【愛の◯◯】本を読む場所、少なくとも、9つ

戸部邸

アツマくんが、大学から帰ってきた

 

「おかえりなさい」

「ただいま。

 ーーなんだ? 考え事でもしてたのか」

 

・こくん、と首を縦にふる

 

「(リビングのテーブルを見て)わかった。読んでた本のこと考えてたんだな」

 

・こくん、と首をもう一度縦にふる

 

「きょうは『どうしてわかるの』って言わないんだなw」

「💢」

「(焦り気味に)わかった、わかったから、言わないときもあるって、わかってるから」

 

 

「本のことと、もうひとつ、本を読む場所のことについて考えていたの」

「場所?」

「そう。本をどこで読むか、ってこと。

 具体的に、どんな場所で読んでいるかを、数え上げていたのよ」

「数えるって、不毛なことのような気もするけどなぁ」

「わるかったわね💢」

 

 

 

1.リビング

 

「つまりここのことね。

 現にさっきまでこの本を読んでいたわけだし」

 

 

目まいのする散歩 (中公文庫)

 

 

「はじめて見る名前の作者だな」

「(びっくりして)アツマくん、武田泰淳知らなかったの!?」

「知ったかぶりするよりいいだろ」

「たしかに。

 でもショックだわ」

「(^_^;)あ、そう…

 小説家か?」

「そうだけど、これはエッセイ集。ちょうど読み終わっちゃったところ」

「ふーん」

「つまらなかったけどね」

「え」

 

 

2.ダイニング

 

「起きて、朝ごはん作って、みんなが起きてくるのを待っているときとか」

「愛は朝早いもんなー」

「あなたって、朝早く起きてランニングするときもあれば、遅く起きてくるときもあるわよね」

「基本おれは朝早いぞ」

「うそでしょ」

「うそじゃないよ」

「じゃあなんで年末の旅行で、出発の朝になかなか起きてこなかったのよ。わたしが起こしに来てあげなかったら、新幹線乗り遅れてたかもしれないのよ」

「あれは時間帯が早すぎたからだよ」

「でももうちょっとちゃんとしてほしかったなー」

「ちゃんと新幹線間に合ったから、オールOKだろ」

「お正月も起きてくるの遅かったじゃない?」

「それはお正月だからだよ」

「言い訳ばっかりしないで」

「でも母さんのほうがおれより朝弱いだろ」

 

「それは…否定できないけど……

 

 ら、ランニングするときは、早く起きられるんだから、もう少し起床時間を安定させようね、ね?」

 

 

3.通学の電車

 

「なるほどねえ」

「行きと、帰りに。帰りのほうが、電車は混んでないこと多いから、読みやすいよね」

「電車の中で読むと、集中できる?」

「そうね。なぜかしらね」

「山手線に乗り続けてると無限に本が読めそうだな」

「同じこと考えてる人たくさんいるから。本にも書いてあったし」

「どの本に?」

「…忘れちゃった」

「おまえらしくないなw」

 

・シュンとしてうつむくわたし

 

「ご、ごめん!! 誰だって思い出せないときはあるよな、な!?」

 

 

4.学校の図書館

5.公立図書館

 

「山手線ゲームならぬ山手線読書ゲームってか」

「(-_-;)読書をゲームと言えるかどうか……

 (^_^;)ま、いいわ。」

 

「わたしは図書館で本を借りること、比較的少ないんだけどね」

「なんで?」

「自分の部屋に積ん読タワーがあって、それを崩すので精一杯だから。

 あとーー」

「あと?」

あるじゃないの、この邸(いえ)に、世界でいちばん素敵な図書館が!!

「ああ……なるほど。

 そうだな、そうだよな。」

 

「べつに学校図書館公共図書館の存在意義を否定してるわけじゃないので、勘違いしないでくださいね♫」

「(;´Д`)……どこ向かってしゃべってんだ、おまえ!?」

 

 

6.児童文化センター

 

「ここにも図書室があるからね。もちろん児童書メインだけど、大人向けの本もあるわ」

「大人向け? どして」

「鈍いわね」

「(棒読みみたいに)わるかったなにぶくてー」

「お母さんやお父さんのための本よ」

「あ…そうかっ! 子育てについての本なんかが置いてあるんだな」

「いきなり鋭くなったわね」

「………」

「放課後に立ち寄って、絵本の読み聞かせをしてあげることもあるし」

「ルミナさんも常連なんだろ」

「そうね、もうスタッフさんみたいなものよ」

 

「なあ、おれがセンターに行ってみるのは、やっぱダメなのか?

 以前おまえを迎えに行ったとき、『恥ずかしいかも…』って言ってたし」

 

「ダメ、とは……言っては、いない、けど、」

 

「(キョトンとして、)??」

 

 

…やっぱり、あの場でアツマくんといっしょになるのは、

恥ずかしい、

かなり恥ずかしい、

 

けど、

恥ずかしいことが恥ずかしくて、『恥ずかしい』って言い出せない。

 

 

 

ーーそれはともかく!!

わたしが本を読む場所、いったいいくつ存在するのよ。

次から次へと思い浮かぶ。

 

 

7.自分の部屋の机

8.自分の部屋のベッド

 

「そういや、愛の部屋、ベッドにも本を置く場所があったな」

「よく覚えてるわね。枕元にね」

「机とベッドで、読む本の種類は違うの?」

「それは違うわよ。ベッドは寝る前だから、リラックスできるように軽いエッセイを読むことが多いわね」

「そういえば」

「そういえば?」

メモリーカードを、愛の部屋で落としちまったみたいなんだ、どうも」

 

「メモリー……カード?」

 

「うん。テレビゲームのメモリーカード。データを保存するやつ」

 

「ど、

 どうして、

 どうしてそんなもの、わたしのへやで、おとす、かなあw」

 

「いや多分おまえの部屋で落としちまったような記憶があるんだ。なんかの弾(はず)みでさあ。

 ほら、いっしょにドイツ語の勉強してたらおれが居眠りして、おまえに叩き起こされたことがあっただろ? その弾みだよ。

 

 ーー、

 なんでそんなキョドってんだ???」

 

「もしかして、わたしのへやに、さがしにくる…の」

 

「だっておまえメモリーカードっつったってわかんねーだろ。口で説明するより探しにいったほうがーー」

 

「(息を吸って、冷静になって)

 あのね、わかるよね、常識的に、男の子が、女の子の部屋をくまなく漁(あさ)るってのは、おかしいでしょ。」

「『くまなく漁る』とまでは、言っていない。

 部屋を荒らすわけじゃないし、まさか見ねーよ、タンスとかクローゼットの中とか。

 見るわけないだろ?

 おまえが見られてイヤなところは探さねーよ。

 おまえが『いい』って言う場所だけ探して、見つからなかったらそのときはそのときで…」

「アツマくん?

 

 そもそも、これ、あすかちゃんに部屋に来てもらえば済む問題じゃないわけ??」

 

「わたしも、この解決策に気づくのが遅かったのは、認めるけど」

「ほんとだ。なんで思いつかなかったんだろう」

「なんか、会話の流れ、変だね」

「ヘンだなあw」

「おかしかったねww」

「ああww

 

 でもさーー、

 

 愛のさっきのキョドりかた、尋常じゃなかったから、

 ひょっとして、」

 

 

あっ。

 

 

悟られた。

 

 

ーーおれの誕生日プレゼントを、秘密にしておきたいんだな?

 

「やっぱりわかるのね。

 わかっちゃうか。

 アツマくん、だもんね」

 

「明後日だもんな。

 ようやく19歳か。」

 

そう。

 

アツマくんの誕生日は、1月22日。

 

そこまで、誕生日プレゼントは、温存して、大っぴらにせずにおきたいから。

 

だから、いま彼に部屋に入られるのは、困るのだ。

 

「19歳になったらできることとかあるのかなw」

「さぁね~?

 葉山先輩なら、知ってるのかもしれないけど」

「? 葉山?」

 

 

「ーーわかったよ。

 誕生日プレゼントの中身は、秘密にしときたいんだな。

 そのほうが、楽しみも増すもんな。」

「うん、よろしく。

 

 ところでーー、

 わたしが本を読む場所だけど、」

「まだその話題続いてたんかい」

「もうひとつあるの。読む場所。

 

 でも、秘密。」

「そりゃ、いつまで秘密なんだ?」

秘密。