「ムラサキさん、今日は短縮版だそうです」
「おー」
「あんまり、悠長にしてるヒマは無いみたいですよ?」
「うおー」
「……『短縮版だ!』という自覚を持ってください」
「じゃあ、あんまり長々と喋れないね」
「そーゆーことです」
「あのさ、小百合さん」
「ハイ?」
「ぼくはね、最近ずっと、日本レコード大賞のデータブックを読み込んでたんだけど」
「日本レコード大賞って、あの日本レコード大賞ですか? 大晦日の前日にやってる」
「フフッ、昔は大晦日の前日じゃなくて、大晦日の当日に放送してたんだな」
「へー、そうだったんですか」
「え!? 初耳!?」
「驚き過ぎです」
「あのね、レコード大賞は、かつては、今とは比べ物にならないぐらい権威があったんだよ」
「ステータス的な?」
「そ。1970年代とかはね」
「でも、70年代の主流って歌謡曲ですよね」
「歌謡曲だとダメなの?」
「このサークルに入って色んな音楽を鑑賞してるんですけど、流石に昭和歌謡は……」
「まあ、無理に聴いてみる必要も無い。ぼくは、『研究』のために必要だから、Spotifyで、歌謡曲オンリーのプレイリストも作ったけど」
「ウワッ出た、出ちゃった、ムラサキさんの『研究癖(けんきゅうへき)』」
「『研究癖』って……造語?」
「ムラサキさん。レコード大賞に執着するのも良いんですが」
「んー?」
「わたしたち『MINT JAMS(ミント ジャムス)』も、年末に、『MINT JAMS大賞』を決めませんか」
「?? どうゆうこと」
「今年いちばん頑張ったサークル員に『大賞』をあげるんですよ。他にも、最優秀新人賞とか、『鑑賞態度が素晴らしかったで賞』とか、『音楽雑誌をよく読んでいたで賞』とか」
「面白いコト考えるねきみも」
「ムラサキさんみたいに知識をアタマに詰め込んでるだけでは無いですから。アタマの柔軟性です」
「厳しいね。でも、小百合さんらしいよ。『最優秀新人賞』は、決まりだね」
「ムラサキさんは、さしずめ……『ドン引きするほど音楽マニアだったで賞』、といったところでしょうか」
「マニアなの、ぼく。『オタク』とはよく言われるんだけど」
「オタクの『尊称』ですよ、『マニア』っていうのは」
「うれしいなぁ、『尊称』か〜」
「喜ぶのは年末まで待ってください」
「あ、ずいぶん乗り気なんだね、『MINT JAMS大賞』に」
「ムラサキさんにどんな賞が贈られるのか楽しみですよねっ!!」
「なーんか……ムカムカしてない? きみ」