「巧(たくみ)くん!」
「んっ? なに、なぎささん」
「明後日がなんの日か知ってるでしょ?」
「祝日」
「あーもうビミョーに違うっ」
「え」
「祝日の、名前っ!」
「あ」
「ちょっと!! ひらがな1文字の呟きを多用するのはやめて」
「えっ……『多用』って」
「わかるよね?? 明後日の祝日の名前」
「んーっと。成人の日か」
「はい正解。わたしたちに大いに関係がある日」
「ぼくもなぎささんも新成人だもんね」
「成人式、だけど」
「だけど?」
「わたしと巧くん、別々の成人式になっちゃう」
「それは仕方ないよ。住んでる自治体違うんだし」
「ねえ巧くん。こっちの住民には、なってくれないの」
「そ、そりゃムチャだ」
「巧くんがわたしの自治体に引っ越してきたら、一緒に成人式出られるのに!」
「いや……だいいち、手続きができないでしょ。土曜日だから、役所はたぶん閉まってる」
「役所に行ってみなきゃわかんないじゃないの。土曜でも手続きできるかもしれないし」
「……」
「どーしたの。下を向かないでよ」
「きみにはホントにかなわないよ」
「それで!?」
「い、一気に距離詰めないで」
「言っておくけど!! わたしと巧くんがそれぞれどの自治体に住んでるのか開示するのは、また今度ね!!」
「開示……する気なの?」
× × ×
「巧くんはシャンとしないね。何歳になっても」
「ごめんよ」
「背筋をもっと伸ばして」
「……こう?」
「まだ伸びてない」
「きびしい」
「厳しくもなる。カレシなんだから。」
「う」
「バカ!! そんなうろたえかたしないで!!」
「つ、掴みかかってくるのはNGだよ。そんなにぼくに迫ってこないで。公衆の面前なんだから」
「関係ない。いくら大型の某・レンタルショップに来てるからって」
「CDやDVD見ようよ。デートの主目的は、レアなCDやDVDを探すことだったでしょ」
「いま、巧くん『デート』って言った」
「……言ったね」
「デートだっていう自覚ならあるみたいね」
「そのぐらいは」
「わたし今日は、巧くんに全部任せるから」
「任せる?」
「スケジュール作って、紙に書いて持ってきたけど、破る」
「こ、こんなところで破かないで」
「『破る』はジョーダンだから。比喩、比喩。それぐらいカレシなら理解して」
「つまり……だ。きみが用意してきたスケジュールを、無しにするってことだよね」
「そー。巧くんがスケジュールを考える。巧くんの意思でスケジュールを決める」
「むずかしいな」
「自分で考えて、自分の意思で決めるの」
「うーーん」
「優柔不断過ぎるのはやめてよね?」
「わかった。
うーーむ。
うむうむ。
うむむ。
だったら――」
「……巧くん?」
「とりあえず、手をつなぐことからだな」
「!??!!?」
「――どうしてそんなにビックリするのやら」