【愛の◯◯】雷鳴響けば縮こまる

 

蜜柑です!!

梅雨です。雨が降り続いています。

風も強かったのでレインコートを着て外に出ました。

近所のスーパーマーケットに食料品を買いに行く必要があったのです。

精算を終えてスーパーを出て、バルサミコ酢やオリーブオイルやスパゲッティなどの入った買い物バッグを持って帰り道を歩きました。

え?

『買い物バッグ大丈夫なの、雨で濡れたりしないの、あなたレインコート着てて傘は持ってないんでしょ』

みたいな疑問をもしかしてお持ちになりましたか?

大丈夫です。

この買い物バッグは特製仕様でして、完璧な防水加工がなされているのです。ただの買い物バッグとは違うのです。

えっ?

『納得できないよ。完璧な防水加工ってどんな防水加工だよ。雨を全く通さない買い物バッグなんて存在するか!?』

ですって??

ふふふ……。

分かっていらっしゃらないようですね。

そういうバッグも在(あ)るという『世界観』を……!

 

× × ×

 

『世界観』の設定が甘い気もしますがそんなコトは放置しておいて邸(いえ)に帰ります。

雨を寄せ付けなかった買い物バッグの中身をダイニング・キッチンの然るべき場所に配置し、階段を上がり、自分の部屋に入り、着替えを準備し、バスルームへと向かいます。

レインコートの方はズブ濡れでした。下に着ていた服にはあまり被害は及ばなかったのですが、それでも濡れてしまった箇所があったので、思い切って全部着替えるコトにしました。

シャワーを浴びた後で新しい衣服に身を包みます。

当然メイド服ではありません。あり得ません。幾らわたしが住み込みメイドだからといって、四六時中メイド服で過ごしているワケもありませんし。それに、お分かりでしょう? メイド服の着脱ってすごく手間がかかるんですよ。

手間がかかるメイド服よりも断然カジュアルな衣服をまとい、自分の部屋の前を素通りし、お嬢さまの部屋の入り口に着実に近付いていきます。

お嬢さまが部屋に居られるはずなのです。大学4年生の彼女は取るべき単位をほとんど取ってしまったらしく、今日も『教授がマスコミに取材される』とかいう理由で授業が休みになったようで、朝から在宅なのでした。

ドアを軽く2回ノックします。やはり在室でした。お昼ごはんをあんなに大量にお召し上がりになっていたからお昼寝されているのかも……と思いましたが違いました。大食いした後ですぐ横にならなかったのは立派ですね。

さて、大食いキャラでありながら細身で可憐なお嬢さまのアカ子さんはベッドに腰掛けています。

入室するやいなや勉強机の手前の椅子に座ったわたしに、

「あなたカジュアル過ぎるぐらいカジュアルな服装ね。どうして?」

どうしてもこうしても無いと思うのですが答える義務はあるので、

「住み込みメイドがカジュアルな服装やラフな服装したって良いじゃないですか。いつもいつもフォーマルな装いばかりでは肩にチカラが入り過ぎてしまいます。適度に気を抜かないと業務にも支障が出るので」

「ふぅん」

なんですかそのリアクション。せっかく、出された疑問にちゃんと答えたのに。

それに、

「お嬢さまだって、ずいぶんとカジュアルなモノばかりお召しになってませんか? 他人(ヒト)のコト言えるんでしょうか」

カウンターパンチを食らわされたお嬢さまは、

「あなたよりはちゃんとしてるわよっ。外に出る必要ないからって、現在(いま)のあなたみたいに着崩したりはしてないわ」

と反論し、苛立ちの芽を伸ばしていきます。

お嬢さまより歳上のわたしは余裕ありありですから、

「ずいぶんと粗探しにご熱心なようで」

と言い、微笑みかけていきます。

気付けば、外の天候は悲惨さを増していました。

窓から見える空は雲が垂れ込めてどんより。おまけに暴風雨がさっきよりも勢いを増していて、ビュンビュンと吹く風がときおり窓を打ち鳴らします。

わたしは、お嬢さまのアカ子さんの『弱点』を当然のコトながら知っておりました。

もうすぐ彼女が『弱点』を突かれるのは明白。

彼女にとって1番怖いモノがやって来るのですから。

天候の悪化を感じ取った彼女の表情が苛立ちから怯えへと成り変わっていきます。

ついに、ピカッと光って雷鳴が鳴り響きました。

彼女が一気に縮こまりました。怯えの度合いも急激に増していっています。

次の雷鳴は重々しい音でした。その響きにさらに身を丸くし、眼を閉じてしまう彼女。

「み、みかん……。」

懸命に声を振り絞り、

「あなたの服装をバカにしたバチが当たったのかしら……」

と、アカ子さんは。

わたしは落ち着き払い、

「その可能性はありますよねえ」

と答えるんですが、

「アカ子さん、そんな様子で大丈夫なんですか? 絶対大丈夫じゃないですよね? 如何にも助けが要るような怖がり方をして」

彼女はすぐさま、

「わ、わかるでしょ? 蜜柑ならわかるでしょ? わたしが世界で1番怖いモノ。基本的に怖いモノ知らずのわたしが、唯一……」

またもやピカッと光って、轟音がお邸(やしき)を襲って来ます。

これ以上小さくなれない程にアカ子さんが縮こまってしまいました。

やれやれですねー。

みかん。こわい。カミナリ。こわいこわいこわい」

なんですかねー、そんな幼い怯え方は。

このまま行くと、赤ちゃんみたいな領域まで退化しちゃいそうじゃないですか。

『アカ子さん』が、『アカちゃん』に……。こっちは、面白おかしいから良いんですけどね。