・きのう(成人の日)
・夕方
・ハルくんに、電話
「もしもし」
『…………もしもし』
「観てたわよね? さっきの試合」
『………??』
『…………』
「ちょっと、聴いてるのっ💢」
『……(ダルそうに)なんの決勝?』
「こ、
高校サッカーの決勝に、決まってるでしょっ💢💢」
『あー、選手権かー』
「あー、じゃないわよっ!!
あなた、もしかしてさっきの決勝戦の中継、観てなかったの!?」
『おれ、ただ観てるより、プレーしてるほうが好きだからさー。
そりゃ、観ないときも、あるよ』
「それにしたって……
観なさいよっ、いちばん重要な試合くらい。
あそこの舞台に立ちたいんじゃないの!?!?」
『立てれば……自慢できるんだけどなっw』
ピキッ💢
『ーー考えてごらんよ。予選だけで、何試合勝ち上がらなければいけないと思ってんのw』
「ばか💢 そんな弱気でどうするの!!!
せっかく、せっかくハルくん、たくましくなってきたと思ってたのにっ」
『……体調が悪くなければ、テレビ観てたかもしれないけど』
「……えっ……病気にでも……なったの?」
『いんや、ノドが痛いってだけだよw
ノドが痛くて、部屋で休んでたら、試合が終わっちゃってたw』
「…熱は?」
『(咳き込む音)
今んとこはない。
大丈夫だよ。
そんな心配そうにしなくたって』
(´・_・`;;)
× × ×
・きょう
・放課後
「大丈夫だ」なんて、
そんなこと言われたって、
心配にならないわけ、ないじゃない。
@LINE
>『こんにちは』
>『どうですか? からだの具合は』
>『学校』
>『学校…ちゃんと行けた?』
<『休んだ』
「やっほ~アカちゃん。
珍しいね、教室でスマホなんて、放課後とはいえ。
蜜柑ちゃんとでもLINE?
あ、
それとも…w」
「ごめんっ愛ちゃんっ」
(教室から全速力で飛び出す)
× × ×
どうしよう。
どうしよう。
きのう、強く言いすぎたんだわ、
それが悪かったのよ、
そのせいよ。
逃げ惑うようにして、
校内をさまようわたし。
人気(ひとけ)のないようなところで、
彼と連絡をとりたかった。
走るスピードが、だんだん、だんだん速くなって、
つまずいて転んでしまいかけた。
恥ずかしい……恥ずかしいし、
情けない。
自分の体力を、過信していた。
……ハルくんの走るスピードに、
追いつきたかったのかしら。
そもそも、スカートだから、
全速力にも限界があるんだけれど。
やっと閑散とした場所までやって来た! と思ったら、
(卒業シーズンだから…?)
ただならぬ雰囲気のお二人様に出くわして、
ちょっとどころじゃなく気まずかった。
× × ×
ここまで来たらーー、
たぶん、誰にもさとられないはずっ
・LINEの通話ボタンを押す
『もしもし~~?』
「つっ、通話でよかったかしら、あなたきのうノドが痛いって、ノドが痛くてあんまりしゃべられないんじゃ」
『ああ、寝たら治ったよw』
「!? 学校、休んだんでしょう!?」
『朝がいちばん調子悪くてさぁ。でも、薬飲んで寝たら、もうなんともないよ』
「(へなへなとなりながら)…もう。
…心配させないでよ。
…焦ったんだから。」
『回復力はサッカー部3本の指に入るんだ』
「とぼけないでよっ」
『ごめんよw』
「……(思わず笑いながら、)いいわよw
こちらこそ、ごめんね……。」
『え!? なにが』
「お説教みたいになっちゃったじゃない、きのう。
『バカ!』なんて言っちゃったし。
ノドが痛くて、調子が悪くなりかけてたのにね、あなた。」
『まー、お説教されたからって、病状が悪化するわけでもないしさー』
「あなたがそーいうタイプだってことがハッキリわかったわw」
『そいつはよかったーw』
「あとーー、あとね、
全速力で走るのって、すごくスタミナが要(い)るのね」
『? あたりまえだろー』
「よーくわかったわ。
それと、いきなり走り出すと、転びやすいのね」
『あたりまえじゃんか? そのために準備運動があるんだろ』
「それも、よーくわかったわ」
『でもなんで?
きみ、走る必要でもーー』
「ひみつっ」
『そういや、スポーツテストの結果は、いつ見せてくれるの?』
「元気そうなのがわかったから切るわよ」
『…ひみつ、かww』
「おだいじにっ」
× × ×
カバンを取りに、教室へ戻ろうとした道すがらーー
「(-_-;)やっぱりいると思った、愛ちゃん。」
「『やっぱり』、じゃないでしょ?
いきなり教室脱走されるとビックリしちゃうんだから!w
はい、カバン♫」
「ありがとう…」
「…愛ちゃん、どうしてわたしがいきなり取り乱したのか、訊(き)かないのね」
「えーっ? だってだいたいわかるもん」
「?!?!?」
「想像できちゃうもん、
お見透(とお)し、ってやつ?」
「ねぇ、愛ちゃんって、ランニング、するのよね」
「うん、近くにいいコースがあるんだよ、アツマくんが教えてくれたの」
「素敵ね。
わたしも、ランニング、は、はじめよっかな」
「なんでまた」
「だって、ハルくんは、たぶんランニング、するでしょう」
「そりゃーねー」
「わたしも、もうちょっと、体力をつけたいと思って」
「そりゃまたなんで」
「(愛ちゃんの手を握って)ね、4人でランニングしない?
愛ちゃんとアツマさんとわたしとハルくんとで」
「(^_^;)……そりゃまたなんで。」