わたしの部屋。
サラちゃんといっしょにコタツに入っている。
サラちゃんは、わたしの右斜め前。
軽く、咳払いして、
「えーーっと、あらためて。…合格、おめでとう、サラちゃん。」
「ありがとう、なぎさ。」
「農学校時代に、クラーク博士が教えてた、国立大学……だよね」
「なんでそんなに回りくどく言うの」
苦笑いしてサラちゃんは、
「北海道大学、ってストレートに言えばいいでしょ」
…ここまで、いろいろあったサラちゃんだったけれど、見事ストレートで、北大に受かることができたわけだ。
めでたい。
「めでたいのはあんたもでしょ、なぎさ」
「…そうなんだよね」
「立教」
「そう」
「第一志望」
「うん」
「……愛のチカラ、か」
「!?」
サラちゃんは…面白がるような微笑みで、
「黒柳の恋人パワーが、背中を押した」
「そ、そんなんじゃないもん……。も、もし、そうだったとしても、背中を押したのは、巧くんのほうからだけじゃないし」
「――なるほどぉ」
「……」
「なぎさのほうからも、恋人パワーで、背中を押してあげたんだね☆」
うろたえて、壁時計を見て、
「た、巧くん、もうすぐ来ると思うよ!?
楽しみなんじゃないの!? サラちゃん。
彼を呼びたい、って言ったの、サラちゃんじゃん」
彼女は不敵に、
「楽しみに決まってるから。3人そろって、祝賀会だ」
× × ×
巧くんが来た。
巧くんは、わたしと真向かいにコタツに入った。
両方に眼を配って、サラちゃんがニヤついている。
両手で頬杖をつきつつ、サラちゃんは、
「黒柳。初めてでしょ、こんなシチュエーション」
かなり固まる巧くん…。
「ヘンな気起こしちゃダメだよ」
サラちゃんにしても、突拍子もないこと言って…。
「大丈夫だからサラちゃん。知ってるでしょ? 巧くん、根っからの草食系だって」
「アッハハ~~」
爆笑ぎみなサラちゃん。
巧くんが、縮こまっているように見える。
「――サラちゃん。頼みごとがあるの」
「なによ」
「ダイニングキッチンの場所、わかるでしょ?」
「わかるけど」
「お茶とミカンがあるから、持ってきてくれないかな」
「あー」
わたしの気持ちを察知したらしく、彼女は、
「まー、これはわたしの役目、だよねえ」
× × ×
サラちゃんが抜けた部屋。
コタツで、ふたりきり。
「もっとリラックスしようよ、巧くん」
「北崎さんのプレッシャーが……すごかった」
「サラちゃんなら、わたしが制御するから」
ね?
「――よかったよね。お互い、第一志望で、しかも現役合格。最高だよ」
「――そうだね」
「巧くん、存分に、やりたいことができるんじゃん。目標に着実に近づけるよね」
「きみだって」
「まあ…わたしは、これからの、これから」
柔らかく笑う巧くんが、
「……夢。夢、あるんでしょ?」
「……あるよ。」
「応援してあげるよ。陰ながら」
なんとも言えない気持ちになる。
なってしまう。
「か…陰ながら、は、余計かな」
とわたし。
「そっか。じゃあ、堂々と、応援する」
と巧くん。
いつの間にか、見つめ合っている。
…そんなところに、サラちゃんが舞い戻ってきて、
「やってる~~??」
と茶々を入れる。
「やってるって、なにかな? 北崎さん」
「んっ。黒柳が、強気だ」
「まっとうな話をしてただけなんだけどな、ぼくたち」
「けど、なぎさ、顔から微熱出してんじゃん」
「…気のせいじゃない? 北崎さんの」
「ゆ…ゆーよーになったねえ、あんたも」
「北崎さん」
「な…なにかな。まだ、なにかあるのかな。黒柳クン」
「ミカン、置いてよ、コタツの上に。
――コタツとくれば、ミカンだよね」
…たしかに。
コタツには、ミカン。
風流だ。