【愛の◯◯】ロングスカート

 

明日から夏休みだ。

大学に入ってから初めての夏休みだ。

レポート提出は無事に完了している。

休暇中の課題なども特に出ていない。

そして、大学生なので、休暇が9月下旬まで続くことになる!

まあもっとも、ぼくの入った「CM研」の先輩がたは、ぼくを休ませてくれそうには無い勢いなのだが。

 

あすかさんも同様に長期休暇突入である。

大学2年の夏休み。

人生でいちばんラクできる夏休み……といったところか。

でも、彼女も忙しいんだろうな。

多くの点で忙しかろう。

多くの点を具体的に挙げたりはしないが。

 

× × ×

 

さて、がらーんとした居間のソファで、ぼくはイヤホンも付けずにタブレット端末で音楽を再生していた。

すると、あすかさんがご登場。

ゆっくり過ぎるぐらいゆっくりした足取りで、ソファのぼくに近づいてくる。

ロングスカートを履いていた。

とても珍しい。

レアケース。

ぼくの姉と違って、あすかさんはこういうスカートを滅多に履かない。

こんなスタイルの流行が始まっているんだろうか。

『珍しいですね、ロングスカートなんて』とは言えない。

言ってはいけない

彼女のスカートに言及するのはNGだ。

言及した途端、急激に機嫌を悪くするに決まっているから。

彼女の怒りの炎上が飛び火してくるのが恐ろしい。

 

……さてさて、ぼくのソファの1メートル手前でピタッと立ち止まるやいなや、

「利比古くん、なんでイヤホン付けないの」

と言ってきた。

微妙に視線を逸らしながら、言ってきた。

「ぼく以外にだれもこの空間に居なかったからですよ」

「ふぅん……」

な、なんか、表情が意味深っぽくないか。

イヤな汗の粒が、ぼくの背中にジワリと……!

「今日はテンション高いね……」

「エッ。ぼくのことですか?」

「にぶい」

「やっぱりぼくのことですか。悪かったです、鈍くて」

「テンション高いのも、良くない……かもね」

「それは、高すぎるってことですか」

「――利比古くん」

「は、はい??」

「このロングスカート、どれくらいのお値段だったと思う」

「え??」

どれくらいのお値段と言われても。

まあ……5桁であるんだろうが。

しかしなぁ。

5桁にしたって、1万円台から9万円台まであるんだし。

ここは素直に、

「見当がつきません」

と言っておく。

そしたら、彼女はなんとロングスカートのポケットからメモパッドを取り出し、ぼくのソファの手前にあるテーブルまで移動し、置いてあったボールペンをつまみ上げ、

「見当つけてあげるよ」

と言いながら、メモ紙になにやら記入し始めた。

そして、差し出されるメモ帳。

それは、彼女の「情報開示」、ディスクロージャーで……。

 

× × ×

 

「流石はあすかさんですよね」

ソファ1つぶん開けて座っている彼女に言った。

ムカついた顔になり始める彼女。

マズい。

言いかたがマズかったのか!?

「それどーゆーいみ」

「え、えーと……ファッションに、惜(お)しみが無いというか、なんというか」

「ハッキリ言えばいーでしょっ。ロングスカートに8万もかけるなんて、飛んだ贅沢だって」

「えぇ……。ぼくには、あすかさんを揶揄する気なんて……」

「『ロングスカートに8万もかけるオンナは、どうかしてるんじゃないのか』って、そー思ったんじゃないのぉー??」

「……思ってませんよ。まず、ロングスカートの相場が分かんないので」

「ま、それはあるよね」

「……」

このブログの中の人だって、相場、ぜったい分かってないよ

 

こ、コラッ。

叱られたいんですか!? ぼくに……!!

あすかさんッ!!!