初めて、巧くんが、わたしの家にやって来てくれた。
巧くんは、わたしの部屋で、わたしのコタツに入っている。
真向かいに、彼。
――いきなりだけど。
「巧くん。申し訳ないんだけど、きょうはやや短縮版なの」
「短縮版……?? やや……って??」
「あのね。きのうの、コタツでのサラちゃんとのやり取りで、時間を使いすぎてしまったの。だから、きょうの記事は、1400字程度でおさめざるを得ず……」
「……さっぱりきみの言っていることがわかんないよ」
「いずれわかるから。わたしについてきてくれればいい」
「北崎さんと、なにかあったの?」
「…ふふっ」
× × ×
「はい。気を取り直していきましょーね」
「…うん」
巧くんはうなずいてくれる。
うなずいたあと……キョロキョロと、わたしの部屋を見回す彼。
なんでそんなにキョロキョロするの。
キョロちゃんなの。
「なぎささん」
「?」
「本棚に、本が多いね」
「……そうかなあ?」
「さすが、なぎささんだね」
「さすがとか、照れるよ」
「――べつにいいだろ? 照れさせたって。」
おっ?
「珍しい自己主張、いただいちゃった」
「ぼくだって――積極的にいってみたいから。」
「いい心がけだね。…素直にそう思うよ」
「ありがとう、なぎささん」
「ただ……」
「ただ??」
わざとらしく首をかしげ、
「やっぱり、どーなんだろ? ――巧くんの、『なぎささん』っていう呼びかたは」
「エッ、『なぎささん』じゃ、ダメなの」
「ちょい、ぎこちない」
「そうだろうか…」
「…かといって、呼び捨てにされると、恥ずかしくなってきちゃう」
「……」
「……なぎさ『ちゃん』じゃダメ?」
「んーっ」
「巧くんは滑舌がそれほどいいわけじゃないじゃん? 『なぎささん』だと、『さ』がふたつ続いて、噛みそうじゃん」
「ちゃん付け、か……」
「どう思う? あなたに委ねるけど」
……彼は約2分間考えて、
「やっぱり、『なぎささん』って呼ぶの、続けるよ」
「そうですか…」
「…がっかり?」
「がっかりは、してない。『なぎささん』って呼び続けようとするのも……あなたの個性の内だよね」
「かもね。……よし、なぎささん、勉強に取りかかっていこうか」
「おーおー、やる気ねえ」
「きみもぼくも……がんばらなくっちゃ、だろ?」
「あなたとわたしだけじゃないよ」
「……みんな、か」
「そうだよ」
「やっぱりすごいよ、なぎささんは。そんなこと、なかなか言えないよ」
嬉しくて。
嬉しくて――、コタツのなかの脚を伸ばして、巧くんの脚に触れる。
「……!?!?」
「ゾクッとした? わたしの――スキンシップ。」
× × ×
「――きみってさ」
「ん?」
「いい性格なんだけど――いい性格のなかで、ちょっとだけイジワルな面があったりするよね」
「まあ、巧くんの指摘どおりかも」
教科書に書き込みを入れながら、
「それに比べると、あなたはイジワルなとこ皆無だよねえ。わたしにイジワルだったこと、この3年間で、いちどもなかった」
「ほんとうかなあ」
「ほんとうだよ!」
教科書から、視線を上げる。
それから、巧くんに対して、クスッと苦笑いする。
それからそれから、彼をじっくりと眺め始めがてら、
「巧くんも……もう少し、イジワルになっても、いいんだよ」
「……できないよ、ぼくは」
「そんなこと言わずに、考えてみなよ」
――いったん、息継ぎ。
そして、
「きょうの課題。わたしへのイタズラ、考えて」
「い、イタズラ……??」
「度胸試し。」