愛の部屋に来ている。
膨大な書が収められている本棚に眼をやりつつ、
「なあ」
と愛に言う。
「なあに? アツマくん」
ベッドに座って訊き返す愛に、
「おれたち、4月になったら、ふたり暮らしすることが確定したわけだが」
「うん」
「ふたり暮らしする上で、ひとつ提案があるわけだ」
「提案? なに??」
「読書会をやらないか」
愛は眼を見張り、
「読書会!?」
「ああ、読書会だ」
「本を読む会……のことよね」
「そーだよ」
「どういう風の吹き回しで……」
動揺する愛の顔に優しく眼を向けて、
「社会人になって、本を読まなくなっちまうのも、どうかと思ってさ。もっとも、元々そんなに読書量多いわけでもないんだが」
約20秒間おれを凝視してから、
「読書を習慣にしたい……ってことね」
と言う愛。
「あなたの意欲とは到底思えない、素晴らしい意欲だけど」
なんだそれ。
「……どういう形式の読書会にするの?」
あー。
そこな。
「同じテキストを読んで、感想を言い合うの?」
「まあ、それが一般的な形式なんだろうが。おれ的には、それじゃあつまんない」
「だったら、どういう……」
「夜、1時間ぐらい、『読書タイム』を設ける」
「それで?」
「同じ空間で、おれとおまえが、ひたすら本を読み続ける時間にする。読む本は、別々でいい。好きな本を読む。ただし、『読書タイム』のあいだは、読書以外のことをしてはいけない」
愛は疑問有りげな顔で、
「そういうのって、果たして『読書会』っていえるのかしら」
「いえる」
「ご、強引に断言しないで」
「読みっ放しじゃなくってさ」
おれは言う。
「週に1度、お互いに報告をするんだ」
「報告?」
「『今週はこんな本を読んで、こういうことを思ったよ~』的なことを、お互いに言い合う」
押し黙る愛。
おれの提案を受けて、なにかしら考え込んでいる感じだ。
約5分近く経過する。
いきなりベッドから立ち上がった愛。
本棚のすぐ近くに居るおれにどんどん近づいてくる。
本棚から本を1冊抜き出し、床座りになる。
おれの背中に自分の背中をくっつける。
どうした。
「アツマくん」
「なんだよ」
恐らく、おれに背中をひっつけながら、本のページをめくっていると思われる愛は、
「言ったからには。言ったからには……サボっちゃダメよ」
「読書を、か」
「そう」
愛は、
「例えば、あなたが1週間、読書をサボったら……3日間、晩ごはんを作ってあげないんだからね?!」
――1週間のサボりにつき、3日間かよ。
良くわからん基準だな。
でも、
「わかったよ。おまえに美味しい晩ごはんを作ってもらうためにも、読書、がんばるから」
と、言ってやる。