とうとう両親が日本に戻ってきた。
さっそく、両親が暮らすことになる一軒家で、一家4人水入らず。
ダイニングテーブル。
わたしの右横に利比古。正面にお母さん。わたしから見てお母さんの右隣におとうさん。
お母さんがいきなり、
「さーて。これから利比古に、こっちでの愛の様子をレポートしてもらうとしましょーか」
ちょっとなにそれ。
普通の近況報告じゃなくて、利比古にわたしの様子を報告させる体裁?
お母さんはなにがしたいの……と訝しんでいたら、
「相変わらずアツマさんに攻撃的だよね」
と、いきなりとんでもない発言が、弟の口から……!
「あらあらまあまあ」
お母さんはとっても愉しそうに、
「せっかく『ふたり暮らし』のパートナーだっていうのに。利比古、愛の傍若無人ぶりを、詳しく聴かせてちょーだい?」
「お母さん!! 勝手にわたしを傍若無人キャラにしないでっ」
「す・る・わ・よ」
「お母さん……」
ラチがあかない。
おとうさんに顔を向けて、助け舟を出してもらおうとする。
だけど、利比古の始めた好き勝手な『姉語(がた)り』に、おとうさんは熱心に耳を傾けるばかり。
「お姉ちゃんは、アツマさんによく『エルボー』するんだ」
そんなこと言う必要ないでしょ利比古っ。
「まあ~、暴力的!!」とお母さん。
「オイオイ、愛、やり過ぎなんじゃないのか~~?」とおとうさんの苦笑い。
どうしてこんなに追い詰められなきゃいけないワケ……。
× × ×
「年下の男の子をもてあそぶ」という全く開示する必要のない情報まで、利比古は開示してしまった。
利比古。
ペナルティよ。
あとでたっぷりと罰ゲームなんだからね。
怒った姉はコワいのよ!?
おとうさんとお母さんが、座る席を交換した。
よって、わたしの真正面に、おとうさんが。
眼と眼が合った。
おとうさんと見つめ合いになった。
もちろん見つめ合いが長く続くことは無い。……わたしが照れちゃうから。
「愛」
「なあに……?? おとうさん」
「顔が赤いな」
「そ、そんなコト無いと思うわよ」
「当人は上手く自覚できんかもな」
「……」
「ハタチを過ぎても、そういう可愛さは、変わらないんだもんなあ」
じっとりと微笑のおとうさん。
「そ、そういうって、ど、どういう」
慌て気味に言うわたしだけど、
「なあ。クールダウンに散歩でもするか?」
と、突然の提案でぶった斬られてしまう。
「お散歩!? お散歩!?」
「おれの提案にテンパりまくってんなぁ」
「わ……わたし、おとうさんと、もっと話したくて」
「会話は散歩しながらでもできる!」
満面の笑顔で言うおとうさん。
言われてしまうわたし。
打開策、打開策……。
おとうさんと2人きりでお散歩なんて、クールダウンどころかヒートアップ状態になっちゃう。
別の方法で、クールダウンをして、それからおとうさんと、ちゃんと向き合いたい。
意を決してわたしは立ち上がった。
軽く両手をぱん、と叩いて、
「そ、そうだわ。わたし、みんなに夕ごはん作ってあげる!!」
しかし、わたしの宣言もむなしく、
「じゃあわたしも手伝うわ」
と、お母さんに横から言われてしまう。
わたしはお母さんに流し目。
ピリピリとした流し目になってしまう。
「え? 愛、わたしに手伝ってほしくないの」
「お母さんはゆっくりしててよ……」
流し目に続いて口調もピリピリとなってしまう、わたし。
対するお母さんは余裕いっぱいで、
「ヤダ。愛と一緒に作りたい。今日は愛ひとりに任せられない」
「どうして任せられないのっ」
「だって今日のあなた、なんだか危なっかしいし」
危なっかしい!?
危なっかしい!?!?
「どういう根拠なのよっ、3つ以上の具体例で説明してよっ!!」
「ヤーダ」
「あ、あのねえ……」
と、思わず右の拳を固く握りしめるわたしに、
「母の直感をナメたらダメよ。お父さんだってもう感づいてる。利比古だっておんなじよ」
という、追い打ち。
「愛」
そうわたしの名を呼んだのは、おとうさんのほう。
するり、と椅子から立ち上がるおとうさん。
わたしの横に歩み寄ってくるおとうさん。
怯えて、
「おとうさん、もしかして、お説教が……したいの」
と言って、1歩後ずさるけど、
「んなわけなかろう。怯えなくたっていい。そういう挙動が『危なっかしい』んだぞ?」
と、おとうさんは優しい笑顔で。
「あんまりおまえが危なっかしいから」
ゆっくりと両手をわたしに伸ばしてきて、
「こうするんだ」
と言いながら、ふんわりとわたしのカラダを包み込んでいく。
超久しぶりの感触。
おとうさんのカラダに、直(ジカ)に触れて。
ココロが洗われて、マイナスの感情が全て拭い去られていく。
「……おとうさぁん」
「なんだー」
「ダイスキッ」
「はははっ」
「ほんとうに、ダイスキッ」
「そう言ってくれるんなら――お母さんと共同作業、できるよな」
「うん。おとうさんの言うコトなら、なんでも聴く」
「嬉しい嬉しい。やっぱりおまえは世界でいちばんの娘だ」
「……」
「どーしたよ」
「おとうさんの胸、グリグリしてもいい?」
「ほほぉ」