【愛の◯◯】OBがまさかのあの男性(ヒト)

 

音楽鑑賞サークルの『MINT JAMS』に入会する理由ができたような気がする。

不純な理由、なのかもしれないけど。

昨日出会った、某自動車メーカー経営者ファミリーに仕えるメイドさんの「蜜柑さん」。

彼女の物腰の優雅さや、優雅でいて時にイタズラな部分を垣間見せるところが、眼に焼き付いて離れない。

さらに、蜜柑さんと『MINT JAMS』のリーダー的存在のムラサキさんとの関係性。

大学4年生男子なのに小柄・童顔・ボーイソプラノのムラサキさんと、彼より年上でファッショナブルでエレガントな蜜柑さんとの取り合わせ。

気になる。かなり気になる。

蜜柑さんとムラサキさんの◯◯な◯◯を深く知りたくならずにはいられない。

 

× × ×

 

だから、私は今日も学生会館1階のサークル部屋に来た。

 

「どうやら、川口さんは入会に前向きになってくれたみたいだね」

嬉しそうに言うムラサキさん。

「はい、前向きになりました」

CD棚の前に立って棚を眺めていた私だったが、ムラサキさんにクルリと振り向いて、

「今日は蜜柑さん来ないんですか?」

とズバズバッと言ってみる。

先制攻撃。

「そ、そ、そんなにきみ、蜜柑さんのコトが気になるの」

「私じゃなくたって気になりますよ。印象があまりにもヴィヴィッドで」

「そうかぁ……」

「で、蜜柑さんは??」

「き、きほん、彼女は来ないんだよ。昨日は『ぼくの落とし物を届けに来る』っていう目的があったからさ。昨日のはイレギュラー」

「それは残念」

「……」と狼狽(ろうばい)のムラサキさん。

「次に彼女と出会うのが楽しみです」とゆとりをもって言う私。

そしてそれから、

「ムラサキさん。PCでSpotifyにアクセスしてもいいですか?」

「どうぞご自由に……」

「このサークルのSpotifyはプレミアムなので助かります。私って意外とケチで、Spotifyは無料会員だし、ネトフリとかも使ってないんですよ」

 

× × ×

 

PCの前の椅子に腰掛け、サークル会員のだれかが作成したと思われるプレイリストを再生した。

聴き心地の良い曲が多い。聴き心地が良いってコトは、お気に入りの曲になりそうってコト。

ジャンルはノンジャンルだった。邦楽もあれば洋楽もある。J-POPもあればJ-ROCKもある。パンクもあればR&Bもある。アニメソングやジャズミュージックまで網羅している。

聴き入っていたら、

「今日はサークルのOBのヒトが来てくれるよ」

と背後からムラサキさんが。

『せっかく聴き入り始めてたのに……』と少しムッとするけど、「OB」というアルファベット2文字に気が引かれる。

「OB」ということは、男性だ。

私は、

「いったいお幾つぐらいのOBの方なんでしょうか?」

「ぼくより2つ上。だから、社会人2年目」

つまり、私より5つ上のオトコのヒト、か。

 

それから15分程度が経過した。

プレイリストがちょうど終わりを迎えた頃。

ノック音が鳴った。

 

× × ×

 

戸部アツマ

と紹介された瞬間に、とってもビックリして、

「あ、あのっ!! ……もしかして、私の高校で伝説になってる、スポーツ万能の、戸部アツマさんですか……!?」

「うおっ」

やって来たOBの彼は軽く驚いて、

「『伝説』は、まーだ『伝承』されてるんか……。厄介なこった」

と言い、後頭部をぽりぽりと搔く。

そうなのだ。あのアツマさんなのだ。伝説の伝承だけで、面識は今まで無かったけど。

「あのあのっ、妹さんの戸部あすかさんも、作文オリンピックだとかガールズバンドだとかで、アツマさんと同じく伝説を残していて……」

「アハハ」

アツマさんは陽気に、

「おれもそうだけど、あすかも到底『伝説』っつー器じゃないと思うがな」

「ひ、卑下しないでください。『伝説の戸部兄妹』は、確かに『伝説』なんですから」

ここでムラサキさんが、

「アツマさんはとっても頼りになる先輩で、ぼくがいちばん尊敬してるOBなんだ」

「ムラサキ、照れる照れる」

そこに私は焦り気味な口調で、

「わかります、わかります。アツマさん、実際に会ってみたら、想像を超えて頼もしそうで、それはどうしてかっていうと、あのその、とってもたくましく、見えるので……!!」

……言ってしまってから、後悔してしまった。

不用意なコトを、たぶん、言ってしまった。

実際に会った第一印象は、胸の内にしまっておくべきだった、のに。

もう後戻りできない。

後戻りできない流れに流されて、つい、

「私、前からアツマさんに会いたかったんですっ!!」

と、喚くがごとく打ち明けてしまう。

「えっマジ」

ほんの少し照れて微笑むアツマさん。

ムラサキさんとは対照的。大柄。

167センチの私より10センチ以上高い。

スポーツ万能で伝説を残したのも頷ける、「タフさ」を身にまとった見た目。

私より5歳年上で、世代に開きはあるけれど。

 

だけど。

だけど、だけど。

 

このサークルに入会する、大きな『理由』が……できちゃった。