【愛の◯◯】女心と6月の空

 

「茶々乃(ささの)さん、今日は短縮版ですよ」

「そうなんだね、リリカちゃん」

「手短に自己紹介しておきませんか?」

「だねー。わたしは紅月茶々乃(こうづき ささの)。大学4年生で、『虹北学園(こうほくがくえん)』っていう児童文学サークルの幹部をしてて、なおかつ、音楽鑑賞サークル『MINT JAMS(ミント・ジャムス)』にも頻繁に出入りしてる。今日も、『MINT JAMS』のサークル部屋にお邪魔してるところ」

「わたしは朝日(あさひ)リリカです。『MINT JAMS』の会員で、茶々乃さんの1個下」

「リリカちゃんの自己紹介はアッサリとした自己紹介だね」

「ムラサキさんだったら自己紹介がもっとクドくなるんですけどね」

「わたしの同期で『MINT JAMS』の会員でこのサークル部屋にもほとんど常駐してるムラサキくんだったら延々と自己PRし続けそうだよね」

「さすが茶々乃さん。良く分かっていらっしゃる」

「現在(いま)は何故かここに居ないけど」

「たまたまじゃーないですか? たぶん今日も来ますよ」

「じゃあ、彼が来るまでに彼の悪口大会やらない?」

「あ、良いですねえ」

「リリカちゃんは彼に対して不満だらけなんでしょ」

「だらけなんですよー。この前も、わたしの『最近良く聴いてるジャズミュージシャンは誰ですか?』って質問に上手く答えられなかったんですよ?」

「えー。ムラサキくん情けないね」

「鴨宮学(かもみや まなぶ)くんとかジャズに詳しい会員もすぐそばに居るというのに」

「成長が見られないね」

「見られませんね」

「わたしも、ムラサキくんへの不満ぶちまけても良い?」

「思う存分ぶちまけてください」

 

× × ×

 

「次から次へと不満が出て来ましたね」

「不満続出はムラサキくんの責任」

「なるほど。茶々乃さんは4年間ずっとムラサキさんを間近で見てきてるから……」

「ダメダメなとこだらけの男の子だよ、ムラサキくんは」

「……でも」

「ん? リリカちゃんどーしたの」

「茶々乃さんにそこまで言わせるなんて、ムラサキさんはある意味スゴいのかも」

「す、スゴいって、どゆこと」

「スゴいのは、スゴいんです」

「リリカちゃんもしや、不満の一方で、ムラサキくんへのリスペクトのキモチも……?」

「あるワケ無いじゃないですか」

「だ、だったらどうして『スゴい』って言ったの」

「女心と6月の空……」

「え!?」