【愛の◯◯】オムライスと古着

 

親友の久里香(くりか)とカフェで昼ごはんだ。

わたしも久里香もオムライスを注文した。

デミグラスソースとホワイトソースが一緒にかけられたオムライスが運ばれてきた。

卵はトロトロ。

食べてみる。

ソースが2つもかかっているのに全然クドくない。

中身は、ケチャップで薄く味がつけられたご飯。ご飯の味付けが絶妙で、デミグラスソースやホワイトソースと響き合っている。お米の炊き加減も申し分ない。

あっという間に食べ切ってしまった。

「よっぽどお腹すいてたんだね」

久里香に言われてしまった。

「ごめん、早食いで」

謝ると、

「いいんだよ、謝らなくたって」

と笑顔で言いながら、久里香はスプーンを口に運んでいく。

少し遅れてオムライスを食べ切った久里香は、

「もう一度食べたくなる味だったな。このお店入って正解だった」

「そうだね」

わたしは頷いて同意する。

「さて」

と言って久里香は、

「久しぶりに、ふたりだけで会えたコトだし」

と、微笑みをたたえながら、

「利比古くんの近況報告、あすかにお願いしたいな」

「なんで利比古くんなの。わたしの近況報告を後回しにする理由って」

「理由なんてないよ。オムライス食べたら、利比古くんの近況が真っ先に知りたくなったってだけ」

なにそれ。

「利比古くんなら、リアルに充実してるよ。わたしと同い年の娘(こ)とつきあってるし」

「川又ほのかちゃんだっけ?」

「そ。あんたはまだ会ったコト無いけど」

「その交際についてだけど」

久里香は微笑みを崩さず、

「あすかの立場からは、どう見えるのかなあ」

ドキン、と胸の奥が跳ねた。

立場ってなに? 久里香。

 

× × ×

 

誤魔化してしまった。

利比古くん絡みで、久里香にまだ言えていないコトが、幾つかある。

むやみに言えない◯◯だから、歯がゆい。

カフェから出て、街を歩いていた。

古着屋さんに向かっているのだった。

前をゆく久里香が、

「知りたいコトあってさー」

と言うから、

「なにを知りたいの」

と言うと、

「あんたと利比古くんだったら、どっちが上手にオムライスを調理できるのかなあ? って」

「唐突な」

「あすかは、お料理スキルで彼と張り合いたいタイプだよね。『利比古くんには負けたくない!!』って」

『負けたくない』という気持ちを持っているコトは確かだから、つらくなる。

だけど、

「彼は、まだまだだよ。わたしには、及ばない。以前と比べたら彼も、だいぶお料理上手くなってきてるけど」

「ふうん」

「わたし、南浦和のカフェレストランでバイト始めたでしょ? わたしだったら、あのお店のキッチンでオムライスが作れるけど、利比古くんだったら、作れないと思う」

「ふーーん」

「い、いきなり振り向かないでよ久里香……」

「あんたがそこまで料理の腕に自信を持てるようになったのって」

「分かるでしょ? おねーさんのおかげだよ」

「羽田愛さん。利比古くんの実のお姉さん。なんでもできるスゴいヒト」

「そーだよ。彼女がお料理するところを、長年見てきてるんだから……」

 

× × ×

 

古着を買った。

久里香がゴリ押ししたモノも買った中には混ざっている。

 

帰宅したら、時刻はちょうど午後3時30分。

古着を携えて階段を上がり、わたしの部屋に入っていく。

買った古着にさっそく着替えてみたい気分だった。

着たいトップスを選んだあとで、ドアの方を一瞥(いちべつ)する。

『利比古くんがノックしてきたらヤバい』

そんな気持ちが働いたのだ。

午前中だけ大学に行って、邸(ここ)に帰ってくる。お昼ごはんは帰ってから食べる。……今日の予定を彼はそう話していた。

彼は、高い確率で、自分のお部屋に居ると思う。

彼が彼の部屋から出てきて、着替えてる最中にドアをノックしてきたりしたら、最高に恥ずかしくなる。

選んだトップスを両手で持ちつつ、迷う。

迷った挙げ句、スマートフォンを手に取り、アプリを開き、

『利比古くん

 たぶん、2階の自分の部屋に居るよね?

 16:30になるまで、わたしの部屋をノックするのは我慢してくれないかな

 オネガイ

 理由は、探らないでくれたら、とても嬉しい』

と文字を打ち込み、送信する。

 

× × ×

 

フジファブリックの某楽曲じゃないけど、夕方5時のチャイムが響いていた。

わたしのお願い通りにしてくれた利比古くん。

彼は、わたしの部屋に入ってきたばっかり。

『あすかさんがあんなメッセージを送ってきたので、気になって、16時30分が過ぎたあとになって、ドアを叩きたくなってしまいました。夕食の時間はまだ先だし、ぼくの部屋に引きこもり続けるのも退屈なので……』

彼はそう話した。

理由をちゃんと言えていた。

「利比古くんってスゴいよね」

勉強机の縁(へり)を両手で持ちつつ立っているわたしは、体育座りのような姿勢の利比古くんを見下ろしながら、『スゴいよね』と言ってあげる。

「スゴい? どこがですか?」

「女子の部屋に入っていくのを躊躇(ためら)わなくなったじゃん」

「……人によります」

「じゃあ、わたしの部屋に入るのを躊躇わない理由って、なーに??」

「それを話してたら、日が沈んじゃいますよ。夕食を食べるのが遅くなっちゃう」

へえぇー。

「利比古くんにもいろいろ、『思うところ』があるんだねぇ」

「ぼくがなんにも考えてないと認識してたんですか。頭がカラッポなワケありませんから」

「そこまでいってない」

1つ年上の余裕で、上から目線で彼を見る。

こころなしか縮こまっているように見えた。

そんな彼に活(かつ)を入れたくて、

「わたしのこの服、今日古着屋さんで買ったモノなんだけどさ。どう思う、利比古くんは?」

「……もっと具体的には」

「わたしが、実年齢より何歳オトナに見えるか」

「エッ」

「わたし21歳になったばっかりだけど。24歳ぐらいに見えてくれたら嬉しいんだけどなー☆」