マジで寒い。ヤバいぐらいに寒い。寝室でフル稼働しているエアコン暖房もあまり通用していない。それぐらいの寒気(かんき)だ。
ダブルベッドの掛け布団の下に毛布を足して、身を包ませる。仰向けで、何もせずに、カラダを温(ぬく)めることだけに集中する。
しかし、ノック無しで愛が寝室に入ってきて、掛け布団と毛布を剥(は)ぎ取られる悪寒しかしなくなる。
おれの悪寒通りに、ずんずんダブルベッドに接近してきた愛は、ガバアアッ、と一気に掛け布団・毛布を剥ぎ取る。
ひとたまりも無いおれは、
「愛、凍(こご)える、凍える」
と悲鳴を上げる。
しかしながら、愛はいつも通り無慈悲(むじひ)で、
「この程度の寒さで凍えるぐらいヤワじゃなかったでしょ? あなたは」
それから、ベッドの上に乗ってきて、
「3連休の中日(なかび)だからって、こんな時間まで寝室に引きこもってるのはイエローカードよ」
……イエローカードなのかよ。
レフェリーと化したかと思えば、おれのパートナーは続けざまに、
「これは、マイナスポイントね。アツマくんのポイントから110ポイント引いておくわ」
「おいおいおい、謎の『ポイントシステム』、継続してたのかよ。てっきり自然消滅するかと思いきや……」
「うるさい!!」
大声で怒った。
怒ってからすぐさま、おれの上体(じょうたい)に抱きついてきた。
抱き締めてくる愛。抱き締められるおれ。
「どう、アツマくん? わたし、毛布よりも温かいでしょ?」
「まぁな……。人肌というか、なんというか」
「冴えない答え方ね。イエローカード2枚目ね」
「げ、イエロー2枚って、サッカーだったら退場じゃねーか」
「そのとーり。あなたはわたしと一緒に寝室から退場」
……巧(うま)く言いやがったな。
× × ×
リビング。ソファ。隣同士。
「で、なにすんの。こんだけ寒いと、外出モチベーションなんて全然出ないが」
雪こそ降らないものの、いかにも冷え冷えとした薄曇(うすぐも)りの空が、窓から垣間(かいま)見える。そんな午前10時台半ばである。
なにすんの、というおれの問いに、右隣の愛は、
「無理にお外に出なくたって良(い)いわ。わたし、今朝から考えてたコトがあるから、それをあなたに伝えたいの」
「考えてた? どんなコトを?」
「『伝えたい』っていうより、『発表したい』かな」
少し苦笑混じりの微笑(びしょう)でそう言って、愛は、
「名付けて、『去年エモかったクラシック音楽家ベスト3』」
……なにそれ。
それ、なに。
いきなり、クラシック音楽家のランク付け??
しかも、『エモかった』だとか、コイツらしくもない流行(はや)り言葉を修飾語(しゅうしょくご)にして……。
「早速(さっそく)、第3位」
おれのキモチに一切構わない愛は、
「メンデルスゾーン」
と言う。
おれは例によって反応に困る。
「あなたの今のその顔は、メンデルスゾーンについて何も知らないのが見え見えな顔ね」
うるさいっ。
「――いいわ。次に行きましょう。第2位」
愛は、
「ショパン。第2位は、フレデリック・ショパン」
と発表。
「メンデルスゾーンよりは……ポピュラーというか、キャッチーというか、なんというかだな」
おれがそうコメントした途端に、邪悪な流し目を送ってきて、
「まさに、『クラシック音楽を少しは知っているフリをしている』って状態ね、あなた」
う、うるせえよ。
かなり図星だから、『うるせえよ!』って言いたくなってきちまうだろーが。
「いかにも図星なご様子のアツマくんはおいといて、第1位!」
高らかに言ってから、
「1位は……モーツァルト。」
と、何故(なぜ)かシットリとした質感の声で、1位を発表。
――というか、
「おまえにしては、ベタ過ぎねえか?? モーツァルトとショパンのワンツーフィニッシュなんて」
「ちょっとっ。『ワンツーフィニッシュ』とか、競馬のレースみたいに言わないでよ」
「――本命寄りのワンツーフィニッシュだよな」
「わたしが言ってるコトに耳を貸さないつもり!?」
「おまえの仲睦(なかむつ)まじき先輩たる葉山むつみが、おまえに競馬の入れ知恵をして、入れ知恵されたおまえが、今度はおれに『影響』を与え……」
「え、『影響』って、なに、なんなの」
「敢えて答えないことにする☆」
「なぐるわよ!?!?」