∑(*'д'*)ハッ!

 

岡崎さん「2年の周りで、瀬戸が水泳部の神岡といっしょにスポーツ用品店でデートしてたって、ウワサになってるんだ」

瀬戸さん「(*'д'*;)

 

中村部長「あー、そんなこと、どっかできいたかもなー、今週」

 

瀬戸さん「断じてデートじゃないよ。

 ほら、おれも競泳経験者だからさ、アドバイスを…と思って」

 

わたし「でも、アドバイスもなにもあるんですか?

 スポーツ用品店っていったって、競泳だったら、水着買うことぐらいしかーー」

 

瀬戸さん「(*'д'*;)

 

 

 

 

瀬戸さん「(Д`;)ごっゴーグルとかバッグとか、いろいろさっ、

 ちょっと桜子つかまえてくる!!

 (そう言うなり、教室をダッシュで脱出する)」

 

 

 

 

 

わたし「桜子さん……、

 水泳部の神岡さんに、嫉妬してたんですね。

 

 そんなに瀬戸さんをーー」

 

あれ?

 

岡崎さん、

岡崎さんが、なぜか、

とてもさみしそうな顔に。

 

どうして…?

 

× × ×

 

・桜子さんを引きつれて瀬戸さんが戻ってきた

 

桜子さん「あすかちゃん、ごめんね。

 バカみたいなこと言って。

 ちょっと荒れてたんだ、

 わたし。」

 

わたし「いえ、わたしも、少し自慢入ってましたから」

 

 

瀬戸さん、桜子さんを真正面に見つめる

 

 

桜子さん「ど、

 どうしたの、瀬戸くん、

 わたしの顔に毛虫でもついているの、」

 

瀬戸さん「桜子!」

桜子さん「!! (背筋を伸ばす)」

 

瀬戸さん「……やっぱり次の部長は、桜子がいいと思う。

 でも、そんなに気負わないでほしい。

 ーー気負う必要、ないからさ。

 落ち着けよ。

 な?

 

 なんなら、おれが副部長になってやるよ」

 

中村部長「あ、それいい」

わたし「いいと思います」

岡崎さん「異論なし」

 

瀬戸さん「おれと桜子で、ダブル編集長体制、みたいなもんだよ。

 そういうことにしよう。」

桜子さん「いいえ」

瀬戸さん「えっ」

桜子さん「わたしが部長で、瀬戸くんが『副』部長であるからには、わたしの指示に従ってもらいたいわ。

 上下関係。」

瀬戸さん「でも、桜子の負担が…」

桜子さん「だいじょうぶだから。

 ーーそう、だいじょうぶよ、きっと。

 

 わたしが部長で、あなたはあくまで『副』部長。

 それを忘れないで。

 

 次期部長命令。」

瀬戸さん「しょうがねーな……」

 

 

 

 

 

 

わたし「(ポツリと)ほんとうに大丈夫なんでしょうか……」

岡崎さん「気になる? やっぱり。

 ま、なんとかなるよ。楽観的にいこうよ」

わたし「そうですね。

 やってみなくちゃ、わかんないですよね」

岡崎さん「(;^_^)お、おお。」

わたし「ですが、わたしがいちばん気になるのはーー、

 岡崎さんです。」

岡崎さん「(;´Д`)なんで!?」